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第五話:五歳のお披露目と、二人の闖入者(ちんにゅうしゃ)

 生後五年。


 俺のハードウェア(肉体)は、ようやく「子供」としての自由度を確保できる段階まで成長した。今日は俺の五歳の誕生日を祝う披露宴。グラフィ辺境伯領の屋敷には、多くの貴族や重鎮たちが集まっている。


「まあ、ジオ様! なんて可愛らしいのかしら!」


「この聡明な瞳、将来が楽しみですな!」


 ……正直、この状況は「ハイストレッサー(高負荷)」だ。


 代わる代わるやってくる大人たちにもみくちゃにされ、頬をつつかれ、俺はひたすら「愛想の良い五歳児」というスクリプト(定型文)を走らせ続けていた。


(ああ……やってられん。冷えたビール、せめてノンアルコールビールでもあればこの乾きも癒えるんだが……)


 ようやく解放された俺は、会場の隅で果実水の入ったグラスを手に取った。


 暇つぶしに、結露したテーブルの滴を指でなぞり、脳内でシミュレーションしていた「五属性の相関図」を無意識に書き込む。


 そこへ、背後からツンと尖った声が飛んできた。


「ちょっと、あんた。自分だけ飲んで、私には無いの?」


 振り返ると、そこにはドレスの裾を握りしめ、勝ち気な瞳でこちらを睨む少女が立っていた。


「あ、ごめん。これ、おいしいよ。……はい」


「ふん。……まあ、いいわ。飲んであげる」


 彼女はアリアナ。将軍マーカス・ヘロクレウス侯爵の孫娘だ。


 遠くでは、上着が弾けそうなほど筋骨隆々なマーカス将軍が、「ガッハッハ!」と豪快に笑いながら父ブルックと談笑している。


「ジオ、こちらへおいで」


 父さんに呼ばれ、俺はアリアナを連れて中央へ向かった。


 そこには将軍の他に、もう一人、知性的なオーラを放つ男性が立っていた。エルフの国から移り住んだ外交官、エリオット・イトゥーザ伯爵だ。


「エリオット殿、これが我が家の末っ子、ジオだ」


「初めまして、ジオ君。君の瞳からは、強い知的好奇心の波長を感じるよ。……うちの娘、モネも君と同じで少し変わっていてね」


 伯爵の影から、一人の少女が静かに歩み出してきた。翡翠ひすい色の瞳を輝かせ、じっと俺を見つめている。


 彼女は俺の横を通り過ぎる際、テーブルの結露で描いた「相関図」をチラリと見て、耳元で小さく囁いた。


「……ジオ・グラフィ。さっきの図、五属性のバランスがわざと崩してあったわね。あれ、本当は『もっと先』があるって言いたいの?」


(……しまりがないな。セキュリティホールだ。無意識の落書きから、この短時間で俺の思考をトレースしたのか?)


 勝ち気なアリアナと、俺の隠した理論の断片を鋭く突いてくるモネ。


 もみくちゃにされる披露宴の喧騒の中、俺は直感した。


(やれやれ。俺の平穏なデバッグ生活に、予測不能なエラー要因が二つも追加されたわけか。……だが、実験の助手としては悪くないかもしれないな)


 俺は二人を見据え、今日一番の「子供らしい」笑顔を作って見せた。


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