4. 正しい姿
ギギガガの様子がおかしいと、仲間の中で噂が立っていた。
黙って何か考え事をしているのかと思うと、奇妙な声をあげだす。それから、うろうろと歩き出し落ち着かない様子だった。
そんなギギガガに族長がとうとう声をかけると、ギギガガは聞きたいことがあると質問する。
「族長は物知りだよな。教えてほしいことがあるんだ」
「もちろんだ、オレはゴブリンの中でもっとも強くて賢い!」
「じゃあ、『好き』ってなんだ? あの子がおいらに言ってきたんだ。すごく大事なことみたいにいうんだけど、よくわからなくって……。ニンゲンはオスとメスで『恋愛』っていうのをするらしいんだ」
族長はギギガガからの質問をきくと、顎に手を当てて考えこむふりをする。そんなものは知らないと答えたいが、さきほどいったことの手前、格好をつけたかった。
「『好き』というのはな……、とても説明が難しい。ひとことでいうと『好き』ってことだ」
「そうなのか! さすが族長!」
「そういえば、そろそろ繁殖期だな。おまえはつがう相手を決めているのか?」
納得してくれた様子のギギガガにほっとし、族長は話題をそらそうとする。しかし、ギギガガがあの少女の名前を口にすると、族長は目をむいておどろいた。
「ばか! なにを勘違いしているんだ! おまえはゴブリン、あいつはニンゲン、わかるな?」
ギギガガは不承不承といった様子でうなずき、歩きながら族長にいわれたことを考えていた。
家に帰ってきたギギガガを少女が笑顔で出迎えた。しかし、その顔がまだらな緑色に染まっていることに気づく。
「オマエなんだその顔? あーあ、花の汁でべとべとじゃないカ」
少女の奇行に呆れながらも、少女の顔をふきとってきれいにしていく。
緑色から元の白い肌に戻るが、少女はどこか不満そうであった。
最初は控えめであった彼女が次第に感情を表にだすようになっていた。ギギガガはそんな少女の表情をみるたびに、こそばゆさを感じていた。
「なんだよ? どうして、そんなことシタンダ?」
自分とみんなは全然見た目が違う。例えば、自分の肌の色はおもしろくもない白色で、みんなはきれいな緑色をしている。
ギギガガと一緒がいいと涙交じりの声が口からこぼれていく。
少女にとって違うということは恐怖だった。やがて拒絶につながっていくということを知っていたから。
少女の髪はふわふわで、なでてみるとどの動物の毛皮よりも気持ちがいい。光が当たるとキラキラと輝く髪とつやつやした肌、それはとてもキレイなものだとギギガガは思っていた。
少女本人が驚くほどそれを理解していないということが、ギギガガにとって不思議であった。
それは、彼女の目に映るものと自分とで比較できるものがないから。
水面に映る自分の姿こそが、彼女にとって正しい姿のはずだった。しかし、その美しい銀色の髪も白く滑らかな肌も、周囲にいるゴブリンたちと違うということを決定的に知らしめるだけのものでしかない。
そのことを、ギギガガは理解することができなかった。
「おまえはキレイだ。この花みたいに真っ白でキレイだゾ」
ギギガガは彼女と同じ名前の真っ白な花を差し出してみせた。
それでも、自信がなさそうにしている少女に元気になってもらうために、ギギガガは少女の頭をなでてやりながら褒め言葉を与えるようにした。
そうすると、しばらくもじもじしていてから、少女もギギガガに褒め言葉を返す。耳まで真っ赤にしながら自分の気持ちをギギガガに告白する。
そんな彼女を見ながらも、ギギガガは彼女に同じ言葉を返すことができなかった。
もしも、それを理解できたのなら最初に彼女の前でいってみよう。そうすればきっと喜んでくれる。
彼女は幸せな夢を見続ける。他人から見れば、それは悪夢にうつるだろう。
それでも、彼女は笑っていた。
しかし、夢はいつしか醒めるものである。
彼女の夢は、他人の手によって叩き起こされる形で終わりを迎える。




