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#48 成果に自惚れないこと

「あ、アシュフォード邸!?」


 悪党の根城ではないのか。そう言いたげな少女を前に、ルカは目線を逸らし気まずそうにする。


「そういえばお洋服もすごくきれい……」

「……お見苦しいところを、失礼しました」


 変人だの野蛮人だのとは言われても、殺さないでと懇願されたのは初めてだな……

 ルカは、なんだか自分の評価に悲しくなった。




<#48 成果に自惚れないこと>




「体調はどうですか?お腹は空いていませんか」

「体は何とも……あ、でもお腹は空いたかも……」


 長い間眠っていた分、栄養は足りないはずだ。ルカは食器の並ぶ戸棚から手際よく小鍋(ミルクパン)を取り出す。


 

「グラク、バル。厨房から牛乳とパンをいただいてきてください」

「「はっ」」


 先ほどの制裁が効いたか、二人は今まで見てきた中で一番俊敏な動きで部屋を去っていった。

 それを見届けて、ルカは手に持っていた鍋を専用の台に置く。

 カセットコンロの上部を抜いてきたようなそれは、この世界での携帯コンロ。火元のある場所には魔石を仕込む空間があり、ころんと入れられた魔石が魔力の供給をじっと待っている。



 「(本当は重めの粥でも作ってやりたいところではあるけど……)」


 まずは状況を確認しなくては。ルカは座り慣れたベッドサイドの椅子に腰かけ、少女に目を向けた。



 

「……私はルカと申します。お名前を伺っても?」

「あ……え、えっと……」



 危機管理能力はあるのか、名乗れというと少女の表情は陰りを見せる。ここで「もうわかっている」なんて脅してみてもいいのだが……1度首を絞められているルカもまた、彼女の突発的な行動力を警戒している。



「言いたくありませんか?」

「……」

「では、なんと呼(・)ば(・)れ(・)た(・)い(・)ですか」

「……え」



 目を見開く少女。ふざけているようには見えないルカの真剣な表情は、余計少女を困惑させる。



「……いいんですか?」

「無理に聞くつもりはありませんから」


 どうせ自分の立場はすでに危ういのだ。今更妙な時間稼ぎをされたところで状況は好転しない。だったら時間をかけてでも、確実な情報を得た方がいい。

 そうルカが腹をくくる間、悩ましげに少女は唸る。

 さてどう出るか……ルカがおおよそ話の道筋を立てていると、予想外な反応が帰ってきた。




「……私は、ヴァレリー・アレキサンドリアです」

「!」



 まさか、素直に答えるとは。偽名を使われた方がむしろ……とルカは思うが、知ってしまったのなら話は早い。



「では……“沢下ユイ”……この名前に聞き覚えは?」

「!!」

 

 

「(ようやく)」




 この世界に来て半年もとうに過ぎ、やっとの思いで見つけた監視対象との繋がり。

 そして目の前に現れた少女はあまりにも長い時間をこの世界で過ごしており、命の危機にすら瀕していた。


 それを見つけられたのはひとえに、カリーナ・ホメオ公爵令嬢のお陰である。そしてそんな彼女との関わりがあったローワン・アシュフォード公爵……彼のおかげとも言えるだろう。



 コンソールが壊れた時は、本当にどうしようかと思った。

 任務続行はほとんど不可能。進捗を伝えることも、指示を仰ぐこともできない中よくやったと思う。なにせこの世界にとっての“特殊分子”を見つけられたのだ、あとは彼女と魔素増加の因果関係があるかどうかを確認して……




「やっぱり……



 あの子が言ってた通りだ、私た(・)ち(・)以外にも……

 この世界に転移者がいるって」

 

「……は?」





 ルカの頭を駆け巡っていた走馬灯のようなこれまでの苦労が、ぱっと霧散する。


 追い求めた少女が放った言葉は、ルカの想定を遥かに超えるものだった。

 

 

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