潜入
かれこれ一時間ほどバイクを降りて徒歩で山道を歩く。
傾斜と樹木がバイク走行を許さなくなった。
基地は視認できるので辟易することはなかったが水を一本も持ってこなかったことだけ後悔した。
そして基地のフェンスまでたどり着いた。
基地だからといってコンクリートの高い壁が施されているわけではなく、上部にセンサーがあることを除けばごく普通のフェンスだ。
「これよじ登って乗り越えて平気かな?」
「おそらく暴徒の影響でセンサーは無効化されているでしょう」
「本当に?触った瞬間、感電とかしない?」
「平気です。それより辺りの状況をよく確認してください、誰かに発見されることがないよう侵入しましょう」
簡単に言ってくれるなぁと内心思いながら観察する。
静まりかえって人の気配はなく、窓や屋上も見た限りは平気そうだ。
「行ってみるよ」
ギシッギシッとフェンス特有の音をたてつつ慎重に登り、一番緊張するフェンス登頂部にあるセンサーに近付いた。
不安感は拭えないがここで躊躇して誰かに見つかっても厄介なので思いきって乗り越える。
感電もしないし警報音もない、出来る限りのスピードで乗りこえて飛び降り着地と同時に目星をつけていた建物の影へ中腰で走った。
『はぁはぁ』と息を切らしバイクで跳躍したときとはまた別の緊張感を押し殺す。
「カイ、目的地はここです。」とオリオンは言い画面に地図をだした。
「人の気配は?」
「今のところありません、いるとするなら良く見渡せる基地正面と生活しやすいエリアでしょう、ロケットは恐らく地下のこのエリアにあると思います。武器や食糧はないので人が見張ってる可能性は低いと思われます」
「何かあったとき逃げ出しにくく見渡すこともできない地下にはいないってことか…」
オリオンが記してくれた最適ルートを慎重に進む。
建物の原型は保っているがガラスはほとんど割られているし所々から煙がでてる。
まさに戦闘後と言う感じだ。
開けられそうなひしゃげた扉があったがそこから侵入するのはやめておいた。変形した扉では音が出ることは容易に想像できたからだ。
ガラスが全壊している窓から内部を恐る恐る覗き込む。
そこには死体こそないが数々の流血の跡、予想はしていたが目の当たりにすると予想を遥かに越える衝撃だった。
テレビで見るのと肉眼で見るのがここまで違うものなのかと痛感した。
だが進まない訳にはいかない、人気のない事を確認し侵入する。
地下に繋がる階段に近付いて一段づつ慎重に下りたが明らかに先は薄暗く歩くのも困難な感じであった。
壁に備え付けてある懐中電灯を手にする。
明かりをつけて誰かに発見されるのと暗闇を歩き騒音をだしてしまう危険性を天秤にかけるが暗闇は危険だ、穴でも開いていたら致命傷になりかねない、数歩ごとに床を確認し明かりを消す動作を繰り返し進む。
その先には明らかに他の扉とは作りの違う防爆扉があった。
扉を慎重に開けると隙間から、冷たく湿った風が吹き抜けた。
地上の無惨な姿が嘘のように静まり返っている。
懐中電灯の細い光を投げ入れると、埃の舞う暗がりにいくつもの「人影」が不自然な角度で転がっているのが見えた。
心臓が喉元を突き破らんばかりに脈打つ。
あそこに横たわるモノが、もし、何かの間違いで身じろぎしたら——。
そんなあり得ない想像が、鉛のような沈黙の中で現実味を帯びていく。
壁にへばりついた黒い染みが、天井から滴る水に濡れて、まるで生き物のようにゆっくりと床へ這い出していた。
「……カチャリ」
奥の暗闇で、硬いモノが擦れる音が響く。
呼吸を止め、影の動きを凝視するが、光の先にいたのは、ちぎれた配線が火花を散らしながら揺れているだけの無機質な光景だった。
そこにあるのは、明らかな『死』の痕跡だ。
それなのに、首筋の産毛が逆立つ。
誰かが背後に立っているような、あるいは、転がっている肉塊のひとつが、光を逸らした瞬間に音もなく立ち上がるのではないかという、理不尽な圧迫感が肌を刺す。
横たわる人の服装は様々だった。洋服や軍服、老若男女が入り交じっている。
単純に軍対民間人というわけではないように見えた。
軍から離反する者、軍に助けを求める者、立場を越えて様々な戦闘があったことが伺えた。
嗅いだことのない異臭が立ち込めるなか、ロケットが有るであろう扉の前にたどりつく。扉のロックは外れていて開きそうだった。
「ここだよね、開けるよ」
慎重に音が出ないように扉を開く
室内には時計の形をしているが時計ではない物やヘルメットではあるが異質なもの、用途不明なものが多数ある中に『それ』はあった。
「オリオン、これだよね?」
「はい、間違いないです」
とても宇宙空間を飛行できるような物には見えなかったが、この部屋にある何に使うか分からない物のなかにあったことが信憑性をもたせた。
手にしてオリオンに聞く
「どこで飛ばそうか」
「屋上へ行きましょう」
この建物は3階建て、ここは地下なので4階上がるのかと思うと億劫になる.1階下りただけなのにあんなに神経をすり減らしたのに、4階も上がるなんて。
バイクで跳躍できればなどと思ってしまう。
日の光があるだけましかと来た道を戻るが、やはり慣れるものではなかった。
1階を抜け2階につく。そのまま通りすぎてもいいのだがフロアを覗いてみると地下同様に人であった物が視認された。
生きているようには見えない、そんな中、微かに動きを感じた。
「オリオン、あの生きているんじゃない?」
たしかに動いている、というより息をしている必要最低限な動きであった。
オリオンは冷たく問いかけてきた。
「はい、まだ息があるようです。しかし声をかけてどうなりますか?慰めや気休めを言いますか?」
僕は答えることができなかった。
たしかにそうだ。
遅かれ早かれ必ず死ぬのは決まっている。
見た限り致命傷を負っているのは明らかな人にどんな言葉をなげかけていいか分からない、しかし放っておくことはできなかった。
ゆっくり側に近づき『何かしてほしい事はありますか?』と聞いた。
怪我人に対して第一声で『大丈夫ですか?』という問いかけをよくすると思う、すると怪我人は明らか大丈夫ではないのに『大丈夫です』と返答することが多々ある
そうすると言われたほうはしてあげられる事がなにもないのだ。
横たわっている人は軍服を身に纏っている、歳は40半ばぐらいだろうか。
「皆は…どうなって…いる? 状況は⋯」
息も絶え絶えに僕に聞いてきた。
「わかりません。今ここに着いたばかりですので、生存者に出会ったのはあなたがはじめてです」
「そうか…もし、司令官に会ったら、こう…伝えてくれ…早く逃げてと…」
「分かりました、何か飲み物持ってきましょうか」
「いや、いい…私はもう、そう長くはない、君も、早く…どこかへ…にげ ろ…」
そして事切れたように静かに目を閉じた
最後の最後に他人を気遣う事のできる優しさをもった人、初めて会ったなんの面識もない人だったが自然と涙か溢れ、嗚咽が止まらない
絶対に返事をしない彼に対し『分かりました』と言いながら強く手を握ることしかできなかった。
司令官、この基地の最高責任者、きっとトップに相応しく最後まで基地を守ろうとしたのだろう。
普通なら昴君とルナちゃんと一緒に逃げたかったであろう所を職務を遂行するためにここに残ったのだ。
人の素晴らしさに触れた事で『使命』を必ず成し遂げる事を誓った。




