第六十七話 スーパーロボットのはじまり
『接近戦用武器って……ねえ、星野。忘れてるんじゃない?』
「忘れている? 何をかな?」
『やだ、もう。忘れていることを忘れてるんだもん。あれには重力圧縮式の核融合爆弾で自爆するってカードがあるのを忘れているでしょ』
敵要塞の堅牢さと周囲への被害に集中してしまっていて、明日乃に指摘されるまで完全に忘れていた。
あの巨大な要塞の真ん中辺に、そういう仕組みが存在している。
仮に表面上の無力化に成功したとしても将来の後続部隊の為に奴が自爆を選択するかもしれない。
それを阻止するために内部に侵入してチマチマと破壊しながら進んでいる様では、奴の機能が止まる前に核融合爆発を実行してしまうだろう。
「えらいことを失念していたな……理久神、推定される被害はどの程度だ?」
『あくまで推定ですが、関東がクレーターになる程度です』
この即答にも心が折れそうだ。
「姫子、武装のラインナップに周囲への被害が限定的で、実行された対象には致命的なんて都合がいい武器ってあるかい?」
『ひとつありますが、星野さんと姫子さんの協力が必要です。それと明日乃さんの許可が』
何だか仰々しいものだが、そんなに危なっかしいものなのだろうか。
逆に使って大丈夫なのかの不安が先にくる。
知らない武装ばかりだから、使用して確かめるつもりで取り返しのつかないことになるのが怖い。
姫子が武装の解説を読んでいたらしく
「これかなあ……ダブルハンマーっていうのがないと使えないのと、この武器を使う寸前まではお兄がダブルウォーを操縦して使うところまでいってくれないと、その後のわたしに引き継げないみたい」
ハンマーというと、アルファウォーのスティングハンマーみたいなものなんだろうか。
もし、そうなら姫子が使うのはよく分かるが。
「それと使う瞬間には、お兄の側でスターダストストリームを起動してくれないとダメなんだって」
「じゃあ、姫子は何をやるんだ?」
「この武器の起動とハンマーの振り下ろし動作。それと、何かわたしの能力をダブルウォーで増幅して使うらしいよ?」
なんだか非常にタイミングが難しい武器だ。
いっそ、三人同時にペダルを踏むくらいだったら良かったんだが、どうも仕組みがそうはいかないらしい。
『ブラスト・ベク・ド・コルバンは、本当の意味で私の必殺武器の一つですので、手順が複雑なのはご愛敬です。お付き合いください』
可愛くもない愛嬌もあったものだ。
そして舌を噛みそうな名前だ。
「それで、そのダブルハンマーは、どこにあるんだ?」
『それならドローン母船にあるよ。問題ないよ』
どうも明日乃は最初から使う気満々で持ってきていたらしい。
「じゃあ、そのブラスト……何だっけ。で、だったらアイツを一気に破壊出来るんだね? それで周囲にも被害を与えないで済むんだね?」
『そうなります』若い男の声が素っ気なく答える。
「間違いないかい?」
『北海道弁ですね。間違いないんでないかい』
「そういうつもりじゃないんだけれどなぁ。大丈夫かな、こいつ」
「じゃあ、早速、ダブルハンマーを取りにドローン母艦のところに行こうよ」
『あーそれね。行かなくていいよ。母艦の方をそっちに行かせるから。理久神くん。話、聴いていたよね?』
『はい、明日乃さん。既に移動中です。偽装解除しますか?』
『もう敵のドローンもいないから、わたしのところに着いてからでいいよ』
海人は、あいも変わらず不安になりっしっぱなしだった。
明日乃は自分の作った兵器の性能を知りたがるし、姫子は、とにかくぶっ放せれば気持ちいいって感じだし、自分はダブルウォーのことを全然知らないしで何を頼りに判断していいのかが見いだせてもいない。
このまま、ダブルウォー自ら言う程の必殺兵器が本当におかしな破局に繋がらないかが分からない。
だが、眼前にいる敵自動要塞は放っておけば必ず内蔵された生産能力で人類が抗うことも出来ず地球を蹂躙するだろう。
(やはり、どうあろうが僕らがやるしかない。既にここまでやってしまったんだ。どうせ引き返せないなら、まずは後顧の憂いを断ってやろうじゃないか)
『ドローン母船が接近します』
ダブルウォーの声で我に返った海人だが、理久神の『偽装解除』の声でドローン母船が空中でバラバラと崩れていく様を見て、また驚いた。
ドローン母船とは名ばかりで、ダブルハンマーの外側にドローン動力用の交換器をつけただけの代物だったのだ。
つまり、ダブルハンマーはある意味で最初から戦場に投入されていたわけだ。
「なんだよ! ギソウって言うから艤装のことかと思っていたら偽物の方の偽装かよ!」
ちゃらけたことを言っていたら、いきなり警戒音が鳴った。
『敵要塞からエネルギー攻撃の予兆を確認。ディスコンレイヤーシールド展開します』
敵要塞は、どうやら黙って引きこもっていたわけではなさそうだ。
一撃必殺の威力を持つエネルギーを蓄えていたが、こちら側がおかしな動きをしていると判断して、それを発射するらしい。
銅鐸では孔と呼ばれる、いわゆる穴の部分に紫色の光の玉が出現した。
明日乃を何で攻撃してもダメだったから、今度はダブルウォーを狙っている。
直径二十メートル程の図太い紫色の光線がダブルウォーを捉えた。
数秒間、光線は直撃したはずだが、実際にはダブルウォーから五十メートル手前の空間で光線そのものが消失していた。
「うわっ‼ って、平気なのか? 当たったんじゃないのか?」
モニターをみている限りでは、光線を真正面から見ているようなものだから直撃と感じるのも当たり前である。
『当たっていません。シールドには直撃しましたが、即時無効化されています』
あんなものをまともに食らったら、普通の物質ならば爆発やら蒸発やら、よくて液化やらで形をまともに保つことは難しいだろう。
一体、どうなっているんだろうか。
五十メートル手前という距離も物質防御ではないことを物語っている。
ドローンや空対艦ミサイルを消してしまう宇宙艦親父……
粒子ビームを食べる娘の明日乃……
破壊光線を無効化する明日乃が作ったロボット、ダブルウォー……
この共通点らしきものは、一体⁉
「……ま、考えてもしょうがないか! そういうもんなんだろう!」
一瞬、どんな仕組みなのかを考えようとしたが、宇宙人の作った武器まで無効化する仕組みなんて、人類のふたつもみっつも上の段階の話なのだから無理やり考えるだけ無駄だ。
『ん? 何か考えていたの?』
「いや、なんというかエネルギーが消えちゃう仕組みというか原理をね。でも、もういいや」
『そんなの電磁波が電磁波として存在出来ない空間レイヤーを出せば、そのエネルギーは他の形になるしかないから結果的にわたし達には影響がなくなるだけよ』
あっさりと明日乃が答えたので海人は
(ああ、本当に明日乃が作ったロボットなんだなあ。聞いても、ちょっとしか分かんないや)
としみじみ感じたのだった。
「お兄、今のが敵の切り札だったとしたら、けっこうマズイんじゃない? アイツが攻略を諦めちゃったら関東がクレーターになっちゃうよ!」
姫子の言う通りだ。
恐らく時間がない。
「姫子。やるしかない。ぼくが連れていくから、あとはぶっつけ本番で二人のタイミングを合わせていくだけだ! そのブラスト……」
「ブラスト・ベク・ド・コルバンね! アイアイサーだよっ!」
『私も補佐しますから大丈夫。ブラスト・ベク・ド・コルバン、きっと上手くいきます』
(こいつら、面倒くさい名前をすらすら言いやがって! まるでぼくが滑舌悪いマンみたいじゃないか)
そんなことを考えながら海人は、力を入れ過ぎないように、紙コップを掴むよりは強く、宙に浮くダブルハンマーの柄を掴むと踏み過ぎないようにスロットルを調整した。
敵要塞のほぼ真上に行くとエネルギー変換の副次効果であろう、恐らくシンクロトロン放射のビームを打ってきた。
「一発で決めないとならないなら真上近くからの急降下で、あの穴の下の本体中央部をやろう」
『星野さん、ブラスト・ベク・ド・コルバンはダブルハンマーのピック側を使用します。ハンマーを反転させてください』
「了解だ!」
『姫子さん、ベースパワーコネクタを腕に装着します。装着したら自分が相手に重力圧縮をかけるつもりでパワーを出してください』
「準備いいよっ!」
『相手の打ち込みたい場所に到達したら姫子さんは、そのままハンマーピックを突き刺してください。星野さんは同時で構いませんからスターダストストリームのスライドをいっぱいにしてください。では、どうぞ』
「おぅりゃあ‼ 突っ込むつもりで着地するぞ‼」
ダブルウォーがハンマーを引き連れてトンデモ速度で超高空から落ちて着地すると、その運動エネルギーが変換され銅鐸の上からビームが発射された。
「ブラストッ・ベク・ド‼ コルバンンン‼」
姫子が叫びながらハンマーを振り下ろす。
姫子の重力制御能力をベースパワーにして増幅された超重力が、ハンマーピックに変換器では吸収しきれない運動エネルギーを与える。
大気は震え、接触部分から派手に外装が飛び散る。
「ここだっ‼」
海人はスターダストストリームのスライドボリュームをガンと叩きこむと、ハンマーピックの先端から亜光速サンドブラストが放射され、たちまち内部を根こそぎ数百メートル削り取る。
その瞬間、敵要塞、自動制圧要塞十三号は「ア……」と一言だけ音声を出し沈黙した。
要塞は動力を失い三十メートル下に落下。
津波のような海水の上昇を生じさせた。
四メートル程の波が周囲に広がっていく。
明日乃は砂を使って防波堤のようなものを造り、海の家を守ろうとしたが間に合いそうもない。
すると、どういう訳か、波は海岸に近づくにつれて急速になだらかになり、ちょっと楽しめる程度の波になってしまった。
「あら……これって……」
一方、着水した要塞は、何かの反応で高まっているのか外装が膨れ始め、一部が剥がれて脱落しだすと、そこから派手に火花を噴きだした。
要塞の上にいるダブルウォーが立つ天板部分も、なんだか歪んできている。
「これ、このままだと圧力が高まっておかしな爆発を起こしそうだな。外装を思い切って引っぺがしちゃえないかな?」
『それなら、いい武器が』
「そんなのわたしに任せて‼ ライオニック、シャムシェルッ‼」
ダブルウォーの腕の外側にあったカッター状のツメが手首をカバーする形でセットされると「アイハブ・コントロール‼ いっくよっ‼ でゅえーいぃっ‼」と天井となっている床板部分を一瞬で切り刻む。
おかげで圧力は真上に抜けたが、ダブルウォー自体は要塞の中に落っこちてしまった。
まるで世界のびっくり動画九十九連発のような光景だ。
「自分で乗っかっている床を切っちゃうから! 別に痛くもかゆくもないから、いいんだけれどさ!」
「えへへー。この武器、使ってみたかったんだよねぇ。それにしても、また、盛大に削っちゃったから金属の粉が凄いね」
完全にいたずらしたかった悪ガキの顔だ。
まあ、姫子だから、これも仕方がない。
どうやら、金属の粉の山のずっと下には、止まりきっていない動力源だけがあるのだろう。
粉に引火してはいるが、幸いマグネシウムの様な派手な反応ではない。
「ダブルウォー、核融合自爆装置はどうなった?」
『今、我々が立っている場所が、核融合自爆装置だった砂の上です』
「あ……そ……」姫子がつまらなそうだ。
「まあ、これなら放っといても、暫くすれば収まるだろう。様子も見れたことだし、少し見回ってから引き揚げようか」
「あっ! キミ‼ だめだろ、こんなところで! なに、どうしたの⁉ 見物していたの? 危ないから、ちょっとこっちに来て‼」
「えっ、えっ⁉ なに⁉ なんなんです⁉」
明日乃は、陸上自衛隊が用意した拡声器付き指揮通信車の隊員に、なんと保護されてしまった。
「だーめだろ、若いこが、こんなところに浴衣で来てちゃ‼」
「え────っ⁉」




