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第六十三話 力比べのはじまり


 時を少し遡る。

 海岸線でタンデオ自動制圧要塞十三号とみいさと宇宙科学研究俱楽部、互いのドローンが配置され、にらみ合っている頃。



「理久神くん。現状の通信封鎖状況を教えてくれる?」


『自動制圧要塞と名乗る物体からの通信封鎖の影響をほとんどキャンセルしました。しかしキャンセルしたことに気づかれました。通信が回復したことで自衛隊と米軍の活動が活発化することが予想されます』


 明日乃は目線を巨大銅鐸から外さずに指示を出した。

「理久神くん。あれの名称は長いから、今から呼称を変えよっか。あいつの名前は敵要塞。それだけでいいよ」


『了解しました。只今より対象の呼称を敵要塞とします』


「それとね。わたし達だけが話せるように、敵要塞と通信接続できる?」


『我々が通信に使用しているのは電磁波ではないのでハッキング可能かを調べてみます。三秒お待ちください。可能ですが、私を介しての電波による通信となります』


「それでいいよ。合図したら接続して。そういうわけだから、星野もアイツになんか言いたいことがあるなら言っちゃってね」




「えっ⁉ ええっ⁉」


 海人はベータウォーの中で座席に固定されているにもかかわらず座席からずり落ちそうになった。

 そんないきなり知らない友達紹介みたいなノリで敵と呼ぶ奴と話せと言われても、そうそう簡単には頭を切り替えられない。

 今、話を始めると昔のプロレスで起きたラッシャー木村事件みたいに敵要塞に対して”こんばんは”とか言ってしまいそうになる。

 聴いていた姫子も『あはは……わ、わたし、クチベタだからお姉にまかせるわぁ』と逃げ腰だ。


『お話し中に失礼。米国は核攻撃を含む防衛手段の協議に入りました。日本に対して回答期限の延長を試みるよう要求しています。国連安保理の緊急招集がなされました。自衛隊は監視強化を進めています。海保艦艇は敵要塞より距離十キロまで後退しました』


 米国が日本国内で三度目の核兵器使用を簡単に決断するとは考えづらいが……


「あの敵要塞に核攻撃って通用するのかい?」


『ピンポイントに威力を集中できるならともかく核爆発だと正直いってメガトン単位程度じゃ衝撃波も熱量もお話にならないわね』


 そこまで聴いて海人は考えた。

(じゃあ事実上、地球側には武力での対抗手段が皆無じゃないか。

 だが、まてよ? 

 敵要塞は姿を隠さず日本を恫喝することで地球そのものを威圧してきた……

 しかも、どういうわけか大洗を選んだ。

 これは、僕らがいたからか? 

 それなら、もし僕らが都心やみいさと市にいたままだったらどうだった? 

 それでも奴は降下してきただろうか? 

 敵要塞が言う人類が知らない潜在的脅威は宇宙艦のことを言ってるのか? 

 いや、十年間も見えちゃっているのだから潜在的も何も……

 じゃあ、明日乃の言う様に明日乃や姫子が潜在的脅威だとしたら……

 例えば……人類にとっては潜在的脅威で無くなれば、いったいどうなる?)


 何かが頭に閃いた。


「明日乃、キミだけ自分に認識阻害をかけてくれないか。これより、ベータウォーとアルファウォーは光学迷彩を解く」


 突然の海人の方針に明日乃も驚いて意図を聞く。

『わたしが見えなくなるのは分かるけれど、相手に戦力を見せちゃうの?』


『アルファウォーも見せちゃうんだ? まぁ、わたしはどっちでもいいけれど……』


 姉妹とも困惑しているようだが、かまわず続けた。

「姿を誰に見せるのか? 敵要塞にじゃない。世界に、とりわけ日本の人達に見せるのさ。僕らは人類への潜在的脅威じゃなく外敵に対する脅威になってやろうじゃないか。その為には隠すんじゃなくて、どういうチカラなのかを見せた方がいい」


『それで、わたし達の生活って今までと変わらずやっていけるのかな……』


 不安がる明日乃に海人は、風変わりな説得を試みた。

「なあ、僕のSFコレクションのDVDを観たんだろ? その中に人形劇で凄いメカニックで人々を助ける救助隊の話があっただろ。彼らも、また、正体を知られずに日常と救助を両立していたよね? あれでいいんじゃないかな」


『あ────、そういうこと?』


「そういうこと。で、どうかな?」


『う────ん、確かに出来そうね?』


「出来そうだよな?」


『なになに? 二人だけで、どういう話になってるの?』

 姫子は、そういうものは観ていないので全然わかっていない。

 だが、どうやら正体は隠していこう、という部分は理解したようだ。


「簡単に言うとさ、ああやって人の生活圏に土足で入ってくる奴の腕っぷしが強くても、こっちだってやられっぱなしじゃないぞってのを見せつつ、世間的には僕らを調べられないように正体隠していこうって話だよ」


『あ、いいんじゃない? わたしもコソコソやるの、ちょっとだけ嫌だったしぃ。じゃあロボットに乗っている時は遠慮しないでやっちゃおってことでいいよね!』


 結論がでた。

 明日乃は不敵に笑う。

『じゃあ、今度はわたし達がアイツに宣戦布告だね。理久神くん、敵要塞と通信ひらいて』


『了解。通信開きます』


 それを聞いて、海人も行動を起こす。

「ベータ。姫子。ロボットの光学迷彩解除だ」


『了解。光学迷彩解除。現在、レーダー等には映っていませんが視認は出来るようになりました』


『アイアイサー! 光学迷彩解除!』


 海人から見て三十メートルほど右の空間にアルファウォーが結像していくのが見えた。




 海の家の前で明日乃が腰に手をやり、敵要塞をにらみながら話し出した。


「こらっ! そこの要塞十三号! わたしと話をしなさいよ! なにを勝手に他人の星を脅してるのよ!」


 すると驚いたことに敵要塞は電波による返信ではなく、なんと拡声器での音声で返答してきた。

 付近一帯に巨大な声が響く。

 電波による拡散がキャンセルされたことで手段を選ばず周囲に拡散するつもりらしい。

 確かに、これならネットを始めとしたライブに載ってしまうから世界には拡散されてしまうだろう。


「不確定要素からの質問に答えよう。

 この星には、全ての人類を統べる者も仕組みもない。

 常に国家と呼ばれる幾つかの集団の中で最低最悪の道を選ぶ国家が富を得る仕組みである。

 それは我々の秩序とは相いれない。

 そんな地球人類が宇宙への進出をしようとしている。

 のみならず、不確定要素。

 お前達は、地球人類を庇護しようとしている。

 教育としての地球人類の統治、人類への助力の排除は当然である」


 でかい声なら明日乃も負けていない。

 自分の前の空気を薄くクラスター化して巨大なスピーカーのように自分の声として振動させる。


「へぇー。面白いこと言うわね。じゃあ、あんた達も誰かに教育されて統治された過去があるのかしらね? まさか、自分達だけはのうのうと自然発達を待たせて頂きました、なんてことじゃないでしょうね?」


「不確定要素であるお前達が人類に介入している事実がある以上、我々が地球に介入し教育指導することへの異議は認められない」


「あんた達みたいに図々しい押し売りも全面的介入もしていないんだけれど! 機械なのに面の皮が厚いのよ!」


「指導方針すらない者に危険な文明に成り得る種族を預けるという無謀なことは許されない」


「黙れ、ポンコツ! 二千三百年も地球をほったらかしにしといて、いまさら何よ! だいたいあんた達に何の権利があって人類を統べにやってきました~とか言ってるのよ! あんた達みたいな種族に地球人類を支配させないためにも、わたし達があんたを阻止するわよ!」


「では武力をもって排除する」


「武力をもって? それ、真面目に言ってるの? あんた、自分を十三号機だって言ったよね。じゃあ、全部で二十機あった残り十九機はどうなったのか言ってみなさいよ!」


「地球人類には無関係なアクシデントにより、私が到着した」


「何が、私が到着よ! 私だけが到着できたんでしょ! お仲間の十九機は撃破させてもらったから! ついでに、もう一つボロを出してもらうわ。何で、ここを選んだのよ?」


「不確定要素。やはりお前は危険であると判断した。不確定要素を排除するために、ここへ来たのは最適解である」


「ふん。怖くてわたしの方を選んだのは分かってるんだから! ばーか、ばーか!」


 これは、酷いことになってきた。

 大音量で正体不明同士がする会話じゃない。

 しかも、明日乃は単なる悪口を言ってるだけになっている。


「明日乃。これ以上会話を続けると、ぼく達の素性が意識しないうちに周りにバレちゃいそうだよ。それに話が噛み合っていない気もするし、もう無駄なんじゃないか?」


『そうね。あとは敵要塞が、どう考えるのかだよね。自分も破壊されるかもしれないから、ここは引いて母星に帰るとか』

まで明日乃が言った時には敵要塞のドローンが戦端を開いていた。

 敵ドローンの胴体一部が開き、ビームを放つ。

 放たれたビームは理久神が操作する逆涙滴型ドローンに命中しそうになるが見えないバリヤーに阻まれ、小さな稲妻となって消えた。


『そんな気、さらさらなかったようね』


「やってきたなら仕方がない。明日乃、姫子。迎撃だ。まずはドローンを落として丸裸にしよう」


『アイアイサー! お兄のエッチ』


「なんだよ、それ」


『星野、全部落としちゃうよ。理久神くん、対ドローンモードで射撃開始』


『了解しました。射撃開始します』


 理久神の射撃開始の声と共に逆涙滴型の外装が四つ葉のクローバーのように開くと、中から黒くてゴツイ銃身が出現し青い粒子ビームを放つ。

 敵ドローンにもビームを偏向するバリヤーがあるようだが、真正面からビームを受けると偏向出来ずビームは貫通した。

 そこからは一瞬で両方のドローンが飛び交い、敵要塞と海岸の間の空中はビームが交差する戦場となった。


『敵ドローン二百二十機を撃破しましたが同数の増援が投入されました。こちらのドローンの損失は現在一機です』


『んー、これは持久戦になりそうね……理久神くん、兵装をレールガンに変更して。エネルギー節約でいきましょう』


『了解。補給船も出しますか?』


『うん。出してくれる?』


『了解。一分後に十キロ後方に到着します』


 海人は、明日乃の軍師ぶりに感心して理久神への指示を聞いていると明日乃が声をかけてきた。

『僅かずつだけど、こっちも無傷じゃないから、そろそろ加勢してもらえる?』


『あ、ごめん。それじゃ、ぼくもいってみようか』


『じゃ、お兄。お先に~。オービタルブレードッ!』


 アルファウォーのバックパックから四つのリングが発射されると自在に飛行しながら、混戦したドローンの中で正確に敵ドローンを切り裂いていく。

 どうやら、物理攻撃の方が有効そうだ。

 だが、混戦している中に入るのは難しい。

 海人は戦闘空域の左側にベータウォーを移動させると一部の敵ドローンが移動してきた。


「これならぼくでもフレンドリーファイアしないで済みそうだ」


 ベータウォーの両手を真っ直ぐに敵に向けて伸ばす。

「さて、初めて武器を使ってみるぞ。シュレッダーカッター!」

の掛け声と共にベータウォーの両手前腕が四方に開き、そこから無数の四角いカッターが猛烈な勢いで射撃され始めた。

 敵ドローンに幾つものカッターが突き刺さり落ちていく。

 たちまち六機を撃破した。


『現在までに敵ドローン千八百四十二機を撃破しました。敵要塞から約千五百機が増援されました』


 これはなかなかヘヴィだ。

 全体としては三百機くらいしか減っていないことになる。

「姫子、ぼくはこのまま左翼から攻撃するから、そっちは右翼をやってくれ」


『わかったぁ』


『じゃあ、そろそろわたしも撃ってみようかな。いくよ?』


 明日乃は標識おじさんガンを構えると、そこからカルトゲームのシューティングのように連続した光弾が蛇のようにうねる。

 それは地下の射撃場で試し打ちした時と同じなのだが手加減具合を下げた威力は段違いであった。

 敵ドローンの偏向バリヤーも無いがごとし。

 どんどん敵ドローンが減っていく。

 だが、時間が経つにつれ何だか明日乃の射撃の仕方がおかしくなってきた。

 撃ったり撃たなかったりしているうちに撃つのを止めてしまった。


「どうした? 何かあったのか?」


『いやー、ダメになっちゃった。おじさんが溶けちゃったのよ。連続だともたなかった。改良しないとダメねぇ』


 いい感じで減っていたんで、この離脱は痛い。

 とはいえ、敵の消耗は明らかだった。


「さて、いい加減にドローンを含んだ戦力は雲泥の差があることが分かっただろう。それとも、まだこのまま一方的な消耗戦をやるつもりなのかな?」


「あれ? なんか……増援がでてこなくなったね?」


『敵増援がなくなりました。現在の敵ドローン六百七十六機』


「それにしても敵要塞は、戦闘中だからか、ずーっと黙ってんだな。僕らに余計な情報は一切与えないということかな」


「ねぇ、増援が出ないなら本体やれるか試しちゃう?」


 それはかなりな無茶だ。

 本体に接触する前に弾かれる可能性が大きい。

「姫子、それよりガンマキャリーの兵装を試してみよう。超質量バレットでなんとかなりゃいいが……」


「それもそうだね! あれ? お兄、何かいる!」


 二人のロボットから二キロ先に浮かぶ敵要塞の横に何か人型のものが出現した。

 ベータウォーのマルチスクリーンは周囲を昼間のように表示しているが、その中でも黒い曲線で構成されたシルエットがドローンに混じり向かってきていた。

 多重の装甲と両手に刀のようなものを持っているようにも見える。

 悔しいが、ちょっとかっこいい。


『出現したヒューマノイド型ロボットは全高五十メートル。武装や装甲強度等は不明。データを取るためにドローンで攻撃してみます』


 理久神は、そう言うなり七機のドローンを敵のロボットに向かわせた。

 六機は空中停止して四門の粒子兵器と四門の小型レールガンを展開、都合四十八門での猛烈な射撃を始めた。

 その合間をぬってもう一機が加速すると逆涙滴の尖った先端にプラズマシールドをかけ突進を仕掛ける。

 絶え間ない粒子線と超高速徹甲弾が黒い敵ロボットに浴びせられるが粒子線はドローンとは段違いの強力な力場によって偏向され、レールガンの弾は敵の装甲を貫けていない。

 運動エネルギーが足りないのか、それとも粒子線が偏向されたように力場と装甲の併用での威力減衰なのか、チュイン!と弾かれた音やパチンという火花を伴った反応だけが見える。

 敵ロボットへの弾丸と粒子線の直線の輝きが続く中に、先端を白く光らせる涙滴型の機体が見えた。

 これは命中すると思われた瞬間、敵ロボットは、その大きさに似つかわしくない俊敏な動きで弾よりも速いドローンの貫きをサッと避けると二本の刃の軌跡が金色のドローンと交差する。 

 避けられたドローンはスッパリと四等分され空中爆発してしまった。


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