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第4章:添い寝は『呪いの監視業務』に含まれますか?

 髪が乾き、温かいハーブティーも飲み干した。  さて、ここからが私の時間だ。


「では、アルフレッド様。私は地下の研究室へ行きますので、これにて」


「だめだ」


 立ち上がろうとした私の腰に、強靭な腕が回された。  驚いて振り返ると、ソファに座ったままのアルフレッド様が、私を逃すまいと抱き寄せている。


「い、いきなり何ですか。セクシャルハラスメントで訴えますよ」


「呪いの共鳴反応レゾナンスだよ」


「……はい?」


「君と僕の距離が離れると、呪いが活性化して発熱する恐れがある。今日は特に星の配置が悪い。だから朝まで、僕の半径1メートル以内にいてもらわないと困るんだ」


 嘘だ。  そんな文献、どの古書にも載っていない。星の配置と古代呪いに関連性などないことは、私の10年の研究データが証明している。


「科学的根拠がありません」


「あるよ。僕の『心』がそう言っている」


「それはただのワガママです!」


 抗議する間もなく、私は天蓋付きのキングサイズベッドへと連行された。

 ふかふかの羽毛布団に包まれ、隣にはシルクのパジャマを着た隣国の王子様。  どう見ても事案である。


「……アルフレッド様。この状況、私がどれだけストレスを感じているか計算できますか?」


「大丈夫。君には指一本触れないよ。……君が望まない限りはね」


 彼はそう言って微笑んだが、その瞳は笑っていなかった。  どこか痛ましげで、深く沈んだ色をしていた。

 彼は布団の上から、私の左腕――呪いの痕がある場所を、そっと撫でた。


「……ごめん」


 静かな謝罪の声。  さっきまでの子犬のような甘えは消え、そこには一人の男の苦悩があった。


「僕のせいだ。君のこの白磁のような肌を、僕の呪いで汚してしまった。……本来なら、宝石やドレスで飾られるべき腕なのに」


「……」


「10年前、君が僕の手を握ったあの瞬間から、僕は自分を許せたことがないんだ。君を救いたいと思いながら、同時に君を縛り付けている自分が、どうしようもなく浅ましくて」


 彼は私の腕をとり、呪いの茨模様に口づけを落とした。

 熱い。  唇の感触と、そこから伝わる彼の体温が、呪いの痕を通じて全身に広がっていく。


「……別に。これは私の研究対象ですし、不便はありません」


「嘘だ。社交界で陰口を叩かれていたのも知っている。君が長袖しか着なくなった理由も」


 彼は顔を上げ、至近距離で私を見つめた。

 その瞳に宿る光は、単なる「罪悪感」だけではなかった。  もっとドロリとした、熱くて重い執着。  そして、今すぐにでも私を喰らってしまいたいという欲望を、必死に理性で押さえ込んでいる色気があった。


「……本当は、今すぐ君を僕のものにしてしまいたい。10年待ったんだ。これ以上待てる自信なんて、本当はない」


「っ……」


「でも、君が僕を向いてくれるまでは我慢するよ。……だからせめて、今夜はこのまま、僕の腕の中にいてくれないか」


 切なげに眉を寄せる彼の表情は、あまりにも美しく、そしてズルかった。

 こんな顔を見せられて、拒絶できる女性がこの世にいるだろうか。  少なくとも、私の計算機ロジックには「拒否」の選択肢を弾き出す回路が残っていなかった。


(……心拍数、140上昇。顔面温度、危険域。これは……吊り橋効果の一種よ。そうに決まってる)


 私は自分自身に必死に言い訳をしながら、小さく頷いた。  すると彼は、安堵したように息を吐き、私を優しく抱きすくめた。

 彼の匂いと体温に包まれると、不思議と体の力が抜けていく。  恐怖はない。ただ、心地よいまどろみと、胸の奥がくすぐったいような甘い感覚だけがあった。


(……悔しいけれど。このベッドの寝心地だけは、評価してあげるわ)


 私はそっと目を閉じ、理性プライドの敗北を認めて、彼の腕の中で眠りに落ちた。

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