白鳥王子に名乗り出る
黒川といっしょに2年の階に上がって恐る恐る様子を伺うと、廊下の一番奥、図書室前に白鳥くんがいた。白鳥くんは壁のレポートを順に眺めていた。
「もう5組まで来たのかよ」
2年5組は私と黒川のクラスだ。一斉掲示で場所が足りなくて端っこクラスの5組のレポートは図書室前に貼られていた。
私たちはいったん引き返し、大回りして白鳥くんの死角になる別階段から距離を詰める。白鳥くんは掲示の前をゆっくりと少しずつ横に移動していたが、ふいに立ち止まった。
「あのへん、私のレポート貼ってあるとこ」
私と黒川は姿勢を低くして、こそこそと階段柱の影に隠れながら、白鳥くんの挙動に目を凝らす。
「桃井、ちなみにどんなレポート書いたの?」
「『アドリア海の針穴 〜世界一短い海岸線はここだ!〜』っていう……」
「へぇなんか面白そう。俺も後で読もうかな?」
「GoogleMap貼り付けて感想書いただけだけど」
このレポート課題、みんな適当にやってるかと思ったら力作揃いで、掲示したときは肩身が狭かった。
「黒川は?どんなのにした?」
「なんだっけな……あ、やばい、俺まだ出してない」
今はそんな場合ではないのに、緊張感から私と黒川はそうやって呑気な会話を交わした。現実逃避である。
その間も白鳥くんは私のレポートが貼ってあるあたりで、ずっと動かなかった。きっと私の字だってバレたんだ。
次第に胸が詰まったような、息苦しいような感覚に陥った。
「ねぇ黒川はもうバレてるの?」
「いや、すぐ切り出せなくて。着替え終わった時に白鳥に声かけたんだけど、白鳥さっさと部室出ちゃって言えてない。ごめん」
「そう」
黒川と白鳥くんは同じ部活の仲間だ。白鳥くんほど上手くはないんだろうけど、野球バカの黒川が毎日頑張ってきたのも嫌というほど知っている。名乗り出たら、これから黒川は野球部で針のムシロだろう。練習にも影響が出るかもしれない。
それに黒川は悪いなりにも高橋くんとやらを助ける名分があった。けど私はただ黒川にのぼせて、いい顔しようとして、ヨコシマな気持ちで嘘告白を手伝った。
不純な動機を贖罪したい気持ちもあったし、黒川のことがバレてないのなら、私一人で被るほうが丸く収まると思った。
「黒川、あんた今回のこと黙ってて。私、白鳥くんのとこ行ってくる」
立ち上がった私を黒川が小声で何度も止めたが、「ちょっと黙ってて」とそれを制止する。柱の陰から一歩踏み出すと、私は白鳥くんのほうへ歩き出した。
◇
次回、最終話です。




