#13 研鑽を惜しまないこと
「尋問されたらどうしよう」
すみません、正直強がりました。
全然監禁も尋問も嫌です。
痛いことは嫌なのでどうか真に受けないでください。
<#13 研鑽を惜しまないこと>
第二の人生を歩むと決めてから数日。婚約初日以降ローワン公爵に呼ばれることもなく、実質軟禁……というかひきこもり生活を送っている。
キアラは最初の明るさが落ち着き、どこかよそよそしいというか……多分対応の仕方を探っているのだろう。よく私の様子をうかがってはすぐに退室していく日々が続いている。
「(そりゃあそうだ、あんだけ私が拒絶したんだし……)」
苛立ちに任せて話したあの日の一件。自分の置かれた立場を思い出して冷静になったものの、相変わらず置かれたままの歴史書を読んでは、魔の者の発生、そして魔素増加の原因について調べ続けている。
書き味の悪い紙の束はもう底をつきそうなほど使ってしまっているし、隠してはいるがコンソールに着いた魔の者の血も随分綺麗にしてしまった(シーツを1枚ダメにしたが……隠しているのでまだバレていないだろう)
なんて穏やかな生活が似合わない人間だろう。忙しなく頭を動かして仕事をしている時が1番安心するなんて。
そんな状態では優雅な第二の人生なんて送れない。7年……いや、それ以上の歳月をかけて築き上げられた性分は、そう簡単には変わらないらしい。
「……」
コンソールの内部を確認したところ、外の損傷は激しかったが幸いにも基盤周りは問題なく、あとは操作をするための液晶がどうにかなれば使えそうだった。
とはいえ替えの部品が無い現状……工具も、修理の技術もない私には為す術がなく、これまでと変わらずお守りのように足にコンソールを巻き付けている。
「上手いこと直ってくんないかな……魔法みたいにちゃちゃっと……」
……ん?…………“魔法”?
「……私って……魔法使えるのかな」
キアラを呼ぶための小さなベル。この屋敷に来て初めて鳴らしたそのベルの音は、軽やかに室内に響いた。
・
「ここが書庫……」
「ルカ様……お約束通りすぐにお部屋に戻ってくださいね」
「わかりました」
キアラを呼び、書庫に連れて行って欲しいと頼んだところ相当渋られた。
仮にも主人の婚約者である私を歩かせる訳にはいかない、なんて事を言われたが、いちいちキアラに頼んで本を持ってきてもらっては選ぶものに偏りが出るし効率が悪い。
だからしつこく頼み込んで、ローワン公爵にバレないようにすぐに部屋に戻るという条件で書庫へと案内してもらった。
キアラは見つかりたくないとでも言いたげにそそくさとどこかへ逃げて行った。
薄情者め。いや私もかガハハ。
「魔法、魔法……」
天井まで届くほどの本棚がいくつもそびえ立つ書庫。図書館のようにジャンルの目印があるわけでもなく、しかもしばらく触られていないのかホコリを被っている。
「せめてジャンルぐらいまとめとけよ……探すの大変だろ……」
ブツブツ呟きながらも、なんとか1冊“魔法学”と書かれた分厚い本が目に入った。
手に取った時ホコリが舞ったが、まあいたし方ない。私は二段の脚立に座り込み、その本を捲る。そこには小難しい言い回しで魔法の仕組みについて書かれており、自分の求めていたものらしいことが分かる。
「えーと……魔力を体内に巡らせ、周辺の魔素を引き寄せることで魔法を使用する準備が完了する。その後放射、滞留など用途に応じ魔素の形状を替え……体内ってどこだ?血管?」
体内を巡らせる、というのがイマイチ分からないが、森で一度周囲をスキャンした際に小さな粒子が見えたのを思い出し無駄に手を振ってみる。今見えているのはきらきらと輝くホコリくらいだが……。
「発動は……」
魔法の発動は世界によって方法が違う。
長い詠唱によって精神力を強め、魔素を引き寄せる方法や、命令するような形で爆発的な威力を出す方法……この世界は一体どれなのか。初歩的な内容だからか本のかなり初めの方にそれらしき記述を見つけた。
「あった。……まずは体内を巡る魔力を感じる」
体内……胸に手を当てて目を閉じてみるが、手に伝わるのは布の感触くらい。まあ……巡っていると仮定して進めよう。どうせ試しだから。
「次に自分を取り巻く空気、そして大地、空を感じ、真に願うことを強く念じる……」
願うこと……
「口座の引き落とし状況確認……引き継ぎしたあとの仕事の対応……」
あとは光熱費払えてるか……カードが不正利用されてないか、私のケータイ勝手に見られてないか……
「……ふ……ックシュン!」
あー、鼻むずむずする、絶対ホコリのせいだ。アレルギー無いことだけが自慢だったから多分今も無いだろうし……誰だよ掃除しなかったの。
……あ、最悪。目に入った。
「もうマジで……“ホコリどっか飛んでけ”!」
ぎゅっと目をつぶり、私は脊髄反射的に何も考えずそれを口にする。
するとなにやらカッと体が熱くなり、体内を何かが駆け巡る。ぐるりと、三半規管がおかしくなったような……そんな感覚の後、風がぶわりと吹き荒れた。
その風はドアの方から流れ、しかも反対にあった閉じきった窓を勢いよく開け放つ。
長年開けられていなかった窓は軋む音を惜しみなく鳴らしながら、吹き荒れる風を外に流していく。
その風に負けて数冊本が落ちたが……幸いにも外に落ちることは無かった。
「なに……これ……」
空気が完全に澄みわたり、先程までの息苦しさが無くなる。同時にバタバタと何人かの足音が聞こえて、私は痛む目を何とかこじ開ける。
「なんの音だ!」
焦りの滲む声。扉を開けたのはこの屋敷の主の従者であるセドリック。その後ろにはローワン公爵が目を見開いて立っている。
「(やらかしたかも)」
すっかり空気の淀みの無くなった書庫内。私はただ気まずさを紛らわすために笑うしかなかった。
260804 魔力・魔素の表記揺れを修正しました




