6 ライアンとマノンの思い出を知る
その日のうちに病院から帰宅したオリヴィエは、七日後に近くの公園でライアンと会うことにしていた。
ライアンにもっと話を聞くためだ。
連絡を取りたいと言っていた、あの美しい番だという人からの連絡はまだない。
たまたまオリヴィエが倒れた日は、ヴィクトーの番探しのために街中の警備が厳重だったが、それ以降はいつもの日常に戻っていた。
「ライアンさん!」
遠くから歩いてくるライアンを見つけたオリヴィエは、ベンチから立ち上がり声をかけた。
ライアンは片手を軽く上げて反応した。
「遅くなってすまない」
「大丈夫です」
「とりあえず、どこかのお店でお昼ご飯を食べながら話そうか?」
「そうですね」
まだ昼食には少し早い時間であり、どこも店内はさほど混んでいない。あと30分もすれば本格的に混んでくるだろう。
公園に面する、こじんまりとしているが、手ごろな価格でおいしいと評判のお店がある。
その窓ぎわの席を選んで向かい合わせに座った。
窓からは散歩をする人や、ベンチにたたずむ人々の姿が見えた。
オリヴィエにはライアンに聞いてみたいことがたくさんあったが、自分の感情がどうしてもマノンに引っ張られるような気がしていた。
自分がどうしてこんな辛い前世の記憶持ちになったのか。
それまで分からなかったが、先日ライアンに会ったことで、その意味を見出せた気がしていた。
きっとマノンは、ライアンに謝りたかったのだ。せっかく会えた番なのに、先に逝くことを。
ライアンを一人にさせてしまうことを。
オリヴィエはそれをライアンに伝えたいと思っていた。
「ライアンさんは、マノンさんが番ということは、いつ分かったんですか?」
「……少し長くなるけど、いいか?」
「はい。せっかくなら、当時の状況とかも教えてもらえたら嬉しいです」
オリヴィエにとって、マノンを知るうえでこれ以上最適な人物はいないのだ。
(自分の前世の人物を知ることができるなんて、なんて幸運なんだろう)
「あの獣人対人の戦闘が続いていた二十年前、俺は前線の地上部隊にいた。マノンは空中部隊。あの当時、獣人で、しかもその動物の形態をとれる奴は重宝されて、元々軍人じゃない奴も軍に駆り出されていた」
「もしかして、マノンは元々軍人じゃなかったんですか?」
「ああ、そうだよ。マノンは元々は軍人じゃなかった。知っているかもしれないが、動物のその種族特有の能力が発揮されるからね。マノンはフクロウ獣人で、前線での夜の警戒、監視の役割を担っていたんだと思う。日中見かけることはほぼなかったし、彼女はフクロウで夜目が利くからな。俺らの隊は交代制で、活動が日中の時もあれば夜中のこともあったが、マノンは夕方から夜に活動が始まる感じだったな」
「マノン、きっと一生懸命に活動してたんですね。私の記憶にあるマノンが見た光景は、夜が明けて、明るい状態でした」
ライアンが視線を外に向け、懐かしい記憶を思い出すように穏やかに話してくれる。
「マノンはいつも遠くを見て、同じ監視係の鳥獣人同士とコミュニケーションをとりながら任務に就いていた。真剣な表情がかっこよかったよ。マノンが配属されて、暫く経ったころ、上空から風に乗ってうっすらと番の香りがしてきたんだ。で、その時にマノンが番なんじゃないか、って気づいた」
ふとこちらを振り向いたライアンと目が合う。
「ライアンさんは、マノンの香りで番だと気づいたんですね?」
「ああ、そうだよ。気づいた時は本当か⁉ って嬉しかったよ。どんな子なんだろうって。でも、あの当時、自分の持ち場を離れて、話したりできる雰囲気でもなくってね。地上と上空、どうやってもなかなか話す機会なんてなかった。マノンたち空中部隊は監視のために決まった木の上の方にいたんだが、俺らの待機所からも見えてはいたんだ。そんなに姿は大きくは見えてはいなかったけどね」
「それでも、話したこともなくても、見える範囲にマノンがいることは嬉しかったんですよね?」
「あぁ、すごく嬉しかったし、彼女も頑張っているから、俺も頑張ろうと思えたんだ。俺も狼の状態だとかなり夜目が利くようになるから、夜中、自分の任務をしながら地上からマノンを眺めていた。……いつか戦闘が終わったら、彼女と話したいと思っていたんだ」




