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その魔導士、過労につき。  作者: 四橋めもり


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5/5

モーニングコールに咆哮を


 朝が来た。


 まだ薄暗い部屋の様子が半開きの目に入ってきて、ぼんやりと意識が覚醒する。



 ベッドから起きて寝ぼけ眼のまま窓の外を見ると太陽はやっと顔を出したくらいで、空はまだ朝と夜が溶け合ったような色をしていた。


 俺にしては珍しく日が昇り始めてすぐくらいに起きたらしい。いつもなら二度寝できるくらいの時間帯なのだが、今日は二度寝はせずにこのまま起きることにした。


 なぜなら――



「あいつ、ちゃんと寝れてるのかな?」



 シンプルにフォンテの様子が気になったからである。

 俺は手櫛で適当に赤茶の短髪をとかし、あまり音を立てないように気をつけながら隣の寝室へと向かう。



 結局昨日俺の元を訪ねてきたフォンテが過労だということが発覚したため、俺の仕事を手伝うという建前のもと、健康的な生活をさせようとしばらく一緒に暮らすことにしたのだった。


 ただ休みを取るだけならきっとフォンテは首を縦には振らなかっただろうが、あくまでも働くためという名目なのですぐに了承してくれた。


 フォンテには俺の部屋のベッドを使わせて、俺は祖父が使っていた部屋のベッドで睡眠をとった。客用のために置いていたシーツに布団、枕カバーなどがあったためそれだけ交換しておいた。



 大して泊まりに来る友達もいないが、いざという時のためにおいておいた代物だ。


 その話をすると、フォンテは馬鹿にしたように俺を笑ってきたのだが。 


 しかし昨日はあまり長話せずちょうどいいところで話をやめて、飯を食ったりしたら早々に眠らせた。


 だが。



「睡眠時間が三時間とかいうやつのことだ、もう起きててもおかしくねぇ……」



 現時点で睡眠時間は六時間以上確保はできているわけだが、任務先で倒れるほどの疲労があるくらいだからもう少し休ませたほうがいい。


 もし起きているのであればもうしばらく強制的に寝かせようと思い、様子を見に来たというわけだ。


 フォンテが眠っている、俺の寝室の扉の前に立つ。いつも自分が使っている部屋のはずなのに、なんだか変に緊張してしまう。



「てかこれ、ノックしたら起こしちゃうかもしんないな」



 でも入るにはノックしたほうがいいだろうし、しないで入られたら俺でも嫌だし………。



「だけど寝てるんなら、起こしたくねーよなー……」



 ノックをするか否か、傍から聞いたら限りなくどうでもよさそうに聞こえることで迷っていると。



「っ!?」



 ―――いきなりドンッという爆発音のようなものが聞こえたのとほぼ同時に地響きがした。



「な、なんだ!?」



 俺は祖父が使っていた隣の部屋にいったん戻り、窓から身を乗り出して外を見る。


 すると少し離れた住宅の方で黒い煙が上がっているのが確認できた。煙だけなら火事の可能性が高いが、この地響きはもしや―――



『ゴオアァァッ――!』



 すると俺の予想通り咆哮と共に煙から、全身血のような真っ赤な色をした巨大な獣が姿を現す。


 ―――魔物だ。



「クソっ、こんな朝っぱらから!」



 神出鬼没といえど、流石にニワトリのモーニングコールも始まっていないこんな早朝にやめていただきたい。いや、別に朝だけでなく昼夜問わず魔物の姿なんて見たくはないが。


 というか少し離れた位置にあるのにもかかわらず視認できる大きさってかなりヤバくないか?


 あそこに住んでいた住人は……まあ無事ではないだろうな。既に家は全壊してしまっているし、隣家にも火の手が迫っている。魔物が上から降ってきたとか、そんな感じだったのだろうか。


 周りの住人も寝間着姿のまま外へ出て、全員魔物と火の手から逃れようと懸命に足を動かしている。 



 というか、離れてはいるがここも危ないな。



「早くフォンテを起こして避難の準備を――!」



 俺は窓から顔を引っ込めて、先ほど悩んでいた数分は何だったのやら、フォンテの部屋にノックもなしに慌ただしく駆け込む。



「フォンテ、急に入って悪い!でも外に魔物出現したから――」



 「急いで逃げるぞ」と、窓を開けて遠くの魔物の方へと杖を向けているフォンテに話しかけようとして………え!?



「――よいしょっ」



 瞬間、フォンテの杖の先から青白く眩い光が魔物へ向かって一直線に放たれる。



『ギィアアアァ―――ッッ!!』



 すると外から甲高い断末魔のようなものが聞こえたかと思えば、再び地響きが起こった。


 俺はフォンテの上から覗くように外を見ると魔物は心臓あたりを貫かれ地面に倒れていた。おそらくもう絶命しているのだろう、ピクリとも動かずただただ大量の血だけがその身体からは溢れ出していた。



 俺はその光景に目が釘付けとなっていた。



(すげぇ、この距離から急所を外さずに一撃で……)



 一撃で仕留めるということも凄いが、周辺に被害を与えず魔物だけを討つ魔法の出力は同じ魔導士であっても簡単に真似することはできない。


 目標への狙い、判断力、魔法の出力――全てにおいて完璧な魔法だ。



「あ、ルカ。おはよう。朝からびっくりしたねぇ」



「お、おう………おはよ」



 しかし当人にとっては普通のことだろう。



 俺の方を振り返るなりそう言って窓を閉め、「ふぁ」と呑気に欠伸を一つした。


 まだ眠たげな様子のフォンテの長髪は少し寝癖がついていて、服もまだ寝間着のままだ。もしかすると魔物の声や家の揺れで起きたばかりだったのだろうか。それでいてこんなにも早く鎮圧できるのか。


 しかも周囲に魔法で雨を降らせて火の手を止めるというアフターサービスも欠かさない。



 ―――これが現代最強と呼ばれる魔導士の力か。



「って、そうじゃねぇ!」



 休ませようと思ってここに泊まらせることにしたのに、結局朝から魔物の討伐しちまってるじゃねぇか!!



 そんなこんなでフォンテがいる生活の始まりは、早朝の魔物の討伐から始まったのであった。



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