犯人探し
「桃井どうしよう」
登校すると、昇降口にいた黒川が私めがけて走ってきて、片腕を組み、生徒があまり来ない資料室前まで私を引っ張っていった。腕を組まれて私は頭が真っ白になった。まだ夏服だから、黒川の日焼けした素肌が、インドアな私のなまっちろい肌に直接触れている。でも黒川はそんなのお構いなしなくらい、テンパっていた。
人気のない場所までくると私の腕に腕を絡ませたまま、黒川は私を振り返って、ぐるぐると目を泳がせた。
「黒川、腕」
「あ、ごめん」
黒川はパッと腕をほどいて私と向き直る。
「どうしたの」
私は黒川に向き直る。十中八九、あの嘘告白がらみだろう。
偽のラブレターは一昨日の夜に書き上げて、昨日の昼に教室で黒川へこっそり渡した。使われたのなら、昨日の夕方か今朝だ。
「白鳥が犯人探ししてる」
「えっ」
「あいつ今、各クラスの掲示物、見て回ってるんだよ!」
「え……」
ちょうど夏休み明けで、夏の課題レポートの掲示があった。全学年必須だから今なら見事に校内全員の筆跡が揃っているわけだ。
他学年の階まで課題を見に行くのはちょっと不自然だけど、きっと先生の目には勉強熱心な白鳥くんの姿が映っているのだろう。その手には、あの手紙が入った封筒があるのだという。作成者が私だとバレるのも時間の問題だってことだ。
「俺のせいでごめん」
「いや、黒川は黒川で罪あるけど、ちゃんと断らなかった私が悪い」
「桃井は断ってたよ」
「でも最終的に書いたもん、私が」
「桃井ィ……」
黒川はいつになくしょげていた。
「白鳥なら、笑って済ませてくれると思ったんだ」
黒川はポツポツと話し始めた。
「最初、ターゲットは1年の高橋だったんだ。ちょっと小柄で内気な感じの。不登校にさせちゃおうぜ、みたいな悪ノリの雰囲気になっててさ。だから、たまたま聞いちゃった俺が、それより白鳥にしたほうが面白いんじゃないですかって先輩に口挟んじゃったんだ」
黒川らしいと思った。教室にいる黒川ならふつうに止めただろう。けれど、上級生を止めたいなら何か差し出さなければならない、そういう野球部の歪んだ空気も正直わかる。
「でも、白鳥だって、そりゃ怒るよな」
輪をかけてしょんぼりする黒川に私は声をかける。
「まあドッキリでしたーなんて言われたらね……」
「あ、ドッキリって言ってない」
「は?」
「言える雰囲気じゃなかったんだ」
「ねぇどうやって渡したの」
「ロッカーに入れといた。下から差し込んで。朝練の途中に。あいつピッチャーだし、いま練習メニュー違うからさ」
「それ読んでた?」
「うん、練習終わってロッカー開けて、その場で読んでた。桃井、業務連絡みたいな封筒に入れてたろ?」
そうだった。便箋はかろうじてあったけど、封筒がなくて、まあこれでいいかと思って家にあった細長い茶封筒にしてしまったんだった。
「俺も受け取ったとき、この封筒はどうかと思ったんだけど」
「思ったんなら言ってよ」
「そのほうがドッキリって、言い易いかなと思ってさ」
黒川でも言いづらいとか思うんだ。まあ言いづらいか、こんなの。
「それで読み終わった白鳥が、『これ誰がやった嫌がらせ?』って言ったんだ。いつもと全然違う、めちゃくちゃこわい声で。先輩たちも何も言えなくなって、部室がしーんとなって。それで、ドッキリ言い出しっぺの先輩が『よくわかんないけど誰だぁ、嫌がらせはよくないぞぉ!』とか言い出して、俺売られちゃって」
「たぶん、今回、俺と黒川で被ることになる。ごめん」
「は……ははは」
この最悪な状況でも、私は黒川といっしょに罪を償う、というシチュエーションにまんざらでもなかった。白鳥王子の人気は絶大だ。クラスの女子からお弁当グループもハブられるかもしれない。そしたら黒川は私といっしょに屋上あたりで食べてくれるだろうか。
でも白鳥くんはなぜすぐに、それが嫌がらせとわかったんだろう。




