第六十五話 窮地寸前のはじまり
ガンガンにぶっ叩いているスティングハンマーの効きが悪い。
アルファウォーがスティングハンマーで殴るときはインパクトの際の反作用を相殺する為の慣性制御が入る。
その為、対象にしっかりとした衝撃を与えられる。
だが黒武者は空中でただ浮いているだけなので、ぶん殴るとすっ飛んでしまい数機のドローンに衝突して速度が落ちたところを爆速で反対側に回ったアルファウォーがまた殴るといったことをやっている。
「姫子、そいつを横から殴ってちゃダメだ。例えば一定の高さから、いまだに落ちないんだから上から殴ったらどうだい?」
「あ、そっかぁ! お兄、ありがと」
早速、ぶっ飛ばされた頭の内部メカが露出している辺りをめがけてグラビティアシストがかかるハンマーが振り下ろされる。
首からの火花と共に砂地に足から激突する。
が、浮力機構はよほど頑丈な容器に囲まれているのか戦闘ロボットとしての機能はほぼ喪失しているにも関わらず、いまだ自動で浮こうとしている。
黒武者がふらふらと浮いてくるのをまた叩いてと、まるでスカッシュの玉のようにされているうちに流石にグシャグシャになっていく。
現れた時のカッコよさは、もう既にない。
「姫子。気が済んだら選手交代だ。ガンマキャリーでリバースエンジニアリングが出来ないように破壊するよ」
ついに浮上も出来なくなり、砂浜に杭打ちされて刺さっている状態だ。
「うん、わかったぁ。相手が大きすぎて丁度飽きちゃったところだったよ。じゃ、あとお願いねぇ」
そう言い残してアルファウォーは、残敵の掃討に加勢しにいった。
「よし、バトンタッチだ。ガンマ、高度二十メートルまで降下。ホバリング状態で超質量バレット」
【了解。超質量バレット スタンバイ】
格納されていたロングバレルが繰り出され射撃準備状態になっていく。
「ものはついでだ。射線上に黒武者と敵要塞が並ぶ位置まで移動してくれないか」
至近距離での超質量バレットだ。
恐らく貫通する。
貫通した弾丸をそのまま敵要塞にぶつけてみることで様子が分かるだろう。
『敵ロボットと敵要塞が射線に入りました』
「よし、五発連続で。出来るだけ散らして粉砕してくれ。射撃開始!」
ダンダンダンダンダンという命中音の度に、腕、脚が吹き飛び、胴体には二つクレーターが出来る。
黒武者ロボだったものの後方の海面に弾丸の衝撃波による五本の水柱が真っ直ぐに敵要塞に伸びている。
それにより弾丸自体は命中したらしいが、何故か弾丸が命中した箇所には何も起こらず、銅鐸の上部分が派手に輝き、ビームを真っ直ぐ上へと放った。
「なんだ? 奴の真上に何かいるのか? 」
ガンマのAIから状況報告がされた。
『強力な電磁パルスが発生しました。強力な磁場変動を伴い、付近の電子機器に多大な影響が出たものと思われます』
どうやら射撃と同時に猛烈な磁気嵐のようなものが起こったらしい。
磁気嵐については宇宙天気予報などでGPSが上手く働かない等の被害が出るが、今のは、そんなもんじゃない。
要塞の数百メートル圏内では、下手をすると1859年の磁気嵐に匹敵する威力のものかもしれない。
「それじゃ、周囲の自衛隊や海保とか、どうなった?」
『自衛隊、海保だけではなく敵要塞の半径二キロ以内の無防備な大半の電子機器は焼損したと推定します。現在、付近は通信設備だけではなく信号機、スマホに至るまでが機能していません』
やはり、かなり酷いことになっているようだ。
これでは、現場からの中継もスマホによる動画の生配信も途切れているだろう。
「これは敵の作戦か何かなのか? 理久神、状況から推定出来ることは?」
『データ不足ですが幾つかの理由が考えられます。絞り込みのため超質量バレットを一発だけ直接、敵要塞に撃ち込んでください』
「ということは、超質量バレットが原因なのか?」
『その仮説の場合、一発ならば電磁パルスの発生は限定的だと考えられます』
「わかった。ガンマ、やってくれ」
軽いショックと共に海上に一本の白波が走る。
やはり命中と同時に要塞は真上にビームを発射した。
『先ほどより軽微な電磁パルスが発生しました』
『理久神より報告。弾丸の運動エネルギーの一部を電磁エネルギーへと変換して放出していると推定します。これは恒星間を高速移動する際に使っている星間物質の衝突防止用の仕組みをそのまま防御力へと転用していると考えられます』
「え、じゃあ、超質量バレットは……」
『現在のところ、効果が確認できません』
『星野、超質量バレットの効果がないなら粒子兵器を試そっか?』
様子がおかしいことに気がついた明日乃が標識おじさんガンに替わる武器で敵要塞を狙っているらしい。
『今から撃つ奴、前のより威力があるけれど、多分効かないかもね』
強力な電磁シールドもどきがある時点で既に予想がついているということか。
『でもデータを取るのに役に立つから最大出力で撃ってみるね』
そう言うと砂浜の一点がまばゆく輝き、白い棒のようにはっきりとした光線が敵要塞に当たる寸前で真上に逸らされている。
『やっぱりね』
「ガンマキャリーのプラズマショットキャノンでもダメなのか?」
『うん。変わらない。同じく逸らされちゃうよ』
つまり、こちらの武器では、現状あの要塞にお手上げということになる。
「これ、あいつをどうこう出来ないって事なのか?」
『星野、ひとつ忘れているよ』と明日乃は余裕で笑っている。
質量兵器ではダメ。
粒子兵器もダメならレーザーもダメだろう。
明日乃の力ならば、きっと破壊出来るのだろう。
だが破壊の威力も周囲への影響も未知数過ぎるから、やはりダメ。
では、他にどんな方法があるというのだろうか?
『あら、ちょっと待って』
明日乃がそう言った一瞬、敵要塞の一部が光った。
強力なビームが明日乃のいたはずの場所を光でかき消した。
「え⁉」
呆然となった。
明日乃は認識阻害をかけていた。
だから、敵要塞からは明日乃は探知出来ていなかったはずだ。
だが、明日乃が放った光線で「見えない何か」が存在し攻撃をしていると判断して一撃必殺のビーム兵器による攻撃をしてきたのだ。
完全に直撃だ。
海人は狼狽してビームが直撃した部分をアップにしようとしたが、身体がこわばって上手く操作できない。
ビームが通過したあとの海水が蒸発して大量の水蒸気が発生している。
視界が濃霧で遮られていたのが、緩い風に流されていく。
ようやく、アップにすると明日乃がいた辺りまで砂浜の砂が溶けてガラス化している。
蒸発してしまったのか。全てが絶望的だ。
海人は無意識に彼女の名前を呼んでいた。
「あ、明日乃……」
『なに?』
普通に明日乃の声が返って心臓が止まるかと思ったくらいにはビクッとなった。
そして完全に折れた海人の心が折れ損だったことも分かり拍子抜けした。
「え……⁉ 無事だったのか‼ どこにいるんだ⁉」
『ちょっとぉ、認識阻害かけているんだから見えるわけないでしょ。なに、慌ててるのよ』
そういやそうだ。気が動転して、忘れていた。
くすくす笑いを堪えている姫子の声がする。
『あーっははは‼ もう我慢するの無理! お兄が泣きそうになってたよ!』
あまりにゲラゲラ笑うんで腹がたってきた。
「なんだよ‼ 僕は要塞のビームが当たったと思って……もう、終わったと思ったんだぞ‼」
『え、命中したよ?』
『うん、してたねぇ。お兄。お姉のいる場所、今ならだいたい分かるでしょ? よく観察してみてよ。』
(いったい、この姉妹は人の気も知らないで何を言っているんだ?)と思いながらも、冷静さを取り戻し観察してみる。
波打ち際から明日乃がいる辺りまでの砂が高熱で溶けて冷え固まった状態になっているのは、さっき見た通りだ。
『もう周りの電子機器が壊れているし、人もいなさそうだから一旦隠ぺいを解除しようかな』
そう言って、明日乃の姿が結像する。
見ると彼女の前側の砂はガラス化しているのが、そこから後ろは何ともなっていない。
「これは……どうやってか分からないが防いだのかい?」
『防いでないよ? 食べただけだよ』
食べたの意味がいまいち、ピンとこない。
『こんなの、どちゃんこラーメンに比べたらチャーシュー一枚にもならないわよ』
だんだん意味が分かってきた。
つまりエネルギーから物質を生成する明日乃にとっては、破壊的なビームもチャーシューもエネルギーという視点からみると同じものでしかないということらしい。
過去、日本に落とされた原子爆弾でさえエネルギーに変わったのは一グラム弱でしかない。
つまり、武器やら基地まで何百トンを物質生成する明日乃にとって武器で狙われるということ自体が、ほとんど意味がないということになる。
(あれ……それって、宇宙艦と似ているな)
そう思うと海人の中では明日乃の親が宇宙艦というのも少し合点がいってきた。
「なんにせよ、無事でよかったよ。いや、ホントに」
『わたしより、気をつけるなら星野と姫子のほうだよ。そっちは脆いんだから偏向シールドがあるからって直撃は避けてよね』
ビームの直撃を食った奴から怒られた。
会議室の大型モニターがブラックアウトした。
国家安全保障会議室では、現場の状況を知る術がまたもや無くなった。
原因を探るため各大臣、局長などに補佐官らの情報が上がってくるが、そのほとんどが「どうやら敵の電磁パルスによる局所的かつ強力な障害」という内容であった。
こうなると航空機もあぶなくて近寄れない。
唯一、衛星写真だけは写るがリアルタイムでの詳細までは把握できない。
つまり、現場を知りたければ機械に頼ることが出来ない、自分の目で見る以外の方法がないということになる。
久瀬防衛大臣から報告が上がってきた。
「陸上自衛隊からの目視による口頭報告を現在、受けているところです。それによりますと、EAA―8号からのドローンは謎の勢力によって、ほぼ排除された模様です。なおEAA―8号は健在。今、わかっているのはここまでです」
会議室は、多くの困惑と不安の声であふれた。
「誰か知らんが勝手に攻撃するから、我々の話し合いも何もなくなってしまったじゃないか」
「あれが東京へ移動してきたら誰が阻止できるんだ?」
「航空機が近づけないんじゃ米軍だってどうしようもないだろう。トマホークでさえ当たるのか保証できん」
「攻撃じゃなく話し合いはできないのか。相手の要求が判然としないが、教育とは何を指すんだ?」
この混乱は何も会議室の中だけではなかった。
ネット上も大荒れで、「国が介入して配信を停止させた」とか「戦争が起きている。日本は終わりだ」などの中に「現地から逃げてきた奴のスマホが壊れているから、代わりに緊急動画をアップしている」という内容で、どうやらマリンタワーに隠れて一部始終を見ていたが途中で恐ろしくなって逃げてきたという。
それによると、ドローン同士の戦いからロボット戦になりケリがついたと思ったら銅鐸要塞がレーザーみたいなのを撃ち始めたんで当たるかと思って怖くなって逃げてきたということだ。
概ね正しいのだが「その後が知りたい」という無茶なコメントばかりになっている。
地上波でも遅ればせながら「大洗で何かが起こっている」内容で「危険だから近づかないでください」というアナウンスであった。
その結果、災害と早とちりした自称ボランティアが十キロ圏内の封鎖に次々と捕まり、「小競り合いとなっている模様です」という報告が赤嶺国土交通大臣より上がってきた。
「あの、久瀬さん。杉浦さん。黒岩さん。これ、どうなるか分かりませんけれど、通信が出来ないのであれば……当初はEAA―8号と何者かが拡声器を互いに使って話をしていたということもあります。私が現場へ出向いて話をする、話を聞くということは出来ませんでしょうか」
この総理の発言には誰もが絶句した。




