兄妹
「カイ、停まってください」
僕はすぐにブレーキをかけてバイクを停車させた。
「どうしたの?」
「前方100mくらいに何かいます」
「動物?まさか熊?」
熊になんか遭遇したら大変だ、人ならまだ説得できるが熊に理屈は全く通じない、過去に犬や猫の鳴き声で気持ちが分かるという商品が数々でたがどれも正確性は低く、飼い主の自己満足を少し上げるくらいの役にしかたたなかった。
人どうしですら正確なコミュニケーションがとれないのだ、動物などととれるはずがない。
「いえ、おそらく人です。…子供が二人ですね、危険はないと思われますが、どうしますか」
「ちょっと調べてくる」
と言いバイクを降りてゆっくりと茂みの方へ向かっていく、すると茂みが少し揺れた。
『ガサッガサッ』と音のする方へ近付く、子供と聞いていたからあまり恐怖心なく近付いていけるが、なにか分からないと聞いていたらこんなに簡単には近付けなかっただろう。
「誰かいるの?」
もちろん返事はない、こんなときどんな言葉を投げ掛けるのが正解だろう、『なにもしないから出ておいで』『怪しいものじゃないから出ておいで』いずれにせよ不正解な気がする。
さらにゆっくり近付いていくと『ガサッガサッ』とさっきより大きく草を揺らし逃げていく。
それに合わせ僕も追いかけるとすぐに逃げ場を失い、茂みの中から子供の兄妹が姿をあらわした。
小学校三年生くらいの男の子が僕を睨みつつも右手で庇うように小さい女の子を隠す、女の子は身体をほぼ兄に隠して顔だけをひょこっとだし怯えた目で僕を見ていた
「君たちどうしたの?」
子供たちは答えない
洋服は汚れ、顔も疲れきった表情だ
「お兄ちゃん道に迷っちゃったんだ、知ってるなら教えてくれない?」
自分の一人称の呼び方を悩んだ末に『お兄ちゃん』にした。
こんな時あいてから『おじさん誰?』とか言われたほうがそれに合わせれるから楽なのになと思いつつあえて『お兄ちゃん』にしてしまった。
そうか、自己紹介すればよかったんだ。
初対面の人には挨拶して名乗る、そんな常識的事すら忘れていたことを後悔しつつ「僕はカイって言うんだ、君たちの名前は?」
と咄嗟につけ加え地面に膝をつき子供達の目線に合わせる。
「⋯どこから来たの」
と恐る恐る男の子が言う。
名前は教えてくれなかったが話をしてくれそうだ。
「上の方に基地が見えたから行ってみようと思って、街は大変なことになってるし」
嘘ではない、しかし本当の事をいっても仕方ないので言葉を濁す。
「君たち、なにも食べてないんじゃない?」
と問いかけバックからお菓子を取り出す。
パッケージには『超硬チョコ!』と書いてあるチョコレート菓子だ。
ハンマー部分がチョコで柄の部分がビスケットになっていて、僕も子供の時から食べていたすごく硬いチョコレート。
大人が本気で噛めば砕けなくはないがとにかく硬い。
子供の時分は飴のように長時間舐めて甘さを楽しんだり、いかに早く噛み砕けるかの勝負をしたりして遊んでいた。
『はい、』と言って二人に差し出す
子供達は恐る恐るチョコを手にして二人で食べ始めた、僕もそれに習って食べる。
「美味しい?」
「うん、ありがとう」
しばらく口のなかでチョコを転がし久しぶりの糖分を楽しむ
チョコ同様緊張も少し溶けたようだ
「君たち二人?」
「うん」
溶けてきたチョコをガリガリと噛む音がした。
やはりまだ警戒しているのは当たり前だと思う、子供の感受性は大人以上で特に親が怒っている事など本能的に察知するものだ。
現状の異常さもちゃんと分かっているのだろう
「喉乾いてるでしょ」
生憎、水しかなかったが子供達はジュース以上に美味しそうに飲み干した。
「ここでなにしてたの?お兄ちゃんと同じで道に迷ったのかな?」
「ううん、基地から逃げてきたの」
「どうして?」
「お父さんがルナを連れて逃げろって、ルナは妹、僕は昴」
意表をついて名前を教えてくれたことがとても嬉しかった。
「昴君とルナちゃんか、いい名前だね」
女の子がじっと僕を見ている。
多分まだなにか食べたいのだろう
スナック菓子を取り出し大きく袋を開けて地面に置く、袋には『揚げジャガじゃがなにか?』と書いてある。
じゃがいもを薄くスライスして油で揚げてあるオーソドックスなお菓子だ。
「皆で食べよう」と言うと女の子の笑みがこぼれ小さく座って手をのばす。
男の子は妹の邪魔にならないように座ってお菓子を摘まむ
「お父さんどうしたの?」
「わからない、危ないからって基地にいたんだけど、基地にも人がたくさん来て、みんな暴れてて、で基地も危なくなったから僕たちだけ先に逃げろって、後で追い付くからって」
状況はなんとなく理解できた。
暴徒と化した民衆が基地を占拠しようとしたのだろう
「よく逃げれたね」
「お父さんが逃げ道を教えてくれたんだ。狭くて暗い道で番号を教えてくれたから」
ナンバーキー?なんでそんなこと知ってるのだろう
軍関係の人?疑問はほぼ確信だった。
「お父さんは軍に勤めてるの?」
「うん、でもなんかすごく忙しそうだった」
「そっかぁ、僕も基地に行かないといけないんだ。どうやって逃げてきたか覚えてる?」
「わかんない、でも、やめたほうがいいよ、すごく怖かったもん」
出会ったばかりの僕を本気で心配してくれているようだ。
でも行かないわけにはいかない
「大丈夫だよ、こう見えても僕はけっこう強いんだから」と嘘をつく
「その番号教えてくれないかな」
「うん、いいけど、もしお父さんにあったら僕たちここにいるって伝えてくれないかな」
必死な子供の問いかけに僕はありったけの笑顔で答えた。
長居をしている時間はない、僕はナンバーキーの番号を聞いて基地に向かう準備をする。
「これにまだ食べ物とお水があるから大切にたべるんだよ。あと大きな音は出さないようにね」と言いリュックを渡した。
昴は遠慮しがちに受け取り、ありがとうの言葉と父が基地では『一佐』と呼ばれていることを教えてくれた。
「じゃあね、お父さんに会ったら必ず昴君達が待ってるって伝えるから」
子供達は素直にうなずき手を繋いでこちらを不安そうに見送っている、その姿が僕と兄の姿と重なった。
バイクにまたがり森の中を駆け抜ける、子供だけを残し立ち去らなければいけない事に一抹の不安が押し寄せるが、連れて行くわけにもいかないし、父親が来るまで一緒にいるわけにもいかない、そして恐らく父親は⋯
気持ちを切り替えるしかない、僕には何よりも大切な使命があるんだ。と自分に言い聞かせた。
思わぬ収穫もあった。
「オリオン、どうする? ナンバーキーで入れる隠し通路があるみたいだね」
「そうですね、基地に直結しているメリットと待ち伏せされたら逃げにくいデメリットがあります。予定どうりに外から侵入して状況次第で隠し通路を使いましょう、恐らく父親である一佐の個人ナンバーでしょう、下級兵では入れない場所にも立ち入ることができると思います。」
「一佐って言ってたね、けっこう偉い人なんだ?」
「たいぶ、です。恐らく基地の司令官でしょう」
「そんな人が部下を置いて逃げ出すわけないよね?」
「どうでしょう、基地内部も組織とは言えない状況だったはずです。子供達を逃がし国家機密の外部漏洩防止措置をして子供達に追い付く算段をしてもおかしくはありません、いずれにせよ世界はもう終わります。できれば子供達と一緒にいてほしいと思います。」
誰しも世界が滅びるとまでは思ってはいないのか、この混乱もいつか落ち着き復興すると
「カイ、そろそろジャンプです。心の準備を」
「うん、さっきみたいにカウントしてね」
「いきます! 3、2ーーー」




