怒りの理由
「クビになったってお前……」
「本当なのか」と問いただそうとして俺はフォンテの顔が目に入った。困ったように笑うような、辛いのに笑みを絶やすまいとする顔だ。
我慢強い彼女がよくする表情だが、そんな状態の彼女にもう一度同じことを言わせるのは流石に酷だろう。とりあえず俺は言葉を飲み込み、腕を組んで背もたれに寄りかかる。唸って、それから黙り込む。
………考えたが、やはり納得がいかない。国民からの信頼も厚く討伐成績もいいフォンテが、なぜクビにされなきゃならないんだ?
「うちで働くってのはまあ……かまわないけどさ。だけど、なにかの間違いじゃないのか?」
「そうは言ってもねー……。実際、しばらくここには来るなって言われちゃったわけですし」
「そっか………うん?しばらく?」
「うん。ちょうど今日の昼ごろかな?目が覚めてから上司に呼び出されて、そしたらめっちゃ怒鳴られてさ」
夜の空を窓から眺めながらフォンテは少し疲れたような声でそう言った。一方で俺はフォンテの言葉に違和感を持った。クビにされたというのにもかかわらず「しばらく来るな」と上司が言ったという点だ。
「フォンテ、お前本当に「しばらく来るな」って言われたんだよな?」
「うん、そうだけど……」
「それだったら、やっぱりクビになったのは何かの間違いなんじゃないのか?」
「え?」
俺はなにか会社勤めをしたことがあるわけではないが、クビといえばもう会社から追い出されて二度と仕事はできないといったイメージだ。
というか、そんなもんだろ。
それだったらクビじゃなくて謹慎処分的な感じになってしまうし。
ひょっとしてフォンテが深刻に捉えている、というか勘違いしているだけでクビにはなっていないんじゃなかろうか。
「とりあえずさ、上司に怒鳴られた時の話を詳しく聞かせてくれよ。ちょっとばかし嫌かもしんないけどさ」
俺がそう言うとフォンテは少しだけ考えるように視線を逸らして、しかししばらくしてまた俺に向き直った。話してもいい、ということかな。
「わかった。じゃあちょっと話聞いてもらおうかな」
「おう、どんとこい」
「ありがとね。……まず怒られたのが仕事内容?かな。国内の魔物をほぼ一人で倒しちゃってるところ指摘されちゃってさ。なぜ休みを取らないんだって言われちゃって」
―――は?国内の魔物をほぼ一人で討伐してたの??
驚いて目を見開く俺をよそに、フォンテは次々と上司と話した内容を口にする。
「あとは夜勤じゃないのに勝手に仕事時間増やして夜中討伐しに行ったことで怒られたり、昨日の任務先で魔物倒したのは良いんだけど疲れがどっと出て倒れちゃったりさ。まあここらへんは私が悪いんだけど、そんなことを言われて……って、ルカどうしたの?なんだか目つきが怖いけれど」
「そりゃこんな顔にもなるわ………」
フォンテは俺がなぜこんな顔になっているのか見当がつかないと言わんばかりにじっと顔を見てくる。
いやいや、こればっかりは俺のせいじゃなくないか?
というか俺がこんな激務をこなしたわけでもないのに、なんだか一気に疲労感が溜まったように身体が重くなる。
一人で国内の魔物の討伐?
夜も自主的に魔物を討伐?
挙句の果てに遠征先で倒れた?
―――なるほど。
フォンテがなぜ怒鳴られたのか、そしてクビなのか否かがこの話を聞いてはっきりとした。
「フォンテ、まずこれだけは言える。結論、お前はクビになったわけじゃねぇ」
「え、ほんと?まじで?」
「まじで」
「やったー!」
そう言ってやると、フォンテは小さくガッツポーズをして喜びをあらわにする。
まるで先ほどまでしおれていた花が、水をやった途端元気になったかのようだ。
透き通った青色の綺麗な瞳を輝かせて、フォンテは早々に席を立とうとする。
「ルカがそう言うなら間違いないね!じゃあ今からまた魔物の討伐にでも」
「おい待て、まだ話すことがある。確かにお前はクビじゃなかったが、その上司がしばらく来るなと言った話はそのままの意味だと思う。だから討伐には行っちゃ駄目だ」
そんな落ち着かない様子のフォンテの腕を掴み、再び椅子に座らせた。俺の言葉を聞いて尚自身の状況をよく理解していないらしい彼女に若干呆れて、そして本気で心配になりながら事実を突きつける。
「―――フォンテ、お前過労で倒れたから強制的に休み取らされたんじゃね?」
俺がはっきりとそう告げても、フォンテはやはり首を傾げるのであった。




