#58 過去の経験を活かすこと
「いいか、今日の調査は大所帯だ。気を抜いて襲われるなよ!常に背後を誰かが守るように警戒して進め!」
「「はっ!」」
一斉に返事をする兵士たち。その中にはバルやグラク、キアラも混ざっており、ルカはそんな彼ら彼女らの様子を見て微笑ましく思う。
「(昔やったなぁ、敵情視察訓練)」
左腕に無いコンソールの重み。
ルカは自分の前後に配置された兵士たちと共に、森へ足を踏み入れるのだった。
<#58 過去の経験を活かすこと>
『23番!後れを取るな!』
『はい!』
異世界観測中、戦争が起こることもあれば、天災に見舞われることもある。そして観測しているということは転移者による資源の大量使用が起こる可能性だってある。
そうなった時、迅速に対応するのが異世界管理課の職員。だからこそ不屈の精神としぶとい生命力を求められた。
『何をチンタラしてる!あんな移動速度では死んでるぞ!』
『申し訳ありません!』
『罰として1km匍匐前進!終わるまで部屋に戻るなよ!』
『はい!』
雨が降る中、寒さに震えながら言われた通り訓練場を匍匐前進で這いずり回って、終わったころにはもう日が沈んで、夕食の時間も過ぎてて……
『大丈夫?』
『……はい、問題ありません』
『……これ食べて。私のお菓子でよければ』
『そんな、受け取れません……』
『いいから!元の世界で手を差し伸べられない人が、異世界の人にやさしくできるわけないじゃない』
『……ありがとうございます』
・
「(結局あの先輩とはその後全然会わなかったんだよな)」
傘をさしてて顔は見えなかった。体格からして男の人だったのは覚えてるけど……にしてもやたらと線の細い人だったな。事務方にはいないし……もうやめてしまったんだろうか?
「——、カ様?ルカ様!」
「!……どうしましたか、キアラ」
気づかないうちに随分森の奥へ進んでいたらしい。周囲を見れば、以前エルマの実を取った時よりもさらに奥へ来たらしく、木々によって日の光が随分遮られている。
「大丈夫ですか……?休憩をはさみますか?」
「いえ……ここまで入ったことは無かったので、こんなに大きいのかと驚いていました」
「ルカ様が……驚く……!?」
ええ!?と大げさに反応を示したキアラ。ルカはそれに怪訝な顔をする。
「キアラ、何が言いたいんですか?喧嘩なら買いますよ?」
「ちがっ違うんですルカ様!今のは決して罵倒ではなくて!」
「……いや、今のは完全に悪口だろ」
「グラク!あなたは黙っていてください!」
「(始まった……)」
ぎゃいのぎゃいのと騒ぐ二人。ルカは黙ってそれを見ているが、後ろではドレイクとバルがその声量に目を光らせている。
「ルカ様誤解しないでください!私はルカ様にも知らないことがおありなんだと驚いたのです!」
「博識ではありませんよ私は……」
「でも語学にご堪能じゃありませんか……!」
「それだけですよ。買い被りです」
「やーい、たしなめられてやんの」
「グラク~~~~!!!」
「やかましい!」
ボコッと軽くない音が、キアラとグラクの頭から鳴る。それは後ろの保護者達からの鉄槌によるもので、一気に二人は押し黙り同じような体勢で頭をおさえている。
「森に入る前に気を引き締めろと言っただろ!敵陣のど真ん中で騒ぐ奴があるか!」
「うう……ずびばぜん……」
「親父まで殴ることねぇだろ……!」
「お前が助長したんだろ」
全く、とため息を吐くバルをグラクは睨みつけるが、見せつけられた拳を見てぐっと押し黙る。
「……ところで魔の者の住処はわかっているんですか?」
「出現場所は大体絞ったんだが、いつもどこにいるかまではわからねぇんだ」
「今向かっているのは出現場所ですか」
「そうだ。……あのあたり見えるか?」
ドレイクが指した先。少し空間が広がっており、ルカはその場所に見覚えが少しあるような気がした。
詳しい木々の配置までは覚えていないが……でも恐らくここは、ルカが初めて魔の者と接触したあの場所だ。地面を見ればまだ血だまりの跡があり、ルカは眉を顰める。
「さすがに近寄るのは危険だ、ルカ様はここに……
って、おい!どこ行くんだ!」
ルカは躊躇なくその血だまりへと歩いて近づく。土に吸われきらなかったそれは妙な光沢を持っており、あの時対峙した魔の者の形相が脳裏をちらつく。
「おい戻れ!」
「……大丈夫ですよ、出てきたらそれはそれで収穫ですし……」
すっとしゃがみこみ、ルカはその血だまりがあったであろう場所に手を当てる。
小さな小指の爪ほどの金属片。入念な調査が行われていたにも関わらず放置されたそれはあまりにも不自然で、素知らぬ顔をしてそれを自身のポケットにしまい込む。
「何か手がかりがあるかもしれません。ここを中心に探索しましょう」
コンソールの装飾に使われているものに酷似した、真鍮のような石……。
ルカは得意の無表情を張り付けたまま、ドレイクたちに声をかけたのだった。




