#100 支給品の点検はその場ですること
「(やっぱ新しいコンソールだめだな、高瀬に改良案送ってもらおう)」
コンソールに表示された海野の情報。余計に光るコンソールの青い光に、ルカは嫌な顔をした。
<#100 支給品の点検はその場ですること>
「っ馬鹿ってなんすか!今アンタのほうが立場弱いんすよ!」
「異世界で我々に立場の強弱ってあるんですか?ていうか、それで言ったら今はあなたのほうが弱いですけど」
「くっ……!」
「まあ馬鹿と言ったのはあなたが動揺するかなと思って言ってみただけです」
「っ〜〜〜!!」
ルカは海野の気配を察知した後、そちらをじっと観察していた。
その際、ほんの一瞬だが、光学迷彩の乱れが見え、原因を確かめに向かったのだ。
そして近づいてみれば、足の跡が見える芝生の形、そしてコンソールの青い光が反射した地面。新型の開発が行われた際に導入された/blend inのコードは、ルカを欺ききることはできなかったらしい。
「さあついてきてください、ずっとここにいては怪しまれます」
「ついて来いって……」
「あ、拒否権は無いですよ。あなたのコンソールに私の権限を追加付与したので」
「は?んなっ!?」
グンと体を押される感覚に、海野は目を見開く。
「ご存じないですか?|/auto tracking《自動追尾》。この型から搭載されたはずですよ」
「つ、使ったことないっすよこんなん……」
「便利ですけどね。……ロゼごめん、ただの蛇だった」
「蛇!?そ、それって大丈夫なの……?」
「大丈夫、どっか行ったから」
「……。」
ズカズカと前に進むルカに、自動追尾機能のせいで両腕を拘束されたまま歩くしかない海野。不満を顔に出しているが、それに気づいたルカはコソッと独り言のように呟く。
「大丈夫です、あなたの声も遮断しておきましたから」
「!?」
「現地住民には聞こえないと思いますよ。ほら」
「痛っ!」
ゴン、と頭を叩いたルカ。海野も痛みに声を上げるが、確かにその声はロゼには届いていない。
「……ルカ、何してるの?」
「虫が飛んでて」
「変なの……」
「(マジで変人なんだけどこの人……)」
・
「ルカ先輩゛が!!生ぎでだ!!ルカ先輩ぃ゛〜〜!!!」
「良かったわ……!ルカちゃん全然変わってないじゃない゛!!」
「先輩……グスッ」
「え待って、みんなこれ見て泣けるの?僕ホラー映画かと思ったんだけど?ねぇ??」
「元気ですねみなさん」
「高瀬くん目が遠いよ!」
海野の胸元には、コンソールの拡張機能を使う機器と称してボディカメラが仕込まれている。
兼ねてより試作が繰り返されてきた最新モデルのコンソールは、従来品に比べ搭載されているコードの数も多く、本体が少し大きい。
にも関わらず更に多くのコードを使用したいと実働部隊が要望を出すものだから、研究員はそれを取り入れ、胸元に取り付ける拡張機器を制作したのだ。
そこに組み込まれたのが小さなカメラ。この存在は現在、事務方と研究員、そして実働部隊の係長しか知らない。
「写りもいいし音声もよく聞こえるね」
「ルカ先輩の声だあ゛〜〜!」
「おまっ俺に鼻水飛ばすなよ!」
「だっでぇ……!」
殉職したと思われた人物は今、拘束された殉職認定員のボディカメラ越しに生存が確認された。その事実に喜ばない事務方はいるはずがない。
ただ、映し出されたことにより露呈した問題もあるわけで……
「……どうするんですか?課長」
「うん……一度状況を確認したいね」
「……?」
不思議そうな顔をする山本だったが、現地住民であろう少女と会話するルカを見てハッとする。
「きっと、ルカちゃんも何か理由があって現地住民と交流しているんだろうけど……この期間滞在して、その上交流まであるとなると……」
「……規定に、抵触するかもしれないってことですか……?」
「否定はできない」
課長の硬い声が、泣いていた山本に突き刺さる。
しかしそういう職場なのだ。管理課は、世界をより良くする機関ではない。あくまで、“最低限の介入で世界の異常を修正する”のが仕事。
現地住民に存在を認知されていることすらも、大きな問題なのだ。
「どうしたもんかな……」
課長の憂いが込められた声が、静かに部屋に響いた。
・
「いい?ちゃんと仲直りするんだよ!」
「……善処する」
「返事ははいでしょ!」
「ハイ……」
「……」
結局、野いちごを採るだけ採ってルカを置いて行ったロゼ。塀にできた穴から器用に抜け出していった彼女を見送り、ルカは立ち尽くす。
ルカが通るにはあまりにも小さな穴。もしかすれば塀をよじ登って逃げおおせることができたかもしれないが、それをするにはルカの足は万全ではない。薬の効果で動かすことはできるようになったが、それもある程度タイムリミットがある。
足が満足に動く今のうちにアシュフォード家から距離をとりたかったのだが……小さなお母さんによってそれは許されなかった。
「(お母さんにああやって怒られてるんだろうな……目に浮かぶ……)」
「……情けなくないんすか、子供に怒られて」
「情けないというか……それよりもここから脱出できなかったことの方が問題ですね」
「……あのとりあえず、状況教えてくださいよ。アンタからの引き継ぎ情報何もないんすけど」
「あ、そうですね」
ルカは木陰に隠れ、周囲を確認しながらチラリと海野の胸元を確認する。
「……声は聞こえてますよね?」
「は?喋ってるでしょ」
「いや海野さんじゃなくて。」
トン、とルカが指で突いた拡張機器。カメラのレンズがルカに向けられている。
「今まで報告できず申し訳ありません。ことのあらましを共有しますね」
「……まさかっ」
「今後は装備品の点検を怠らないように。」
カメラを仕込まれたことに初めて気づいた海野。信じられないという顔で、ルカを見つめるのだった。
祝!100話!




