自覚のない過労が一番やばい
「過労って、まさか」
「そのまさかだ。お前本当に気がついてないのか?」
俺の心配をよそに、「冗談もほどほどにしなよ〜」とけらけらと笑いながら認めないフォンテ。
まじかこいつ。
自覚のない過労が一番やばいのでは?
俺が呆れた視線を送っていることに気がついたのか、フォンテは改めて過労だと言う俺をやんわりと否定する。
「だって過労ってあれでしょ?仕事をしすぎて精神的に参っちゃう、みたいなやつ。その点だと私は全然元気だし」
「いやいや、精神的に参る前に上司の人が止めてくれたんじゃねーの?実際体の方は限界だったから任務先で倒れたんだろうし」
間髪入れずにそう言うと、フォンテは「そういう考え方もあるか」と言って少し黙り込み。
「………え、じゃあ私って本当に過労?」
困惑の色を顔に浮かべながら、俺にそう問いかけた。
「俺はそう思うけどな。だってお前の話聞いただけでも明らかに仕事しすぎだと思うし」
国内の魔物をほぼ一人で対処したり、昼夜問わずに出動したり………あれ?こいつホントに人間か?
この化け物じみた強さと体力がちょっと怖く感じてしまう。
しかし本人からしてみればこれくらい当たり前のことなのだろう。この様子だと、睡眠や食事もちゃんととれているのか不安になるな。
「フォンテ、お前だいたいいつも何時間くらい寝てるんだ?」
「んー……、三時間くらいかな?」
「はいアウト」
「なんで!?」
なんでじゃねーよ、お前ショートスリーパーじゃないんだから三時間睡眠で生きていけるわけないだろ。
「飯は?ちゃんと食ってるの?」
「舐めないでいただきたい、毎日朝は必ず食べる健康体です!」
「そうか。昼と夜は?」
「………週二日くらいなら食べてるかも?」
「はいアウト」
「だからなんで!?」
全然駄目だった。国内最強の魔導士は、人の体を維持させるための最低限の生活を送れていないようです。
………もしかして髪が伸びているのも、ずっと魔物の討伐に時間をかけているからだったりして?
「というかお前のことだ、朝くらい普通に抜きそうなもんなのによく毎日食えてるな。ひょっとして誰かに食わされてたりする?」
「ルカすご、よくわかったね。実は宿舎で同じ部屋になった後輩がいてね。朝はその子の目があるから食べないと怒られるんだよ。まあ後輩の料理おいしくて好きだし、怒らせたら圧がすごいしね」
「後輩にいらん心配をかけさせるな」
その後輩さんがいてくれて助かった。
下手するとコイツはもっとまずいことになっていたかもしれない。昼や夜はおそらく任務などでお互い会えなかったりするから後輩の目がないのだろう。
しかし朝だけでもこいつに人間らしい生活をさせていることには表彰ものだ。もし会えたらお礼を言いたい。
「てかこの後はその宿舎に帰るつもりだったのか?それともこの街の宿に泊まるとか?」
「いや、クビにされたと思ったから宿舎には戻らずに野宿しようとしてた。………なになにルカ、なんか怖いよ」
………ツッコミが追いつかない。怖いのはお前だよ。
「駄目だろそんなことしたら!夜は冷え込むし魔物も出るかもしれないし、外で寝たら危ないっての!宿舎に戻れ!!」
「だ、だけどもう後輩にも置き手紙でさよならしちゃったし、荷物も全部持ってきちゃったし」
そう言ってフォンテは持ってきたカバンから魔法の杖とマグカップ、そして財布や何着かの衣類を取り出した。
「……いや荷物少なっ!」
最低限のなかでも最低限しかない(?)荷物に呆気にとられる。
こんな大きめのカバンに入れることなかっただろというほどの量だ。
宿舎と言っていたからおそらくはベッドなどほかの家具は備え付けだったのだろうが、それにしても私物が少なすぎるだろ。ミニマリストかな?
しかし、困った。
「後輩も心配するから帰れ」と宿舎に強制的に帰らせることもできるが、後輩の目がない間はほとんどの確率で魔物の討伐にでも行ってしまう気がする。
「休む」という単語がこいつの辞書に載っていないことは明らかだし、このままかえしてもまた同じことの繰り返しだ。
というかむしろこいつに至っては「休む」こと自体良くないことで、何かしら動いていないと気がすまないのだろう。
思えば昔からそうだった。他人には甘いのに自分自身にはかなり厳しかったから、「休む」ことを「怠け」とさえ思っているのかもしれない。
17年ずっとそんな考えで生きてきたやつの考えを今すぐ変えるのは無理がある。とても現実的ではない。
何かないだろうか。ほぼ休みをとっているみたいな、そんな楽な仕事は―――
「――あ」
そこまで考えて、俺はとある仕事が頭に浮かぶ。
その仕事は昼前に店を開いて日没前に閉店するからぐっすり眠ることができるし、自宅と兼用だから遠くまで通勤する必要もない。
そういえばあったな、そんな楽な仕事が。
「フォンテ、お前しばらくここで働かないか?」




