第六十六話 聞いてないよ!のはじまり
「総理‼ それは! それだけは絶対にダメです‼」
「黒岩管理監の言う通りです‼ どこの誰とも分からん者同士の戦場の真ん中に行かせるわけにはいきません! 総理、これは内紛でも動乱でもない。いわば宇宙戦争なんですぞ‼」
「そうです! 福一の時とは、全く違うんです。私にいわせりゃ、あの時だってどうかしてたんだ。居ても立っても居られないのは我々も同じです! ここは抑えて下さいっ!」
内閣情報調査室長の室岡も必死になって止めた。
止めたが……代替案を出す者もいなかった。
だが、山中官房長官だけは
「あの、漠然とした質問なのですが総理。あの戦っている、あれらと話だけでも出来ればよい……ということでよろしいですか」
と最初の通信不通状態の時からの腹案がありそうな気配を示した。
燕ノ宮が身を乗り出す。
「何か方法がありそうですか?」
「え・ええ、ま、ちょっと、どうなのかな? 久瀬さん、久瀬大臣。陸自の広報車両で拡声器がついたもの、ありますよね?」
久瀬は、それを聞いて山中官房長官の意図が読めたのか、その実現には難しい条件があることを口にした。
「あります。ありますが、通信ケーブルを何キロ伸ばせるか。それと、先ほどのような強力な電磁パルスが発生しますと、例え有線でも焼き切れる恐れが多分にあります。それでも、やりますか?」
これには山中ではなく燕ノ宮総理が答えた。
「私どもは、日本を日本国民を守る義務があります。それが脅かされそうな時に手段を選んでいる余裕はありません。やってください。お願いします」
現場に行こうとした総理だ。
ここは、その覚悟をかってやらねばなるまい。
「下命、承りました」といい補佐官に
「現場の状況が不明だから、業務車とかじゃなくてシキツウとかに装備させて行かせて。急いで」と小声で指示した。
会議室では矢継ぎ早に総理への報告がなされていく。
「あの、総理。中国とロシアから、彼らの偵察ドローンを日本が撃墜したと勘違いしての抗議がきていまして……」
外務大臣のバツが悪そうな報告に、「『我が国が撃墜したのではない』とだけ回答しておいてください」と言った後、流石に「見てたのに、わかんないかなぁ……」と両国への愚痴が出た。
海人は、あの敵要塞に勝つ方法というのを考えていた。
だが、手持ちの駒だけでは、どうしても思いつかず、明日乃にきいてみると軽く笑った。
「ビームが直撃する前に言っていた、あいつを破壊出来るかもしれない方法ね」と言いながらバズーカみたいなものを砂地に置く。
「エスプレンダーが、あれを十九機破壊しているんだけれど、どうやってやったと思う?」
それを聞きたいのだが。
困って本当に適当に答えてみた。
「えーと……強かったから?」
言ってから反省した。
さすがにこれは、ダメだろう!
あまりに適当過ぎた!
「なんだ、わかってるじゃない。正解よ」
「えっ!?」
今日の明日乃は、いつも以上に驚くことばかりしてくる。
それにしても、今のが正解?
どういう意味だろうか。
「なんてことないのよ。キャパシティの問題なの。一点に強力なエネルギーを与えれば、あの仕組みは割とアッサリとパンクするのよ。あくまで亜光速航行用の仕組みだからね」
言っている意味はわかった。
だが、そんな途方もないエネルギーをどうやって与えるのか?
「超質量バレットでもプラズマショットキャノンでも通じなかったのにかい? ん〜、例えば皆で一斉に撃つとか、そんな感じでやるとか?」
するとニヤニヤしながら
「半分だけ正解にしといてあげる。じゃあ、早速だけれどアイツを破壊するための正解を出しにいってもらっちゃおっかな~」
重大な危機なのにノリが軽い。
ある意味で宇宙科学研究倶楽部、最大の危機なのに。
「理久神くん。プログラムWを実行して。それじゃ、星野、姫子。いってらっしゃーい! ここで待ってるよー!」
『了解しました。これよりアルファとベータに替わりダブルウォーが制御を行います』
理久神が何かを起動したのか、ベータやガンマでも理久神でもない低いが若そうな男の声が聴こえた。
同時にガンマキャリーはベータウォーをコネクティングハンドルに吊るしたまま、移動を始める。
そこにアルファウォーが合流しベータウォーのとなりのコネクティングハンドルにぶら下がった。
『えーっ、なに、これ。お兄、どうなってるの? 操縦が全然できなくなったんだけれど』
「いや、僕に言われても。全く同じだし」
しかも戦闘空域からどんどん離れていってる。
明日乃が何かするのだろうか。
だから、僕らを先に逃がした?
『二人とも心配しなくて大丈夫です。はじめまして、私はダブルウォーです』
先程の若い男の声は、どうやらダブルウォーというAIらしい。
「ダブルウォー、戦闘空域から離れるのは何故だ?」
『それは私が私に戻る為です』
「ん? どこかを目指しているのか?」
『とりあえず敵要塞からの超水平線に達するまでを目指しています』
つまり、直接攻撃が出来なくなる水平線より下になるくらい遠い場所を目指しているという事らしい。
「明日乃を放って、どうするんだよ? いくら平気だっていっても万が一があるだろ」
『どうするという疑問には勝つためですと回答します。敵要塞、超水平線に入りました。ここからも、しばらくは私がコントロールします。二人とも正面のモニターを切り替えますので、行程を確認だけしてください』
正面の湾曲モニターの中央にベクタースキャンのような線だけで構成された各メカが表示された。
『ガンマキャリー、分体します』
ガンマキャリーの機首から胴体部分が主翼部分と分離していく。
『続いてアルファウォー、ベータウォーの変形を開始します』
「な、なんだ? 変形って、何になるんだよ?」
『わあ! お兄、わたしのアルファウォーが!』
表示を見ると、どうやら二機とも胴体からコの字に曲がってサイコロのような状態になっているらしい。
『主翼部の変形開始。機首部の分離開始』
今度はガンマキャリーの主翼の基部が、胴体部の抜けた部分に倒れ込んで接合した。
「これ、もしかして……」
表示では明らかに胴体部と腕部、大腿部にアルファウォーとベータウォーがキューブ状態になったもの。
ガンマキャリーから分離した機体の胴体部が二つに分かれて脚部となり、全体として漢字の『人』のようなフォーメーションを組んでいる。
『各部、接合。合体します』
軽い振動が四回起こる。
『操縦席、移動します』の声で操縦席が後ろに移動してから上へと上昇している感じがした。
ガッチャン‼ というロックされた音がして、幾分、広い操作席になり、右隣にはキャーキャー言っている姫子が操縦席にセットされた。
『ようこそ。ここが私、ダブルウォーの操縦席です。星野さんは主に動きを、姫子さんは武装の選択と運用を担当します。ユーハブ、コントロール』
「合体ロボだったのか……へぇー、目が横長で上下に二列あるんだ? えーっと、それじゃあスペックを表示してくれダブルウォー」
全高百メートルある。
恐らくパワーだけでも途方もなさそうだ。
このパワーを上手く制御出来るんだろうか。
(あ、だから、パワーの微妙な使い方を砂浜の紙コップ拾いでさんざん練習させられたのか)
つまり最初から、この機体を操縦するために長い期間の下積みをやらされてきたというわけだ。
しばらく武装の確認をしていた姫子であったが
「これ、武器を使うの、わたしだけじゃないみたい。そっちでも制御する武器がいくつかあるみたいだよ?」
『どお? ダブルウォーになった?』
タイミングでも見計らっていたんだろうか。明日乃から連絡だ。
「あーっ、お姉! こんなの聞いてないよ!」
「どうりで余裕があったわけだよ。これ、恐らくトンデモ強いだろ?」
『その話は後にして、早く戻ってきて。さっきからわたし、攻撃されてるんだけれど』
「いや、なに、その落ち着き」
『わたしはともかく、周りに二次被害が出始めちゃって。挙句、ミサイルみたいなのまで発射しだしたから残ったドローンで撃破しているんだけれど、大変なんだから』
ミサイルは、たしか準光速で使ってはじめて恐ろしい威力になるんであって、こんな普通に使っていたら、普通なんだから普通のミサイルだ。
そんなものまで使うなんて、宇宙人の作ったAIは、ヤケクソになることもあるんだろうか。
「わかった、今すぐ戻って加勢する。ダブルウォー。これ、操作はベータと一緒だよな?」
『同じ人型ですからね。いっしょですよ』
「一緒なら問題ない」
慣れた感じでスロットルを踏み込んだ。
『同じと言っても……目標地点を五十キロ過ぎました』
「もう! お兄、何やってんのよぅ」
「いや、ちょっと待って。何秒もたってないだろ!」
『距離が近すぎるので、移動は私がやります。アイハブ、コントロール。戦闘準備に入ってください』
「戦闘準備って言ったって……もう着いたのか‼」
敵要塞は、外装のいろいろなところが引き出しのように開いて、そこから大量のミサイルを放出している。
それを宇宙科学研究倶楽部のドローンと明日乃が撃ち落すのを延々と続けているようだ。
そしてミサイルの迎撃に集中している明日乃に向かってピンポイントでビームを命中させるということをやっている。
どちらも決定打がないのでチマチマやっているようにも見えるが小さく見える一つずつのミサイルの威力は二百五十キロ爆弾以上あるので、それが連続で延々と爆発する空中の状態は衝撃波の嵐となっていた。
「これ、外の音も物凄いな。それで、仮に明日乃の防御を突破できたとして、あの要塞は何をしたいんだろうな?」
「そんなの命令通りに再教育の為に東京まで出向いて制圧するつもりでしょ。それより、あのミサイルとビームのシャワーをなんとかしてあげないとお姉が可哀そうだよ。ダブルウォー、あれをなんとかする武器はないの?」
『敵要塞は、外部ハッチを開いて武装を展開しています。飛来するミサイルと武装の両方を一度に叩ける亜光速のサンドブラスト「スターダストストリーム」が適切です。ですが、それを使用すると……』
最後まで聴かないで姫子がスイッチを押しながら叫んだ。
「スターダストッ、ストリ──ムッ‼」
ダブルウォーの胸部が開くと炎のようなものが広がり巨大な銅鐸型の敵要塞を包んでいく。
敵要塞の周りから発射されたミサイルは全て削られるように消え去り、展開していた武装ハッチが全部閉じた。
どうやら防御態勢になったらしい。
スターダストストリームと敵要塞のエネルギー転換器の能力が拮抗しているのか、要塞の周囲がバチバチと放電しつつ銅鐸の上部からビームを放出している。
『ちょっと! 待って、待って! 周りが大変なことになっちゃってるから、その武器止めて‼』
明日乃の声に周囲を二人で見回すと、大気がプラズマ化して海水から水蒸気が上がっている。
『もう! 海の家が、ちょっと炭化しちゃったじゃない‼ もっと局所的な武器にしてよっ‼』
確かに、いい感じに小麦色にしてしまった。
『お二人とも、私の話を最後まで聞いてから判断してください』
ダブルウォーにも怒られた。
「じゃあ、何だったらアイツの変なシールドみたいなのを破れるのよ?」
『確実なのは「フラッシュパイル」です。これは先端にごく少量の反物質を使用した……』
「じゃ、それ‼ フラッシュ! パ」
「あーっ‼ 姫子! ストップ‼ ストップだ‼ その武器、ここで使っちゃダメな奴だから‼」
「なぁによ、お兄。あれ、壊せるってダブルウォーが言ったよ?」
そりゃ破壊出来るだろうが、反物質では少量といえど核爆発以上の威力も普通にありえる。
完全に、どこか地球から遠く離れた場所でしか使えない。
「なんか、もっと、こう、接近戦用の必殺武器みたいなのはないのかい?」
第一話より少しづつカットを複数枚入れていく作業を行っています。
絵がつくと、イメージが広がるかもしれません。今後も少しづづカット入れの話数を伸ばしていきます。
更にまだ2話までですがpixivの小説で、ストーリーの一部を漫画にまでアレンジしたハイブリッド版「明日の未来」をはじめてみました。それは不定期です。こちらのカットとは、また別な絵を使用しています。ご興味がありましたら覗いて頂けると嬉しいですm(__)m




