2 思わぬ出会い
「ここは……」
そっと目を覚ましたオリヴィエは、ぼんやりとした頭で考える。
なぜか見知らぬ部屋にいてベッドで寝ている。
他にも区切られた部屋にはベッドがあり、病院にいることが察せられた。
(そうだ、体調が悪くなって、真っ暗になったんだった)
意識が戻ってきた頃、ふと窓の外に視線を向けると、窓の近くに椅子に座っている獣人がいる。
この世界では、人間と獣人が混在して暮らしている。
二十年ほど前には獣人と人との戦闘があったが、現在それは終息し、大分人と獣人の交流も増えてきた。
「大丈夫か?」
窓近くにいた獣人が立ち上がり、少し近づいて話しかけてきた。
犬の獣人か、狼の獣人か。耳としっぽが見える。かなり背は高く、がっしりした体躯をしている。年は四十代に乗っているかどうか、というところだろうか。
知らない人だけれど、とても心配してくれていたようだ。
オリヴィエはベッドから上半身だけ起こした。
「はい、意識が戻りました。もしかして、ここまで運んでくださったのですか?」
「そうだ。地面にうずくまって、動かなくなっていたからな」
オリヴィエは恐縮してしまう。
「大変ご迷惑をおかけしました」
「いや、気にしないでくれ」
「ここまで運んでいただき、ありがとうございました」
心からの感謝を込めて言った。
通りすがりの人に助けてもらえて幸運だったと思う。道の端にしゃがんだ気がするが、そのまま道にいたら危なかっただろう。細い道だったけれど、馬車も通るし、人さらいだっている世の中だ。
挨拶もできたし、獣人はもう帰るだろうと思ったが、また椅子に戻ってしまった。
(あれ?この人は帰らないのかしら?)
オリヴィエは少し首を傾げたが、まだ何となく、いつものようにしゃきっと動けない。
「少し話せるか?」
「はい、大丈夫です」
「君は、俺のこの目の色に覚えはないか?」
思いもかけない問いに、オリヴィエの思考が停止した。
「多分お会いしたこともないし、その眼の色の友人もいないと思います……」
(……あれ?でも、何か引っかかる……)
考え込んだオリヴィエの様子を見て、心配そうな、どこか縋るような目を向けてくる獣人。
深い緑色をした目は確かにかなり珍しいだろう。瞳が青系か、黒、茶色系がほとんどで、緑というのはあまりいない。
「多分、お会いしたことはないんですけど、でもどこかで会っているような……なんか引っかかる感じはします」
「そうか」
獣人は言葉少なに、視線を落としている。
ふと獣人は顔を上げると、オリヴィエに目線を合わせて話し出した。
「俺はライアン。ライアン・シュヴァリエという。代々、騎士家系で、二十年前の戦闘時には前線にいたんだ」
「私はオリヴィエ・リシャールです。激しい戦闘があったことは学校で習いました」
「そうか……」
あまりに沈痛な表情を見せるライアンに、なんと声を掛けていいか戸惑ってしまう。
ちらっと窓を見遣ると、窓の外にはかなり黒い雨雲が広がってきていた。もう間もなく雨が降ってくるだろう。
「ううっ……」
首の付け根を押さえて眉間にしわが寄ってしまうオリヴィエを見て、ライアンは心配そうに声をかけてきた。
「首が痛いのか? 見せてもらえるか? 医者に伝えてくるから」
襟の隙間から少しだけ首元をひろげると、不自然にくぼんでいる箇所があった。
ライアンの顔が驚きの表情になったかと思うと、次第になぜか悲しそうにゆがんだ。
「この傷あとはいつから?」
「生まれた時にはあったんだと思います。雨が降るとなぜか痛くなるんです。治らないんで仕方ないんですけど。それでもやっぱり痛くて……」
「君は前世の記憶を持っていたりはしないか?」
ライアンの瞳は何かにすがるようで、緊張をはらんでオリヴィエを見つめていた。




