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はざまの苦労人~異世界管理業務、できなくなりました~  作者: わぎり
Case1 管理業務、できなくなりました
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#10 整合性をとること

 歴史は、誰かの都合の良いように伝わる。

 それは時の権力者であったり、はたまた、それを(おとし)めようとする者であったり。

 善か悪かなんて、誰の目を通したかで変わる曖昧なものなのだ。



 <#10 整合性をとること>




 ホワイト王国は内陸の国で、西、南、北を隣国に、そして東を森に囲まれている大国だ。

 先々代……現国王と先代国王の父にあたる王が周辺の国を吸収した結果、大陸の中でも有数の大国となったらしい。


「(そしてこの森は“魔物”が出る、と)」



 歴史書と共に数冊子供向けの本も混じっていた。少しおどろおどろしい挿絵の描かれたそれにはこう書かれている。


 “ひがしの もりには ちかづくな”

 “こわい まものが ねらってる”

 “はいれば たちまち まいごになって”

 “いえには にどと もどれない”



「(まあ、よくある注意喚起か)」



 童話は子供に向けた教訓が込められることが多いが、この本も同じく“森に入ると迷子になるから入るな”という忠告のためにつくられたものだろう。怖いものがいるから行くな、なんてのはよくある脅し文句だし、想像力の豊かな子供にとっては効果覿面だろう。


 ……しかし“魔物”という言葉が引っかかる。

 ローワン公爵は確かに、“魔の者”と言った。魔物と魔の者……果たしてこれが同じ存在なのか。

 私はもう1冊目に入った子供向けの本を開く。


 古ぼけたそれは、神々しく描かれた2人の人物の挿絵から始まった。



 


 “————むかしむかしこの地には、ふたりの聖なる存在がおりました”


 “ひとりはこの地の不毛(ふもう)を憂い、大地に生命力をお与えになり”


 “ひとりはこの地に住まう者たちの生活が豊かになるように魔力をお与えになりました”



 “しかし魔力を多く吸収した者の中には、自らの姿を制御できず異形の姿になってしまう者も出てきました”


 “その結果人々は異形の者たちを『魔物』と呼称し、東の森へ追いやってしまいました”


 “ふたりの聖なる存在はその状況に憤り、人間から魔力を奪ってしまいました”

 

 “同時に、魔力を持たぬものが森に近づくと必ず迷うように呪いをかけ、魔物を人間から守ったのです”


 “迷い込めば最後、家に帰ることすらできなくなる東の森は人々から恐れられ続け”


 “ホワイト王国に平穏が訪れたのでした”



 


「そうして聖なる存在は統治者にホワイトの姓をお与えになり、今も国に加護を与え続けてくださっているのです……」



 ハッピーエンドのような締めくくりで終わった本。裏表紙には森の絵が描かれており、表と対になるような構成になっている。

 その本を置いて、思わず出たため息。なんというか……気分は良くない。


 

「(何が守っただ、隔離だろ)」


 別に魔物の味方をしたいわけではないが……聖なる存在というやつが行った一連の行動が後手後手の対応ばかりで腹が立つ。

 与える前に考えなかったのだろうか。ばらまかれてうれしいものなんてこの世で金か餅ぐらいのもんである。


 もしこの話が仮に大規模な実験の報告書だったならばもう少し違う気持ちで読めたかもしれないが、それにしたってずさんだ。聖なる存在でなければ責任問題だろう。



 

「(それはそれとして……やはりこの本にも“魔物”と書かれていた)」


 児童書を含め森に関して書かれた本を数冊読んだが、魔の者なんて言い方はされていない。となると元より存在する魔物とは別の存在……しかも執筆されてすらいないほど最近存在が確認された生命体ということなのだろうか。もしくは何者かによって秘匿されているのか……。


 何にせよ私が追っていた魔素量の異常増加に関わっていそうである。このまま森の調査を進めて——



 

「……って、何してんだ私」




 コンソールが壊れて何もできない私が下手に動いて何になる?そもそも私は平和に第二の人生を送ると決めたのだ。自由に過ごせと言われたんだからここで自堕落に生きればいい。幸いにも彼は私を疑っていて、監視のために婚約を申し入れた……と、思われる。

 だとすれば身の潔白が証明され次第解放されるはず。血濡れにした程度で何を償うと言うのだ。洗えばとれるものをいつまでもうじうじ引きずって何になる?


「(そもそも責任をとれなんて言った覚えもない)」


 誰と勘違いしているんだ……案外夢見がちなのか?恋愛小説にしては血なまぐさいエピソードである。

 恋愛ならば同い年のどなたかと勝手にやってくれ。私に年下趣味は無い。




「……?」

 

 ほかの本も読もうかとまだ山のようにある本に目を向けた時、私はそこでようやく視界の薄暗さに気づいた。

 月が明るすぎて気づいていなかったらしい。空はすっかり紺色に染まり、森にいる虫の声が薄く聞こえてくる。



「(向こうとの時間差、どれぐらいだっけ……)」


 向こうの1日よりもこちらの1日のほうが短かったような……まさかこんなことになるとは思ってもみなかったので油断して確認するのを忘れていた。


「おにぎり……エナドリ……」


 いざ手に入れられないとなると恋しくなるもので。あのちょっと冷たい米粒を食べたくて仕方がない。モスウッド家で米は出てこなかったので、少なくともこの国の食事文化は西洋色が強いのだろう。こればかりは慣れるしかないか……。

 一人でひっそりとホームシックに似た虚しさを感じていると、ドアからノック音。


「どうぞ」

「ルカ様、お夕食が出来ましたのでご案内いたします!」

「わかりました」


 さて、婚約して初日の夕飯。

 どんな料理が出るか楽しみである。

 おにぎりはツナマヨ派


260804 魔力・魔素の表記揺れを修正しました

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