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地獄の最下級悪魔に転生した元斥候、「殺せ」の命令を蹴って魔核を喰らい進化する ~地獄を束ねても、帰る場所は十年待たせた仲間の食卓です~  作者: 雅龍(がりゅう)
第三部 魔将を討って帰る

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補給を断つ牙

城への補給を、ひとつ断つ。狙いは東の崖下に口を開けた洞窟だ。荷役が運んだ核はまずここに集められ、検められてから塔へ送られる。ここを潰せば塔へ届く魔力が細り、グラドの力もそのぶん削れる。


荷車の数を二日数えて、東の崖がいちばん多いと目をつけた場所だった。入口の見張りは六匹。槍を持ち、腰に命令板を下げている。槍の長さは一丈と少し、こちらの爪より二歩ぶん長い。懐に入れさえすれば、その長さが邪魔になる。一本道の通路の奥に広間があり、増援が来るなら、その通路を駆けてくるしかない。


隠れもせず、正面から歩いた。


一匹目が俺に気づいて槍を構える。俺が殻を広げる前に、後ろの五匹が一斉に笛を吹いた。甲高い音が洞窟に反響し、奥から駆けてくる足音が聞こえる。


いい。呼べ。全員を一本道に出してくれるなら、手間が省ける。


槍の穂先が三本、同時に突き出された。揃いすぎている。訓練は積んでいるらしい。殻で弾く。弾いた衝撃が殻に溜まり、黒閃となって返った。三本の槍が根元から折れ、持ち主が尻もちをつく。背を向けて逃げかけた一匹の膝裏を、柱の影を伝わせた影裂爪で斬り、跳脚で飛び込んで二匹目を蹴り飛ばし、残る三匹の槍を爪の一振りで叩き落とした。六匹とも床に転がるのに、十数える暇もなかった。


奥から増援が現れた。十数匹が通路を埋めて迫ってくる。先頭の連中が転がる同僚を見て足を止めたところへ、腺を黒焔に切り替えて放った。


腕二本分の炎が通路の天井を舐め、壁になって道を塞ぐ。燃やすつもりはない。足止めだ。後ろから押された連中が前の連中とぶつかり、通路が団子になる。炎は三十数えるあいだ持つ。それが俺の持ち時間だ。通路の長さは四十歩。まともに駆ければ、炎が落ちる前に増援の足が止まる計算だった。


天井に影の帯を敷いて、詰まった頭の上を八歩で越えた。


*


奥の広間に、守備長がいた。


岩のような体格に、左腕に巨大な盾、右腕に重い戦鎚。脇に副官が二匹。守備長は俺を見て、短く笑った。


「鼠が一匹か」


戦鎚が振り下ろされ、床が割れる。飛び退いた先を盾が塞ぎ、副官の槍が両側から来た。うまい連携だった。影渡りで盾の裏へ回る。だが守備長は盾を回さず、背後へ蹴りを放った。読まれていた。殻で受けたが、衝撃で足が床を離れ、壁に叩きつけられる。


強い。数えた呼吸は、もう十五を過ぎた。


それでも、今の蹴りも、さっきまでの打撃も、全部殻に溜まっている。立ち上がって、前腕の殻を傾けた。


守備長が盾を捨てた。両手で戦鎚を振りかぶる。勝負をつけに来たのだ。


来い。


戦鎚が前腕を直撃した。ずん、と衝撃が肩から胸へ抜け、膝が折れかける。歯を食いしばって堪えた。殻の内側で、溜まった力が渦を巻いている。


一撃分と、それまでの全部。そのまま返した。


黒閃が胸甲を貫き、鎧が真っ二つに割れた。守備長がよろめく。胸から黒い血が噴き、目が見開かれた。初めて、俺が何者なのかを考え始めた顔だった。影を伸ばして足を取り、仰向けに倒す。胸に飛び乗り、黒爪を心臓へ突き立てた。


動かなくなった。炎の壁が落ちるまで、まだ五つほど残っている。


窪地の頃は、獣一匹に爪を何度も当ててやっとだった。盾と戦鎚を構えた守備長は、受けて、溜めて、返して、爪一本だ。手強さは桁違いのはずなのに、手数は片手で足りた。


副官二匹は壁際に下がって、槍を取り落とし、手を上げていた。片方は震えながら、拝むように頭を下げてくる。


「核を、置いて行け」


地獄語で短く言うと、二匹は袋の山を指さした。俺が手を出す前に、自分たちで袋を抱えて洞窟の外へ走り去る。通路の増援は、炎が落ちて広間に踏み込んだところで、倒れた守備長を見て足を止めた。誰も、それ以上は進んでこなかった。


広間に静けさが戻った。守備長の卓には、湯気を立てる鍋が置きっぱなしだった。匙は二本。副官と交代で囲んでいたのだろう。残りの根菜は五切れ、芯まで火が通っている。根菜のスープだ。匂いに負けて一杯だけすすると、塩が効いていて旨い。悔しい。尾がぺしと床を打ったので、慌てて踏んで押さえた。


*


袋の山の半分は、灰魔の核だった。窪地で死んだ連中のものだ。胸が重くなった。彼らの核は吸わず、袋ごと洞窟の隅の穴に埋めた。


取り出したのは、守備長の核だけだ。重い戦鎚と盾の技術。守りを崩さず攻める型。その情報が熱とともに流れ込む。合うものだけを選んで取り込んだ。補給の一つを断ち、塔へ流れる魔力は、わずかに細くなる。


出がけに戦鎚を持ち上げてみたが、びくともしなかった。置いて出た。


数日、洞窟の奥で黒爪の訓練をした。魔力を圧縮して密度を上げると、爪の輪郭が震える。岩に切りつけるたびに、半ばで折れた。床には折れた爪の欠片が六十本ほども散らばり、夜は指先が熱を持って眠れなかった。それでも、数日目にようやく、岩を一息に断てる爪が手の先に残った。


黒刃、と呼ぶことにした。この身体では長く保てない。だが、次の身体なら使える。


竜の核と守備長の核。二つを重ねたら、俺は何になるのだろう。腹の底が、早く焼けたがって疼いている。急ぐなと、爪の先で石を叩いてなだめた。


洞窟の入口から見上げると、崖は十丈ほどもある。その向こうで、塔の先端が、赤黒い空に突き刺さっていた。


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