第六十四話 激闘のはじまり
「あいつ、サイズがこっちの三倍以上あるのに、同等以上の運動性能と戦闘能力がある。これは、二人がかりどころかガンマキャリーとの連携で対処しないと危ない。理久神、ガンマキャリーを出してくれ」
『了解。どのように参戦させますか』
「接近戦だとガンマキャリーでは分が悪い。五キロより外からの支援攻撃を片っ端からやってみてくれ。こっちは、姫子と隙を狙っての接近戦を仕掛けてみる。姫子、それでいいよね?」
『わかったぁ。じゃあ、ガンマキャリーからの攻撃が始まったら、突っ込んでみる。スティングハンマァー!』
アルファウォーのバックパックが切り離され変形していく。
その間にも敵の黒いロボットがこちら側のドローンを次々と破壊し始めた。
両手の刀だけではなく、鞭のようなもので切り裂かれたり叩き落とされている。
このままでは、ドローン部隊が、またもや敵ドローンに対して数的に不利になってしまう。
「理久神、ドローン部隊は後退。迎撃は敵のドローンのみに限定してくれ。ガンマキャリーは、まだなのかな」
『現在、予定の場所に到着しました。これより支援射撃を開始します。プラズマショットキャノン、スタンバイ』
ようやく映像が回復した国家安全保障会議室のモニター映像には、到底信じられない状況が展開していた。
増感されて粗くなってはいるがEAA‐8号をバックに多数の黒いドローンが雲霞の如く広がり細い輝く光線が糸のように走る。
その中に輝くドローンが乱舞し、やはり光線が糸のように出されると、接触したドローンが火だるまになって落下していく。
更に、そこには明らかに巨大で人型の黒い何者かが存在し、輝くドローンに近づくと空中爆発が起こり輝きが一つ減る。
会議室にどよめきが起こる。
ドローン同士による完全な戦闘状態だ。
政治家達の中にも世界各地での紛争の際にドローンがドローンを撃破するといった映像を見たことがある者はいる。
ただ、それは昼間の映像であったし、もっと小規模でミサイル対迎撃ミサイルのような直線的で淡々としたものであった。
だが、今、画面で展開されている光景はドローンによる合戦であり完全にドッグファイトである。
その空中に黒い甲冑の武者がいてドローンを叩き落しているようにしか見えないのだ。
そこへ、陸側のどこから放たれたのか分からない、白く太い光線が一瞬通過すると黒い甲冑武者をかする。
避けそこなった黒いドローン数機は爆発をおこして四散してゆく。
「こんな戦闘、我々のドローンじゃ無理なんじゃないか?」
そんな声がでるのも当然で、航空力学に縛られないドローン同士の戦闘を目撃すること自体が人類未経験のものであった。
「あの人型のドローンなのかロボットなのかは分からないが、あれがいるから輝いているドローン側は押されているようだな」
「では、この戦闘の勝者が我々に対して敵対的だった場合、自衛隊で対抗できるのか?」
正体不明ではあるが、EAA‐8号と戦っているドローンが負けたとしたら、その時、どんな手を我々は打つべきなのか。
あれらと戦闘を交えず交渉する糸口は全くないのか。
「ともかく我々としては、あの戦闘に今、介入出来る状態とは思えない。
自衛隊には監視継続を各方面に強く指示してください。
それと、戦闘をしているのは何者なのかを担当に関わらず至急調査してください。
仮に防衛出動をしたとして、新たな正体不明勢力に誤射する危険もあります。
そうなると我々は二つの超兵器集団を相手にしてしまうことになります。
まず、あの戦っている方へ話をする手段を探ってください」
総理として現状で指示できることは、ここまでしかない。
「総理」神谷外務大臣が声をかける。
「米国側が『戦端を開いたのは何故だ』と繰り返し言ってきています。我々ではないと説明しているのですが、なかなか納得してもらえていません」
実にまずい展開である。
日本は、領土内で繰り広げられている正体不明のもの同士の戦闘を注視し、万が一の防衛出動に備えて待機している状態である。
だが、外交的には他国へ説明する材料が一つもない。
戦っている者への交信も出来ていない。
戦闘を止められるだけの手段もない。
米国は状況と説明を求めている。
日本政府は、この詰みそうな細い糸を手繰り寄せていくことに集中するしかないのだ。
こうなったら、まずは日本が戦端を開いたのではないことを同盟国に示すことが重要だろう。
「久瀬防衛大臣、この映像は陸上自衛隊からのものですよね? これをそのまま米国に中継してもらうことは出来ませんか?」
燕ノ宮総理の提案に多少躊躇しながらも補佐官と短いやり取りを済ませると
「出来ます。ご下命されますか?」
「お願いします。速やかに米軍と可能ならば米国大使館へ中継するように。神谷大臣も宜しいですね?」
会議室に何度目かのどよめきが起きる。
それは総理の発言に対してではなかった。
赤外線映像では白なのか銀なのかは分からないが、白く映る人型のロボットのようなものが二体、ドローンの戦闘域を縫って黒い甲冑武者に向かって飛んでいくのが映っている。
二体は連動しながら何かを持って甲冑武者の刀との激しい打ち合いを始めた。
互いの得物が交差する度に火花が散っている。
白いロボットが入れ代わり立ち代わりに黒い甲冑武者に討ち入るのだが、その度に白いロボットに黒い刀が命中して火花が出ている。
数秒、全員が画面に釘付けになっていたが総理が我に返り「この映像をみれば、我々の立場がどのようなものか米国にも理解出来るはずです。急いで中継してください」と再度、命令した。
海人と姫子は、黒武者ロボットに苦戦していた。
敵の剣技が速い上に正確で、アルファウォーの持つスティングハンマーでは、防御は出来るが、攻撃に転ずるとハンマーがヒットするより素早くよけられたり刀でいなされたりしていた。
ベータウォーの持つソニックソードは敵と同じ日本刀型のものであるが、刀身の長さが全然違うのと海人の素振り練習程度では追い付かない練度と技量の差があった。
幸い、敵の刀が何度ベータウォーに当たっても装甲を貫通することまでは無かったが、もし生身であったら海人は既に七回くらいは切りつけられて絶命していただろう。
「このままじゃダメだ! 理久神! ガンマキャリーに支援してもらえないか⁉」
『では、ガンマキャリーを五キロ圏内まで移動させます。コネクティングハンドルを掴んで兵装を選んでください』
「わかった。姫子、一旦ひいてくれ! それとソニックソードを渡すからスティングハンマーをバックパックに戻してオービタルブレードとソニックソードの二本立てで時間を稼いでほしい!」
『アイアイサァ‼ お姉は、どうするの?』
『ごめん。今、自分用の携帯武器作ってるから、もうちょっと待って』
アルファウォーとベータウォーが同時に下がったことで、一時的に宇宙科学研究倶楽部側が不利になった。
武器の受け渡しをしていたのは三十秒程でしかないが、その間にこちら側のドローンが十四機も撃破されてしまった。
いずれも、敵ドローンがこちらのドローンの逃げ道を射線で塞いでから黒武者ロボがとどめを刺すという流れだ。
また同じ手順で一機落とされそうだ。
「オービタルブレードッ!」
四枚の銀のリングが空中を飛び交い、黒い敵ドローンを排除したことで局所的な陣形が崩れ、またドローン戦は拮抗状態となった。
「さっきまでは、よくも好き勝手に切りつけてくれたよねっ! 今度は、そうはいかないですっ!」
ソニックソードを持つアルファウォーの剣さばきは素早く黒武者ロボの剣をしのぐが、手数は相手の方が多い。
片手の刃でソニックソードを受け流している間に、もう片方の刀でアルファウォーの腕を切り飛ばしにくる。
そこをオービタルブレードが逆に黒武者ロボの腕に向かって飛来することでアルファウォーの腕を狙っていた刀をオービタルブレードへの防御に回さざるを得なくなる。
四枚のオービタルブレードが次々と襲い掛かるので黒武者ロボの刀が刃こぼれしだした。
しかし、身長差からくるスケール感の違いはいかんともし難い。
多少の刃こぼれ程度では、全く動じる気配もない。
だが姫子にしてみれば、これは倒せる相手だと確信するに足りることだった。
「一番丈夫かもしれない部分が刃こぼれしたんだからイケるよね! お兄、オービタルブレードを使っている間はスティングハンマーは使えないから、こっちは凌ぐことしか出来ないの。そっちで何とかならない?」
海人はベータウォーがガンマキャリーのコネクティングハンドルを握った途端に姫子の攻撃要請がきたので少々慌てた。
「ガンマ、敵ロボットとの距離を詰めたんだ。アルファを支援する最適兵装があるんじゃないか? なんとか相手の動きを一瞬でも止める手立てはないか?」
【レーザーバズソー、トラッピングワイヤー、コーキングライフルがあります。トラッピングワイヤーとコーキングライフルの連続使用を推奨】
「よし、敵とアルファとの距離が開いた時点で実行してくれ。姫子、離れろ‼」
【トラッピングワイヤー、スタンバイ】
「簡単に言わないでよ! くっ……これでっ、どうよっ⁉」
斬りかかってくる刀を避けるとオービタルブレード四枚を同時に黒武者ロボの右の真横から襲わせる。
黒武者ロボが咄嗟に身をひるがえし避けたことで斬撃がやんだ。
【トラッピングワイヤー発射しました】
ガンマキャリーの上部から何か回転するものにワイヤーがついているものが発射された。
一見、紐が長いヨーヨーにも似ているものが黒武者ロボに伸びていく。
そのヨーヨーから更に分銅付きのワイヤーが発射されると、ヨーヨーの回転モーメントでワイヤーが黒武者ロボの腕や胴体に絡みついた。
同時にガンマキャリーの高電圧がワイヤーから黒武者ロボに伝わると、つま先から海へと放電が走る。
間髪入れずに【コーキングライフル連続発射】の声でベータウォーのスクリーンに映ったバレルから数発の実体弾が発射された。
弾が命中した関節部分は、カラーボールをぶち当てられたように銀色に変わり、可動範囲が狭まっていく。
明らかに動きが遅くなったことを確認するとガンマキャリーからワイヤーが切り離された。
「お兄、ソニックソード落とすね。後で拾っておくから。オービタルブレード、戻っておいで」
アルファウォーがソニックソードを手放すと、真っ直ぐに海へと落下していった。
「あれ、姫子。どうするんだ?」
超質量バレットでとどめを刺そうとしていた海人は姫子の謎の行動に些か面食らった。
「楽に粉砕するつもりだったんだけどなあ」
『わたし、アイツにほんと腹が立ったから自分とアルファウォーの手でボッコボコにしないと気が済まないっ! スティングハンマァ‼』
確かに姫子のいう事も分からないではない。
が、いくらスティングハンマーでも相手に対して小さい武器過ぎる。
脚気の検査で膝を叩く器具(打腱器というらしい)程度の大きさのハンマーではボッコボコとはいかないだろう。
そのスティングハンマーをほぼ動きを止めた黒武者ロボの頭上に振り下ろそうとした。
「グラビティアシストッ‼」
急にハンマーが見えないくらいの速度で頭に命中するとスティングハンマーよりも大きく頭部が凹んだ。
「なんだ、そりゃ⁉」
つい声が出てしまうくらいには違和感がある威力である。
「まだまだいくよっ‼ そおれっ‼」
と今度は潰れた頭部にフルスイングで水平打を当てると首から上が、くの字になって吹き飛び敵のドローンにぶつかって爆発した。
『ごめーん。待った? これで黒いロボットくらいなら一発で……あら……』
明日乃はバズーカ砲のような兵器を持ちながら、首を失っても落ちない黒武者ロボをタコ殴りにしているアルファウォーを眺めるしかなかった。




