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神アタリ先生の異世界調合  作者: 氏子かぞく
第2章  異世界抗争編

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第32話 制圧




バッカスは自分の目を疑った。



気づけば世界が横を向いていたからだ。



実際はバッカス自身が拘束された糸によって投げ飛ばされていた。



そのままバッカスは倉庫の壁面に激しく叩きつけられた。




「うごふっ!?」




バッカスはそのまま床に落下し、げほげほと激しく咳き込んだ。



自分を拘束していた糸が、しゅるりはらはらと解けて床に落ちていく。



まだ自分に起こったことが信じられないという気持ちでバッカスは自分の身体とセティアを見比べる。




軍需物資を作り出すだけではなく、瞬時に敵の手足を拘束し、そのまま投げ飛ばすことのできるような能力を持っているなんて想像もしていなかった。




するとセティアは、拘束している縄を髪から伸びた糸の張力で強引に解いた。




その様子に驚愕しつつ、バッカスはセティアの能力が単なる強靭な糸の製造能力ではないことを感じ取っていた。




糸の強靭さより、むしろ恐るべきは糸を操るセティアの膂力りょりょく



大の男、それも自身より体格がはるかに上回るバッカスを髪から伸ばした糸で空中に投げ飛ばしているのだから。




だが、一度は攫ったはずの小娘に鉄火場一派の首領ボスの自分が屈するわけにはいかない。




「何してやがる、てめえら! 女を拘束しろ!! なんのために人質に取っていると思っているんだ!」




投げ飛ばされた身で手下に対して格好はつかないが、そんなことは言ってられないとばかりに、セティアの再度の拘束についても命令を出すバッカス。




バッカスが壁に激突して倒れているものの、セティアとバッカスとの間のやりとりをあまり見ていなかった鉄火場一派の男たちは、モアイに向かっていくよりセティアを相手にした方がいいとばかりにセティアに襲いかかろうとした。




セティアに近づく2人の男の腕に違和感が走る。



気づかないうちに無数の糸が巻きついていたからだ。




「なんだこれは?」と思う暇もなく、拘束状態のまま強制的に両腕を頭上に引き上げられる。




見えざる力に、男たちの顔は恐怖に引き攣った。




だが真の恐怖は、その後にやってくる。




両腕と同様に両足の拘束も完了していた無数の糸は、まるで意思があるように連動して男たちを強制的に海老反りの体勢に仕上げた。



そのまま床に落下すると思いきや、男たちの身体は逆に天井に吸い寄せられるように一直線にギュインと急上昇する。




男たちは自分の身に起こっていることを認識できないでいる。



それは男たちの表情に如実に現れていた。




――こんなこと起こるわけがない。


あ、そうだ。これは夢なんだ。


だって、見て。世界はこんなに早く動かない――




「「はビュっ?!」」




セティアの糸によって天井に激突させられた男たちは、白目を剥いて意識を失った。




急転直下、人質と思っていた無力な、それも身体を拘束された少女によって首領ボスが投げ飛ばされ、2人の男が瞬時に天井送りにされたことに、鉄火場一派の者たちは言葉を失った。




だが、男たちの顔には、まだあまり事態が把握できないゆえのセティアに対する侮りがあった。




「おい、お前。何をしてやが──」




セティアに向かいかけた男の腕にしゅるりと絡みつく不吉の予兆。



自分の身に起きて初めて事態の深刻さに気付き、頬を引き攣らせた男は、そのまま強制的に“立体空中軌道”へと移る。



3人目の男が天井に投げ飛ばされると、ようやくセティアの能力とわかり、恐怖の色に染まる者たちが出てくる。



そしてどこからか「ひっ?!」という声がしたと思うと、「当選おめでとうございます!」とばかりに空中へと飛翔ダイブする。



ちなみに、これは対象の身体に巻き付けた伸縮性の糸の反対側を天井にくっつけ、その伸縮性を利用して空中へ“発射”し、強制的に天井と口づけを交わしたあと、蓑虫みのむし君状態を味わえるというものだ。




見えない力によってどんどん人が無造作に空中に発射されるというホラー映画さながらの怪奇現象に、鉄火場一派の混乱と恐怖が増していく。




だがそんな光景のなか、当のセティアは意外にも冷静と興奮の間の境地にいた。




バッカスを糸で拘束し、投げ飛ばした時に感じていた怒り、そして何の力もないと思っていた自分が、体格の上回る男を凌駕する膂力を持っていたことに対する驚きは既に収まっていた。




対象を糸で拘束し、自分の糸の強度からして無理なく投擲(とうてき)できることを瞬時に理解できてからは、自分の力を冷静に受け止めることが出来ていた。




つまり、セティアは糸で拘束し、空中へ持ち上げ、死なない程度に壁に激突させるという一連の行為を、息をするように自然に行ったのだ。




その一方で、突如発動したこの力に、軽い興奮を感じていた。



それは例えるならば、柔道を習っている子が初めて一本背負いを鮮やかに決めることのできた感覚に似ているかもしれない。



あるいは『ストII』で、ザンギエフのスクリューパイルドライバーを初めて決めることが出来たとき。



あるいは『三國無双』で、初めて1000人無双を達成したとき。



つまり、セティアは今、この能力を使うことの"楽しさ"と"達成感"を味わっていたのである。




しかし、それはゲームの世界ではなく、現実に力を行使される者たちの犠牲あってのもの。




普通であれば、超常的な力の行使など、される方はたまったものでは無いと言いたいところではあるが、今回の場合は行使される方に主張出来ない事情があった。




すなわち、彼らは『被害者』ではなく、『加害者』であるということだ。




抵抗など出来ない小娘とたかを括って拉致、誘拐の犯行に及んだのは鉄火場一派であり、セティアはその被害者。




セティアの立場からみれば、加害者に対する正当防衛。



多少やりすぎたとしても、過剰防衛にもならない。




つまり、被害者であるセティアがこのような"無双"状態に入ってしまったとしても、当の加害者である彼らには抗弁や助命嘆願の余地はないのだ。




そんな彼らが出来ることはひとつしかない。




すなわち、逃げることだ。……可能であれば。




「こ、こっちに来るな! えっ……この糸は? まさかこれ――」




最後の言葉を発する代わりに空中へと“発射”された男が、天井に激突し、そのままぷらんぷらんと糸によって宙吊りになる。




セティアはその顛末を見届けて微笑む。




機関銃を持った女子高生がかつて呟いたように、「快・感♪」と唇が動いたのは、きっと目の錯覚だろう。




もしこの中に読唇術の技能を持つ者がいれば、その者は身の安全のために墓場まで秘密を持っていった方が良いかもしれない。




こうして鉄火場一派の男たちは、次々と天井にぷらんぷらんする。




発射される直前は「降ろしてーー!超、降ろしてぇえええーーー!」といった表情の男たちは、「はい、行ってらっしゃーい!」と言わんばかりのイイ笑顔をしたセティアによって送り出される。




その後、しばらく鉄火場一派の男たちの阿鼻叫喚と空中軌道発射(ロケットダイブ)が続き、ひとしきりすすり泣く声と呻き声が木霊こだまするようになると、セティアは今回の事件の元凶である男の傍に立った。




バッカスは手下たちが次々に蓑虫君にされていく光景に、すっかり戦意を喪失して床に座りこみ、呆然としていた。




「お待たせしました」




セティアからバッカスに静かに声がかけられる。




バッカスはセティアの顔を畏怖のこもった表情で見上げる。




セティアは、慈愛のこもった表情でバッカスを見おろす。



バッカスの顔が、恐怖に染まった。




「この落とし前は、どうつけてくれるんですか?」




絶対的強者から発せられた涼しげな声が、逆にバッカスの心を折った。



鉄火場一派の主だった者が、たった一人の力の前に屈した。


武闘派としての個の力と数の暴力をもって君臨していた勢力。その力の源を根底から破壊されたのだ。


そのすべての采配を自分が率いていた以上、首領ボスとしての手下に対する権威も地に落ちた。


もはや自分の力で組織を維持することはできないことは明らかだった。




バッカスは、強者の情けに縋るような視線をセティアに向けた。




「……て、鉄火場一派は今日をもって解散しやす。ど、どうかこの辺で許して――」




最後の言葉を発する前に、バッカスの身体は天井へ発射されていた。




バッカスも手下の男たちと同様に、きれいに天井から垂れ下がる模型オブジェと化した。




その様子を見上げた後、セティアは思い出したかのようにアタリたちの方へと顔を向けた。




そこには、セティアを呆然と見つめていたモアイ、アタリ、ゲンが居た。




もちろん、セティアの"無双チート"状態をアタリたちはずっと見ていたのだ。



その様子に愕然としていたのは言うまでもない。




なんたって、拉致誘拐されていたはずのセティアが、たった一人で鉄火場一派を有無を言わさず制圧したのだ。



それに引き換え、助けに来たはずのアタリは、両腕の粉砕骨折とドーピング効果切れの疲労困憊状態。




ゲンだって初めての本格的な戦闘を体験したうえ、力の使い過ぎで声も出せないほどだ。




アタリとゲンの内心は共通の思いで満たされていた。




((……いったい俺たち何のために来たの?))




そして本来、鉄火場一派の用心棒であったはずのモアイも、密かに思っていた。




(……この子と1対1(サシ)(サシ)で殺り合っていたら、アタシ勝てたかしら……?)




ともかく、複雑な気持ちを抱えることになった3人であるが、共通する思いはただ一つ。




(((……もう絶対にセティアを怒らせたりしてはいけない。ダメ、ゼッタイ)))




その表情には可憐な少女に対する畏怖の念がありありと刻まれていた。




ほどなくしてこの件は捨てられ村の市井しせいにおいて、まことしやかに語られることになる。




『鉄火場一派による少女拉致誘拐事件』としてではなく、『とある少女の恐怖事案(鉄火場一派壊滅の件)』として。




最後までご覧いただき、ありがとうございます。

続きが気になる!ココが面白い!と思っていただけたら、コメントやブックマーク等していただけると、今後の執筆の励みになります<(_ _)>!

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