9 ヴィクトーの決意
アルノーは、病室にいた獣人についての報告をするため、ヴィクトーの執務室を訪れた。
「ヴィクトー!あの狼獣人と少女の関係が分かりましたよ!」
「どんな関係だった⁉」
執務中の手を止めたヴィクトーからは、そわそわしたような若干の緊張感が漂っている。
「あの二人はどうやら二十年前の戦闘の時に出会っていたようです!」
「……は??? あの少女はどう見ても十代だろ? どういうことだ?」
全く意味が分からない、という表情でアルノーの報告の続きを促す。
「あの少女、まず前世の記憶があります。で、その前世の時の番があの獣人です」
「…………」
ヴィクトーはその報告に開いた口が塞がらない。
「そんなことがあるのか?どれだけの確率でそんなことが起きるというんだ……」
オリヴィエの前世での番なら、番の香りであの獣人が前世の番だと判別することは不可能なはずだ。
今のオリヴィエが番と判別する可能性があるのは、番であるヴィクトー自身だけ。
相手の獣人にしても、自分の唯一無二の番を亡くしてしまったら二度と番には会えない。
前世の記憶を持った転生者の話はたまに聞くが、それでも前世の番と転生後の存在が出会うなんて話は、一度たりともヴィクトーは聞いたことがなかった。
(なのに、なぜあの二人は分かった?)
ほぼ起こり得ることのないことが起こっていることに、ヴィクトーは動揺が隠しきれない。
想像以上の二人の繋がりに、あの病室での二人のやり取りが思い出される。
今にして思えば、オリヴィエは確かに獣人に対して信頼するような目を向けていた気がするし、獣人は見守るような目で、一歩引いてオリヴィエとヴィクトー、アルノーの会話を聞いていたように見えた。
(まさかのまさかだが、あの獣人にオリヴィエをとられるんじゃないか)
言いようのない不安が湧き起こり、神のいたずらとも思えるようなあの二人の出会いに、居ても立っても居られない。
あの二人は友人同士や親戚という、ありふれた人間関係ではないのだ。
元々は魂が引き合った者同士。
ただ、今はオリヴィエが生まれ変わったことで、オリヴィエの番は自分。
ヴィクトーはオリヴィエに焦がれ、何としても振り向いてもらいたい。そして番として一緒に生きていきたい。
ヴィクトーが難しい顔をして悩み始めてしまった様子を見ていたアルノーは言う。
「とにかく、オリヴィエ嬢と接点を持って交流していくしかないですね。きっとヴィクトーの熱意は伝わりますよ」
そう、これからオリヴィエに振り向いてもらえるよう、努力するのみだ。
番のためならどんなことでもしよう。
人生で初めて、己に流れる竜特有の執着心が燃え上がるのをヴィクトーは感じていた。
ヴィクトーはオリヴィエに手紙を出せずにいたが、これからの出来事のために奔走していたのだった。
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