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永遠の友達 (妹 六歳)



江戸時代から続く名家である七瀬家の敷地は広大で、人気のない森の奥に居るような静謐な空気に満たされている。

優奈は日本庭園を一望できる離れの和室で一人、今日の主役である親友の葵の帰りを待っていた。


「あおいちゃん、まだかなぁ…?」


七瀬の次代を継ぐ者としてのお披露目を来年に控え、予行練習のために今年の誕生日は親族一同を集めてホテルで盛大に行うのだという。

招待客全員に向けた挨拶と分家の当主との顔合わせが終わり次第直ぐに本家(こちら)に戻り、家族と親しい友人のみの誕生日会をする……という計画だった。


母と兄は母屋でご馳走を作っている。

優奈は「自分も手伝う」と申し出たが、母に「よそいきの服を汚すといけないから」とあっさり却下され、代わりに部屋を飾る紙の花をつくるように頼まれた。


ひとりでこつこつと作っているうちに、いつのまにか材料がなくなった。

ふと気がつくと、自分の周りはふわふわな軽い紙の花でいっぱいになっている。


大好きで大切な幼馴染は、この花々を見て喜んでくれるだろうか?

(そら)に向けて真っすぐに咲く花の名を持つ彼女が喜ぶ姿を思い浮かべると、優奈はにっこりと笑った。


花を潰さないようにそっと立ち上がり、飾りつけはどうすればよいのか母に訊きに行く途中、優奈の足はぴたりと止まった。


「……?」


綺麗に刈り込まれたツツジの花の甘い香りの中、優奈は小首を傾げて何もない空間を見上げ、声なき声に耳を傾けた。


「こっちって、どっち?」


独り言にしては大きな声で、誰かに問う。


「そっちにいるの?

……うん、行ってみるね」


優奈が迷いのない足取りで向かった先は、紫陽花が植えられている区画だった。

瑞々しい葉を茂らせた木々の根本近くに、葵が薄い水色のドレスを着たまま地面に座り込んでいる。

優奈の大好きな葵のふわふわの髪にはドレスと同色のリボンが飾られていたが、彼女の心を映したかのように乱れていた。


優奈は葵を驚かさないように足音を立てながら歩みより、そっと声をかけた。


「あおいちゃん、どうしてこんなところにひとりでいるの?」


「…。」


「そのドレス、すごくかわいいね。

たちあがってみせてほしいな……だめ?」


「…。」


「ゆぅな、いま、はなしかけちゃ、いけない?

あおいちゃんの、じゃまになってる?」


ふるふるふる。

今まで無反応だった葵が、膝に顔を伏せたまま、否定の意を示した。


「……ほてるのおたんじょうびかいで、なにかあった?」


「…。」


今度の問いに対しては葵の返答がなかった。

優奈はパーティに出ていた誰かが葵をいぢめたのだと確信して、問いを重ねた。


「だれがいぢわるしたの?

そのこ、どこにすんでるの?」


「……ゆぅなちゃん、どうしてそんなこときくの?」


「ゆぅながそのこのこと、なぐってくる!」


「…え?」


「あおいちゃんのこと、いぢめたんだもの。

それくらいのしかえしは、きっちりさせてもらうわ!」


ふんっと鼻息荒く言い切った優奈の勢いに驚いて、葵は伏せていた顔を上げる。

葵の宝石のように美しい紫紺の瞳が涙で潤んでいるのを見て、優奈の怒りは更に倍増した。


「おしえて。

どこのこがあおいちゃんをなかせたの?」


「…べつに、いぢめられたわけじゃないの。

だから、だいじょうぶ」


「だいじょうぶなんかじゃない。

だいじょうぶだったら、あおいちゃん、ないたりしないでしょう?」


「ほんとうに、なにもされてないの。

ただ……も………るい……いっていわれただけで」


「いま、なんて?」


「きもちわるいって、いわれただけなの」


「きもちわるいって、あおいちゃんのどこが?」


自慢の幼馴染の何処が気持ち悪いと言われたのかわからず、優奈は首を傾げた。


「わたしの、め。

へんないろがついていて、きもちわるいって」


「…っ!」


葵の瞳は、生粋の日本人には持ち得ない色。

室内ではあまり目立たないが、その暴言を吐いた誰かには、ハッキリと違いが見えたのだろう。


「ことばだけだから、いぢめてないなんて……そんなことないっ」


「ゆぅなちゃん?」


「あおいちゃんのめのいろ、きれいだよ?

ゆぅなはだいすきだもん!

だいすきなあおいちゃんのこと、なかせるようなこというこは、きらいだもん!

あおいちゃんがよくても、ゆぅなはゆるさない!

ひゃっかいぐらいぶって、ごめんなさいってあやまらせて、それから、それから……」


そう言いながら大声で泣き出した優奈を前にして、葵はおろおろと視線を周囲に彷徨わせた。

誰もこの場に近寄ってこない事を悟ると、急いで立ち上がり、大泣きしている優奈をぎゅっと抱きしめた。


「ゆぅなちゃん、わたしのためにおこってくれて、ありがとう。

…でも、もう、なかないで。

わたしも、だいすきなゆぅなちゃんがないているのは、いやなの。

わらっているゆぅなちゃんのほうが、すき」


「…ひぃっく…」


「ひゃっかいもぶったら、ゆぅなちゃんのても、いたくなっちゃうでしょう?

だから、しかえしなんて、しなくていいの」


「…ひっく」


「わたしね、ほんとうは、ゆぅなちゃんとおなじ、めとかみのいろがよかった。

みんなとおんなじいろで、うまれてきたかった。

…でも、ゆぅなちゃんがきれいって、いってくれるから、きらいにはならないの」


「…。」


「わたし、もっと、つよくなるから」


「?」


「みずしらずのひとのことばに、ゆらがないくらい、つよくなるから。

ゆぅなちゃんにしんぱいをかけないくらい、つよくなるから。

……だから、これからも、ずっとおともだちでいてね?」


葵の言葉に、優奈は頷く。

二人は互いの小指を絡め、声をあわせて古風な誓いを立てる。


「うん!

ずっとずっと、なかよしのおともだちでいようねっ」


ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーますっ。

ゆびきった!


声を揃えて言い終えた瞬間、ふわっと温かい空気が地面からわき上がった。

驚いた二人が辺りを見渡すと、先程まで緑の硬い蕾に覆われていた紫陽花の花が満開になっている。

青紫、赤紫、水色、ピンク…色とりどりの花々に囲まれて、二人は首を傾げた。


「まだごがつなのに…どうしたのかしら?」


「さっきまでつぼみだったのにね?」


不思議な現象の解明に頭を悩ませているうちに、二人の母が呼ぶ声が聞こえてきた。


「優奈ー? どこにいるのー?」


「葵ちゃん、出ていらっしゃい。

お腹すいたでしょう?

パーテイをはじめましょう~」


「「はぁい!」」


二人は元気よく返事をすると、ぎゅっと手を繋いで母親たちの元へと駆けだした。




大変お久しぶりの番外編。

確か、お気に入り登録数2000突破記念…だったような気がする(ぉ

作中の季節は五月上旬です。 ← 書き上げるの遅れすぎ。


当初は男だらけ(兄・ちび執事・幼馴染)の話を書いていたんですが、あまりにも不毛な会話が続くので没にしました。



コチラの世界にも精霊さんがいて、ちいさい頃の優奈さんを導いたりしてましたよ…な話と、「あおいちゃんだいすき!」な言動を盛り込んでみました。

『魔法少女はじめました』の中の葵の言動を覚えている方は「え、性格違わない?」という感想を抱いたと思いますが、優奈さんの「すきすきフィルター」がかかってるので…(以下略


次話、書くか解らないので、完結設定にしておきます。

読んでくださってありがとうございました。


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