#06 わからないことはすぐ聞くこと
「ルカ、あなたが政に興味が無いことはわかっていましたが……ここまでとは思っていませんでしたよ」
「ハイ……モウシワケアリマセン オカアサマ……」
齢28歳、異世界で行き遅れの女ことルカ・モスウッド。
母に頭をはたかれ、絶賛説教中でございます。
<#06 わからないことはすぐ聞くこと>
「このホワイト王国には第一王子セレスティン・ホワイト様がいらっしゃいます」
「存じております」
「結構。ではその血縁に、もうお一方王子がいらっしゃることは?」
「もう一人……?」
はて、王子がふたりとは。チートコードが上手く作動しなかったのだろうか?いくら頭を整理してもそんな情報は出てこず、首を傾げる。
「はぁ……第一王子のお父上、つまりブリオン国王陛下がいらっしゃいますが……陛下の前には兄君であらせられるトロイ・ホワイト国王がこの国を治められていたのです。
もうお一方の王子とはそのご子息……ローワン様のことよ。」
「ローワン様……」
本当に何も思い当たらないが……しかし、手紙に書かれたサインは“ローワン・アシュフォード”。……アシュフォード?
「お母様」
「なんですか、ルカ」
「アシュフォード家は王家と親交の薄い公爵家だったと記憶しています」
「ええ、そうですね。」
「……」
なるほど……少々面倒な家庭環境らしい。
自分の息子を差し置いて、先代……兄の息子が王位を継承するのは阻止したいのだろう。アシュフォード家といえば確か……公爵の爵位を持つにも関わらず、辺境伯と同じほど王の城から離れた森に住まう一族だったはず。公爵とは名ばかりの一族の元に兄の息子を辺境地に追いやったのか。
……より確実に王政に関わらないようにしたいなら、もっと爵位を下げるなり何か罪を被せるなりすればいいのに。そう思った私は不敬で殺されるだろうか。
「さて、状況は理解できたようですね」
「……ですがなぜそのような方が私に会いたいと……?」
「そればかりはわかりません。……ですが我々男爵家が易々と公爵家の頼みを断れる立場でないことくらいは、あなたもわかるでしょう」
「……。」
ああなんて縦社旗……まあ、立場に左右される職場で働いてきた身なのでこんなのは慣れっこだが……。
「アシュフォード公爵の訪問まで時間が無いわ。急ぎ準備を。」
「そんなにすぐいらっしゃるのですか」
「その手紙を持ってきた使いの者が、本日の夕刻でどうかと」
「……あのお言葉ですが、それは手紙の意味があるのですか……?」
「……」
「(おっ……とこれはご立腹か?)」
扇子で口元を隠し目元のみで笑う母。
……突然の訪問など私の職場ではよくあることだった。うちの課は中々特殊だったため難癖つけようとする輩が一定数いて。
監査きどりで部屋を訪れては嫌味ったらしく説教を垂れ、やれ高慢な役職だの管理体制がなっていないだの好き勝手言っていく。それがまた厄介な議員の息子だったりするもんだから、一挙手一投足がこの課の存亡や待遇を左右する。だから課長はよく胃を痛めていたし、年々髪が薄くなっていた。エアコンの風でなびく髪たち……あればかりは可哀想だと思ったものだ……。
「さ、時間がありません。急ぎ支度を。」
「ママ、私は何を…」
「あなたはいつも通り公務をなさってください」
「はい……」
「ルカ様、お召し物を変えましょう」
「わかりました」
何を期待していたのか、しゅんと項垂れる父を横目に私とメイドの女性は自室へと向かう。
ローワン・アシュフォード……何が目的で私の元を訪れるのか。何はともあれ、なるべく穏便に済ませよう。私の完璧な独身貴族人生を邪魔されてはたまったものではない。
目指せ、毒にも薬にもならない男爵令嬢。ようこそ私の第二の人生。
・
……で、誰だ。あんな盛大なフラグを立てやがった馬鹿な女は。
「アシュフォード公爵!お待ちしておりました、私は……」
「モスウッド男爵。此度は突然の訪問にも関わらず快く迎えて頂き感謝いたします」
「あ、はは……」
「(…まずい)」
王族から公爵家になられたとはいえ、高貴な生まれであることには変わりない。従者も男爵などという爵位の底辺よりずっと位が上のようで、父は完璧に萎縮していた。大丈夫なのかこの父上。仮の父ながら情けなくてちょっと頭を抱えたくなる。
「それでそちらが……」
ちらりと私を見た従者。糸目の、長い茶髪を三つ編みにしたその胡散臭さを具現化したような男はにこやかに口元を緩めている。いや、そんなんで全然警戒心溶けないからな。真っ先に敵認定の要素が盛りだくさんすぎて何かの局面で絶体絶命の状況になってようやく本性見えるやつ。嫌いでは無いが、リアルだと関わり合いにはなりたくないタイプだ。
「お初にお目にかかります。モスウッド男爵が娘、ルカ・モスウッドでございます」
緩く裾を上げるようにして礼をする。こういう小さな所作は最初の/inputで履修済み。おおよそ頭で描いている通りに動けば、完璧ではなくとも問題のない所作にはなっているだろう。
「……」
「……?」
視線を感じ、ちらりとそちらを盗み見る。するとそこには影を切り取ったような、全身を黒で被った男がこちらをじっと見ていた。
……なんだ。なにかまずったか?両親の方を見れば特に何も気にした様子はない。…ただガンつけられてるだけか?下の身分の女にメンチ切らないで欲しいんだが。権力でも力でも負けている自信がある。
「顔を上げよ」
どこかで聞いた声だ。堅苦しくて他人を寄せ付けない、見た目より意外と低めの……うーん……
「——カ……ルカ!」
「!」
「行きますよ」
母に窘められ、慌てて後ろを着いていく。
でもどっかで聞いたことあるんだよなぁ……そんなことを考えているうちに、広くない我が家に一室ある応接間にたどり着いた。
・
「男爵、男爵夫人。大変申し訳ありませんが、主は御息女とお話をされたいと。」
「わ……わかりました」
部屋につくなり、この家の主夫妻に部屋を出ろと言う従者。……それなら到着したときに言えばよかったのでは。無駄に歩かせて何をしたいんだこいつらは。
「ルカ、失礼のないようにね」
「はい父上」
失礼って言ったってな……こちとら呼び出される理由もよくわからないし、そもそもこの人のことは母から教えられた以上の情報を持っていない。そんな状態で何を話せばいいのか。いい天気っすねーって?今日曇りだし話し広がらんて。お日柄も良くねぇよ急に当日尋ねられてんだから。
「……」
「……」
新卒時代の面接よろしく、上座に座るローワン公爵を立ったまま眺める。
「ルカ様、どうぞおかけになってください」
「失礼いたします」
装飾が華美でないとはいえ、ふわりと広がったスカートの扱いは中々難しい。なるべく自然に折りたたむようにして掴み座れば、じっとこちらを見る薄紫の目。……あれ、この目の色、どこかで……
「単刀直入に言おう
私と、婚約してくれ」
「……はぁ?」
ビシ、と固まった部屋の空気。
何がおきたかはわからないが、ただ確実に、私は目の前の男に嫌悪感をむき出しにしてしまっていた。
ちょこっとガラが悪いだけです。
260722 先代王の名前修正と、口調など軽微な修正を行いました




