嘘告白に使う手紙を書いてくれと頼まれました
「えっ、嘘告白用の手紙を私が書くの?」
前から馬鹿な男子だと思っていたが、ここまでとは思わなかった。私、桃井七海はクラスメイトの黒川悠斗のへらへらした顔に、心底呆れた果てた。
放課後の空き教室に1人呼び出されたので何事かと思いきや、黒川曰く【ドッキリ】の相談だった。
ターゲットに嘘の告白の手紙を読ませ、そのリアクションを楽しみ、相手が本気にしたところで、ドッキリ企画でしたー、と本人にバラすのだそうだ。
「だって男が手紙を書いたら字でわかるだろ」
そういう問題じゃない。
「書かないよ、書くわけないじゃん」
「えー困るよ」
何が困る、だ。
「俺、書いてくれる女子にアテがあるって言っちゃった」
「そんなの知らないよ」
「俺、桃井以外に女の友達いないからさー、な? お願い」
黒川は両手をあわせて、机の上でおがむポーズをする。
本当にこいつ終わってると思う反面、その言葉に少しだけホッとした。黒川は私の他に、仲の良い女子はいないんだ。
「やらないよ? やらないけど聞いていい? 一体それ誰に出すの」
「白鳥」
私はそれを聞いて、さらに困惑する。白鳥くんは学年イチのモテ男である。
「白鳥王子に出してもドッキリにならないじゃん……」
「お前も白鳥のこと王子とか呼んでんの」
黒川は、ケッと面白くなさそうに変顔をした。モテない男のひがみである。モテないから目の前の女子、つまりは私の恋心にミリほども気づかない。
「私が書かなかったら誰が書くの」
「俺が書くんだろうな……」
私はぷっと吹き出してしまった。
その緩みに目をつけ、黒川は机から身を乗り出してきた。黒川の日焼けした精悍な顔が近づいてくる。私と黒川の物理的距離は入学してからの1年半で今、最も近かった。
「ほんと、部活の先輩が企画しててさ、断れないんだよ。なんとか助けると思って……な? 白鳥だったらイジメじゃなくてギャグになんだろ?」
「野球部終わってんね」
私の軽蔑の視線をものともせず、黒川はさらに顔を近づけてきた。これは内緒話の距離だ。
「桃井、お願い」
私の好きな人は馬鹿でお調子者で、女心に疎くて……なんでこんなヤツのこと好きになっちゃったんだろう。
「ああもう……1回だけだからね」
「桃井様!!」
そう言うと、なんと黒川は私の手を握ってきた。私は全身が痺れて硬直する。
こんな嫌がらせに加担して、私も相当な大馬鹿者だった。




