朝陽と朱色童子
法事と仕事で一ヶ月あいてしまいました。申し訳ありません。
朱色童子が目的地へと着いたとき、朱色童子にとってあまりにも楽しそうな光景が広がっていた。
だから、朱色童子は歓喜を隠さずに声をかけた。
「あははは! ずいぶん面白そうなことになってるね? ねえ、混ぜてよ!」
最初に気づいたのは、先ほどまでどや顔を決めていたセラであった。
「にゃんにゃの、にゃんにゃの! どこからわいてでやがったにゃの」
朱色童子はくつくつと笑った。
「あははは、わいただって! 語彙の少ないことが露見しているじゃないか!」
朱色童子は、アマチカ山の山頂にいるもの皆から、自身に向けられる感情を見てさらにだんだん楽しくなってきた。
だって、楽しい。
出自も、種族も、性別も、年齢も、立場も、何もかもが異なる彼らが、みーんな同じ感情わを朱色童子に抱き、向けている。なんて、なんて、なんて滑稽で愉快なんだろう。
「みーんな、同じ気持ちだねぇ。みーんな、違うに、同じ!」
朱色童子はきゃらきゃらと笑った。楽しくて仕方ないと、愉快で仕方ないと、腹を抱えて、無邪気に笑う。
柊に庇われながら、朝陽は朱色童子を不気味に感じていた。そして同時に、朱色童子へ哀しみを覚えていた。
朱色童子を見ていると、どことなく寂しく思うのだ。寂しくて、悲しくて、哀しくて、虚しい。そんな気持ちが胸でぐるぐると渦巻く。
「朝陽!」
朝陽は気づけば、いつの間にか周囲の制止を振り払って、朱色童子に向けて歩いていた。
朱色童子はきょとんと目をぱちぱちと瞬かせている。
柊とセラは落ち着かなく、けれども老婆に止められている。老婆はひとりと一匹を牽制し、静かに朱色童子に殺気を放ちつつも、朝陽の動きを見守っていた。
朝陽は朱色童子の前で両膝を折り、朱色童子と目線をあわせた。
朝陽と、朱色童子の視線が交わる。
「ねぇ、もしかしなくても」
朝陽は真剣な顔から一転、徐々に優しい笑みを浮かべていき、
「寂しかった?」
ぽすん、と胸に朱色童子を抱き込んだ。
朱色童子は目を真ん丸にして朝陽を見上げた。
「……さみしい?」
さみしい、とは何だろう。そう、朱色童子は思った。朱色童子はながくながく時を過ごしてきたけど、「面白い」か「面白くないか」のどちらかの感覚だけで生きてきた。だから、さみしいなんて感覚や感情を知らない。
「ひとりで、誰もいない。誰もそばにいない、ずっとひとりだと、人に会いたくなる、誰かに会いたくなる。それが、寂しい」
語りかけてくる朝陽に、朱色童子は首をかしげる。
「わからない、わからないよ?」
さみしいか、さみしくないかなんて、朱色童子には関係ない。
「関係あるよ」
ぴしり、と朝陽は告げた。あなたの考えていることはお見通しだといわんばかりに。
「何となくなんだけど」
朝陽は、下腹部をさすりながら困ったように続けた。
「“あの子”が、いってるような気がするの。朱色童子はひとりだから、自分がいっしょにいてあげるって」
朱色童子の瞬きの回数が一気に多くなった。何をいってるの、理解できないよ、といわんばかりに。
「だから、ね」
朝陽は朱色童子の頭をポンポンと優しくたたいた。
「待ってて、って。生まれるまで待ってて、って」
朱色童子は、しばらくぽかん……として朝陽の下腹部を見、朝陽を見、もう一度朝陽の下腹部を見……そして笑い転げた。
「あはは、あはは、馬鹿だよ、きみ、馬鹿だよ!」
ひとしきり笑い転げた朱色童子は、ふっきれたような、どこか憑き物が落ちたような晴れ晴れとした顔で朝陽を見た。
そして、ぽんぽんと後方へ宙返りを繰り返し、宝木の枝に座り、
「じゃ、これあげる!」
朝陽に向かって“何か”を投げた。
「待ってろって伝えてよね!」
そして、一言告げて――笑い声だけを残し、すうっ……と霧のように消えていった。




