丸投げされたラブレター
私は、便箋の前でずっと唸っていた。
黒川から頼まれた嘘告白用の手紙の文面をああでもないこうでもないと考えていた。家に帰ってから夕食もとらず部屋に篭りきりの私を心配して、お母さんは夜食まで作ってくれた。
温かいおにぎりとスープに罪悪感が湧き上がってくる。
文面どうする?と黒川に聞いたら「まかせる!桃井なら信用できるから!」と言って、黒くてでっかいバッグを肩に背負い、さっさと部活の自主練に行ってしまった。
それは信用ではなく、丸投げというんだ。私は何度目かとも分からないため息をつく。
白鳥くんでしょう。喋ったこともないや。
白鳥くんは学年でもイケメンで有名だが、野球部のエースでもある。1年どころか3年の先輩にもファンは多い。それをやっかまれて嘘告白することになったのだろうか。
白鳥くん狙いの友だちといっしょに野球部の練習を見に行ったことも何度かある。でも私が目で追っていたのは黒川だ。白鳥くんはポジションもうろ覚えだ。どっかにはいたと思うけど。あれ、エースってピッチャーのことだっけ。
黒川は外野のレフト。内野だったらもっとそれとなく見れたのに。だからレフトに打球が飛んだとき、私は球を追うふりをしてずっと黒川の姿ばかり目の端に入れていた。
まったく筆が進まないので、私は考える。とりあえず、白鳥くんのことは忘れて黒川に手紙を書いてみようか。練習で。私は便箋に黒川への思いを綴り始めた。幸運にも2年間クラスが同じだった。私の高校生活のほとんどに黒川が存在した。書くことはたくさんあった。
私は思い出す。1年のとき、ポツンとしていた私に声をかけてくれたこと。消しゴム忘れたと言ったらいきなり定規で消しゴムを半分に割って、ひとつくれたこと。林間学校で同じ班の女子の荷物を全部持ってくれたこと。誰もやりたがらない美化委員に手を挙げたこと。
まだまだたくさんあった。それを文字に起こしていく。
これだけ見るとすごい良いヤツじゃん。
私は黒川のダメなところも探してみる。なんかいつもモテたがっていること。すぐ安請け合いするから、文化祭のクラスの出し物が間に合わず徹夜になってしまったこと。足がめちゃくちゃ速いけど、あんまり泳げないこと。
私に他の男子へのラブレターを書かせること。
それから、私の手紙はようやく告白のくだりまできた。
ずっとずっと好きでした。
付き合いたいとか、身の程知らずなことは考えていません。
でもあなたのことをずっと好きだった私がいることを知ってほしくて、この手紙を書きました。
県大会がんばってください。
これは私の本心だった。
あれ、これ白鳥くんにもそのまま使えそうじゃないか?
私は鉛筆を置くと、最後の告白の部分だけレターセットから切り取って、畳んで封筒に入れて、のりでしっかりと封をする。
「できた」
偽のラブレターを通学リュックにしまい込む。大仕事を終えて肩の荷が降りた私は、ベッドに雪崩れ込み、そのまま朝まで眠ってしまった。




