1 オリヴィエのトラブル
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(番と出会って、一緒に暮らしていけたらなあ)
夜、オリヴィエはベッドに入って眠る前にいつも思う。
寝ている時の夢を通じて、幼少時から少しずつ前世の記憶を思い出したからだ。
その記憶は、オリヴィエにとっては強烈なものであったが、それ故に未だ会ったことのない番への憧れは強まっていくばかりなのである。
(番に会えばすぐ分かるって言われてて、私もよーく分かってるんだけどなぁ)
しかし叶えるのは非常に難しい願いである。
(自分の番は一人。その一人は世界中のどこにいるのかも分からない……)
出会ったら離れることができないほどに愛する「番」
そう思ったところで、寝落ちしてしまった。
翌日。
一昨日十六歳になったオリヴィエは学生でありながら、生活費の足しにするため、時間のある時は食堂で働いている。両親は他界し、兄と二人暮らしなのだ。今日は休日なので朝から働く日だ。
「おはよう!」
オリヴィエの弾むような声と笑顔。
エプロンを首から掛け、大急ぎで腰の後ろでエプロンの紐を結ぶ。
「今日も元気だね」
一緒に働いているマーサは、その元気さに苦笑している。
オリヴィエのどんぐり目のくりっとした瞳は薄い青色をし、形の良い鼻と口に、こげ茶色の髪を三つ編みのおさげにした姿は、ご近所さんからも可愛らしい愛嬌のある子として認識されていた。
「今日はお客さんが多いわね」
オリヴィエは五十人程が座れる店内が、いつも以上に混雑している様子を見渡して呟く。
「なんでも、街中の警備が厳重になっていて、路上での飲食が禁止になっているんだって」
マーサはお喋り好き故に様々なところで情報を仕入れてくるので情報通である。
「それで、お店で食べる人が多いのね」
(警備が厳重ということは、高貴な方々が通られるということかしら)
オリヴィエは忙しなく注文を取り、厨房に戻って料理人に伝えては、用意されていく料理を両手に持ち配膳する。
「ふう~」
やっと忙しい時間帯が過ぎ、お昼休憩だ。
いつも以上に混んでいた店内にずっといると、酸欠になったような気がする。
「ちょっと外の空気吸ってくる!ついでにおやつも買ってくるね!」
オリヴィエはマーサに伝えると、小走りで店の外に出ていった。
(なんか息苦しいかも。今日はお天気だし、調子いいと思ったんだけどな)
元々、曇りや雨の日は、古傷というわけではないが、首の付け根あたりが疼くように痛くなる。晴れていればそんなこともないのだけれど。
何度か深呼吸して、息苦しさをやり過ごそうとしていた時。
(あ、まずいかも。あ……)
オリヴィエの目の前の視界が段々と狭くなり、膝から力が抜けて頽れ、意識を失った。
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オリヴィエが倒れる前日。
カウラルネア帝国の皇太子ヴィクトーは、ラユール王宮の二階にある執務室にいた。
「私の番が、近くにいる!」
書類仕事のために机に向かっていたヴィクトーは、弾かれたように窓の外に顔を向けた。
執務机の後ろにある、開けていた窓から極僅かにふと香ってきた優しい、懐かしいような惹かれる匂いを嗅ぎ取ったのだ。
急ぎ立ち上がり、窓から乗り出すように顔を出し、外からそよそよと吹いてくる風に、金色の髪がなびく。
視力のいい紫色の目を凝らしてみるも、見えるのは中庭を通るいつもの使用人たちだけ。
(おかしいな、確かに番の匂いだと思うんだが……)
竜人族として持ち合わせる鋭い五感を研ぎ澄ませても、番の姿は見つけられない。
側に控えていた側近であり護衛のアルノーは、目を見開いて驚いた表情をしている。
「本当に⁉ でも、どこにいるかまでは分からないでしょう?」
「場所は分からないが、風に乗った香りが届くくらいの距離にはいるはずだ」
「……範囲が広すぎますよ……よく番だと分かりますね……」
アルノーの表情には、本当なのか、という疑念が表れている。
「だから、番探しに協力してくれ!」
「えぇ⁉ 私に頼まれても、私にはヴィクトーの番の匂いがわかるわけでもないし、それは無理です!」
「確かに。ならば番を探しに行く時間を確保してくれ。自分で探しに行く」
「はぁ……番なら、仕方ないですね。後でちゃんと仕事はしてくださいよ? あと、私も護衛としてついて行きますからね?」
ヴィクトーだって分かっているのだ。仕事はおろそかにしてはいけない。
でも、すぐそばにいるかもしれない番を探しに行きたい気持ちがむくむくと膨れ上がってきていた。
カウラルネア帝国の王族はヴィクトーも含め、竜の血を引いているとされ、この帝国で一線を画す存在である。
ヴィクトー自身、王族らしい強靭な肉体を持っているが、アルノーの先祖にも竜の血が入っており、護衛として連れていくには適任だ。それに幼馴染で気安いのだ。
「明日のこの時間くらいに、この王宮から西方面を探しにいく。そちらから香りが流れてきた気がする」
「じゃあ、今くらいの時間帯に動けるように手配しておきます」
ヴィクトーの瞳はらんらんと輝き、まだ見ぬ番への期待で浮かれる気持ちが抑えられない。
自分が番を願う気持ちと同じように、相手も思ってくれるだろうか。
出会った瞬間からお互いに幸せを感じられるのだろう、と素敵な関係を夢見ていた。
まさか考えもしないような苦悩が待っているとは、この時は予想もできなかったのである。
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