第五十三話 遊ぶ気満々のはじまり
明日乃は理科準備室にいる山瀬を監視していた。
そこに榊原が入室してくると、中庭での海人の行動を報告している。
「現物の確認はしたのか?」
「いえ、どうも中を確認したのがバレたようで中身共々持っていってしまいました。何か怯えている様にも見えましたが、中身はなんだったんですか」
すると山瀬は、ヒーヒーという呼吸音を漏らして大笑いしたいのをこらえていた。
「くだらん内容だ。あいつは不適合だし、役にも立たん。ザコ過ぎて、なんであんな奴に警戒していたのか自分が恥ずかしくなる。ただ……うむ……おい、旧校舎の階段登り口付近の床について、過去文献なり噂なり、何かヒントはあったか?」
榊原は頭を掻きながら、申し訳なさそうに報告した。
「図書室だけでなく市立図書館にも行って調べてみましたが、特に何もなく。ご指摘の不発弾の可能性ですが約八十年程前のB29による250キロ爆弾が埋まっている可能性がほんの少しあるだけで、ほかにはこれといったものはありませんでした。学内での噂もオカルトなものばかりで」
そこまで言った途端、「チッ!」という舌打ちと共に山瀬の態度が荒くなった。
机の脚元を蹴ると「おい‼ そのオカルトじみた話の中に重要なものがあるんだよ! お前、私の話をどう聞いていたんだ? そのオカルト話を分類して軽く話してみろ」
態度が急変した山瀬に榊原は震えあがった。
「は、はい。一番多いのは、人の気配がするというものでした。誰かに見られているというようなものです。二番目に多いのが子供の影が通り過ぎるというものでした。これは主に二階で発生しているようです。これ以降はバラバラなんですが、洗い物をしている音であるとか、何を話しているか分からない人の声だとか、お茶の匂いだとか、おかしな振動だとかでした」
山瀬は「ふん」と一言いってから「二階か……おい、あのデカいのは、何やっているんだ?」ともう一人の手ごまについて質問をした。
「鶴見ですか。あいつは、僕と違って、こういう調査には向いていないんで……」
それを聞いて、またもや「チッ!」と舌打ちした。
「おい。私は夏休み期間中は田島様からの特別な指令が無い限り、お前たちとはコンタクトをしない。その間、時間は問わないから旧校舎に直接乗り込み監視しろ」
「あの、でも、僕も夏期講習や勉強の追い込みがありますので」
言い訳を聴いて、また山瀬が机を蹴った。
「それは私にはどうでもいいことなんだよ! お前がダメなら鶴見を居させろ! 休み明けに必ず報告をしろよ! まったく、使えねぇ奴らだな。田島様が適正を認めているから使っているだけで、あまりにくだらない報告しか出来ないようなら、お前らをもう一度、田島様にお願いすることになる。むしろ、今からお願いするか?」
上からのカメラ越しでも、明らかに顔面蒼白となった榊原だがチャイムが鳴ったことで軽く礼をすると走って理科準備室から出て行った。
明日乃は記録を継続させながらスマホモドキをしまった。
そして、新たに出てきた田島という名前をノートの端に書いてみる。
ようやく敵となる奴らの尻尾が掴めた気がしていた。
あとで記録を星野に見せれば、また、新しいことを言い出すに違いない。
それがたまらなく楽しみだ。
やがて、顔色が変わった榊原が授業ギリギリになって教室に戻ってきた。
そして一瞬、ぼけーっとしている鶴見の方を見ると「くそっ」と言ったように見えた。
その後、四時限目終了まで、何も起きなかった。
今日は最終日なので学食も購買もやっていない。
名残惜しいというより、長い自由時間の始まりなので今日くらいは真っ直ぐ帰らないでどこかに行こうとしている奴らが多かった。
当然、明日乃と姫子は誘いの的になっている。
通信で『先に部室に行ってるよ』とだけ言って旧校舎への連絡通路にさしかかると、鶴見と榊原が通路の真ん中で、何やら言い合いをしていた。
何を話しているのか分からないが、アイツらがいなくならないと「旧校舎に何の用だ」と捕まり面倒なことになる。
こりゃまいったなと物陰から様子をみていると、まず野球部の連中が用具と着替えにやってきた。
続いてサッカー部やテニス部などのスポーツ系倶楽部員が続々と旧校舎の通路を通過する為、通路に立つ二人をいかにもジャマだなあという感じで通過していく。
さすがにひんしゅくを買いすぎて肩身が狭くなったのか、二人ともすごすごと去って行った。
(いつもはいないのに、アイツらなんで?)と思いながらも部室に行くと、既にいたのは田浦であった。
本人には言えないが田浦はノーマークなのではなく、山瀬らの組織の何かに選ばれているから奴らにスルーされたのだろう。
くつろぐ田浦に座敷ちゃんは、せっせとお茶菓子を並べていた。
「よお、遅かったな。なんかあったのか?」
「いやぁ、榊原と鶴見が途中にいてさ。どっかいくまで様子をみていたんだ」
と言うと「ああ、あれか。待ち伏せみたいなもんか? なんだよ、人様のことを暇人扱いしたのにお前らが一番暇じゃねぇか」と小馬鹿にして笑った。
そこに明日乃と姫子がやっとやってきた。
「いつにも増してお誘いが凄かったよぅ」
「待たせちゃったね。かわりにお土産情報があるよ。でも、その前に」
そう言いながら明日乃はスマホモドキを出すと画面に学校の俯瞰図と共に光点が三つ現れる。
それぞれ三人の名前も表示されていた。
既に山瀬は車に向かっているようだ。
榊原は今、玄関の下駄箱辺りにいる。
明らかに帰るところだ。鶴見は、旧校舎の一階の階段のところにいる。
「お、いいぞ。山瀬が引き上げるみたいだ。で、鶴見は何でこんなところにいるんだ?」
「お兄。自分で仕掛けて置いて、それ言っちゃう?」
言われて気がつく。
階段登り口のブラフのせいだ。
海人が自分の罠を忘れていたことに、すっかり呆れる姉妹であったが、明日乃がもたらしたビデオ情報の内容は衝撃的だった。
それによると山瀬の休暇は、ほぼ確定。
その期間は山瀬は高校に来ないので鶴見と榊原が適当に監視や調査をするらしい。
そして、一番の情報が山瀬に指示を出している人物が、やはり存在すること。
その名前が田島というらしいこと。
鶴見と榊原は、その田島によってどうにかされた可能性があること。
「これは⁉ やはり、何らかの組織があって山瀬は、そこから派遣されてきた奴だったのか」
事情を全て知っているわけではない田浦は理解が追い付いていないようだ。
「つまり山瀬って悪い側の宇宙人確定ってことでいいのか? それと鶴見と榊原は手先ってことなのか?」
当たらずとも遠からずだ。
「そうね。そう考えてもらっていいと思う」
キッパリと断定されたことで、田浦は軽い目眩を覚えた。
「はーっ、悪の宇宙人先生かぁ。習っている一年のことを考えると違ってて欲しかったなあ。あれ? ということは、前に気にしていた藤宮ゆかりはヤマコーの授業があるはずなんだが……おい、お前らが気にしていたってことは、まさか⁉」
おかしな気づき方をし出した田浦に姫子が軽く説明する。
「藤宮さんは、わたしが友達になったんだけれど、まだ一緒にご飯食べたりまではしてないんだよ。LINE交換もしたし、夏休み中にいろいろ話す予定だよっ」
それを聴いて少し安心したようだ。
藤宮ゆかりといえば、一年のみならず人気のロリ系女子だ。
それが悪の手先では、田浦的にはお先真っ暗なのだろう。
ただし、姫子は藤宮が地球人だとは言っていない。
「昴さんが友達になったくらいだから、とりあえず安心ってことでいいっすよね」
それには誰も明確な返事をしなかったので察した田浦は話題を変えた。
「明日の予定を知りたいんだけど。何時にどこ集合とか。朝、早いとかいってなかったか?」
変な空気をガラッと変える話になり、俱楽部活動という名の旅行を満喫する気分にやっとなれた。
「それなんだけれど、ときわ51号に柏で乗る予定なので明日は柏で7時半での待ち合わせにしたいんだ。それと姫子は、今日から現地に前のりする予定だから、明日は四人で移動……なのかな? 座敷ちゃん、どういう感じ? 来れる?」
座敷ちゃんはさらさらと紙に書いてみせた。
(三人で行け)
「え、座敷ちゃん来ないの⁉」
(現地集合)
「あ、大洗には来るんだね。よかった」
得体がよく分からない宿泊場所だから推薦者本人が来るというのが一番スムーズでいいに決まっている。
「じゃあ、明日は柏駅から乗るのは三人だ。遅れるなよ?」
「おい、こら。星野。誰に言ってんだ? 大概はお前が遅れる側だろ。でだな。明日の予定も分かったことだしさ。その、なんだ。今日のこれからの予定とかは……」
座敷ちゃんを除く三人が一斉に田浦を見た。
そして、三人バラバラな内容を一度に話し出した。
「なに、田浦も水着買うのに付き合うってこと⁉ はっはぁーん、このエッチ!」
「お前、どさくさに紛れて何を言い出すんだよ! お前の男の浪漫に巻き込むな!」
「えーっ、星野には選んで欲しいけれど、田浦君も来ると多数決になっちゃうじゃない」
うるさくて、よく聞き取れない。
「ちょっとスマンけど、もう一回分かりやすく話してくれないか」
すると三人がまたもや同時に話し出した。
「別に来るなって意味じゃないけれど、試着とか見られるのは、ちょっとねぇ」
「二人で行かせりゃいいじゃないか。お前と僕は真っ直ぐ家に帰るんだっ!」
「まあ、どうせ明日には見られちゃうんだし? でも、やっぱり星野以外はイヤ」
やはり、判然としないが大方、お前は水着を買うとこには来るなと言われているっぽいことだけは分かった。
「わかったよぅ。男の浪漫は、明日までお預けだな」
これには座敷ちゃんまで含めた四人全員が大きく頷いた。
「じゃあ、最後にもう一度確認だ。姫子は前のり。座敷ちゃんは現地集合。明日は柏駅の券売機前辺りに七時半集合。いいかな?」
「オッケーだ。じゃあ、俺としては誠に残念だが、とっとと帰って明日の用意するわ。じゃあな!」
「あ? ああ。じゃあ、また明日」
(あいつ、妙にあっさりと引き下がったな? 一晩我慢すりゃいいだけだからか?)
「さて、お兄。もう一段、深い打ち合わせをしておかないとね」
その言葉を皮切りに真面目モードになった。
明日乃は早速、スマホモドキを見ながら山瀬の状態確認に入った。
「今現在、山瀬は潜伏場所で停止中。モニター、音響分析から既に休眠状態に入ったと判断するわ」
今朝の記録通りというわけだ。
山瀬という要素を考えなくていいのは、気分的にも大きく違う。やっと本当に休みに入ったという実感が湧いてくる。
次に考えることは明日関連だ。
「姫子。さっきは田浦の手前、前のりと言ったが、明日、僕らが[つきわたり庵]に着くのが恐らく九時半から十時だから、姫子は九時半にアルファで[つきわたり庵]に入ってくれ。それまでは、すまないが地下基地の指令室でナノマシンからの情報と高エネルギープローブからの情報を見ておいてくれないか。万が一の場合は、ベータに明日乃を乗せて戻るから」
「アイアイサー! でも、お兄。さすがに何も起きないと思うよ?」
「姫子、フラグ立てちゃダメでしょ! なーんちゃってね。でも、怪獣は出なくても怪物は別な組織だろうから、その時はロボットで手早く片付けようね」
だいたいの手順は決まった。
あとは、どうしても気になるのが座敷ちゃんだ。
「ねえ、座敷ちゃん。明日、どうやって旅館まで来るの? わたしとアルファウォーで一緒に行く?」
それにはふるふると頭を横に振った。
では、どうやって?
座敷ちゃんは(黄泉比良坂ノ門)と書くと立ち上がって部屋の端までいくと腕で丸く輪を書いた。
その輪の中には日本古来の建築物が見えたり、道には牛車がいたりする景色があった。
「これは……ゲートか。よもつひらさかのもんってそういう意味か。ここを通って、つきわたり庵に直接来るということですか」
座敷ちゃんはこくこくと頷いた。




