第41話 事前計画のはじまり
もう二人とも完全に海に行くことしか頭にないみたいだ。
「水着は夏休み初日の今週土曜日に行くのじゃダメかい? だって、その前にしなきゃいけないことは多いし、山瀬先生周りのことって割と神経使うことだから落ち着かないだろ」
今回、自分たちが自宅や学校から離れる、旅という娯楽をするだけで前提条件が多いことに気づかされた。
事前に宿泊場所を予約する際に、光学迷彩をかけたロボットで実際に着地して問題ない場所を選定してから、その場で宿泊施設を予約することになる。
だが、その場合、ロボットの近くに宿泊施設がなかったら、また着地地点の選定から始めなければならない。
それに夏休み中は子供の足となる大人が休みになる土日やお盆休みが大混雑するので避けたい。
場所ひとつ選ぶというだけで、このザマなのだ。
さらにクラブ遠征という目的を考えると天候まで考慮に入れなければならない。
これは相当に頭の痛いことだ。
なのに、女子二人は「夏休み初日が条件がいいかもしれないよ? 初日から海に宿泊するとか考える人って限定的だと思うの」
「そうだよ! ロボットだって向かい合わせに立たせるだけなら駐車スペース二台分を確保すればいいだけだしさぁ。すぐ見つかるよ。だから、初日のうちに行っちゃおうよぉ。ねぇ~お願いだからぁ、お兄ちゃ~ん!」とか姫子が変なおねだりの仕方をしてきた。
クラスメイトとの女子トークで覚えてきたに違いない。
「もう、しょうがないなあ……その代わり、場所選定が学校終わってからになるからちょっと大変だぞ?」
「がんばろー」
「おー!」
海人がこの二人に勝てるわけがなかった。
「で、星野的には場所とかだいたいは決めてあるの?」
「候補はいくつかあるんだけれどね。その前に秋葉原から半径百キロをディスプレイに出してくれないか」
すると、その言葉を受けてディスプレイが自動で円形の地図を表示した。
「この範囲から外は親父さんの絶対障壁で宇宙からの干渉は出来ない。だから、僕らはこの円内で場所を探すことになるね。そうなると、熱海、茅ヶ崎、木更津近辺、館山、鴨川、勝浦、銚子、九十九里とかってなるんだが、どうせなら、この円ギリギリにしようと思ってさ」
明日乃が目をキラッキラして聞いてきた。
余程、楽しみらしい。
そもそも今まで海に行ったことがないというのが意外である。
「オススメの場所って感じ?」
「んー。何回も行っているから、いい場所を案内しやすいっていうのがあるかな。場所は大洗。勿論、海水浴場もあるけれど他にもマリンタワーや水族館に科学館、市場や魚料理の店なんかも充実しているし海に神社があったり、あとは」
「ストーップ! お兄、なにそれ。今まで、そんないい場所を隠してたんだぁ?」
姫子がニヤニヤしながらジロリと見ている。
「隠してないだろ。言う機会もなかったし」
「それで、そこは、この地図のどこにあるの?」
海人は水戸の東側の海岸を指さした。
限界ラインギリギリである。
すると姫子が手を合わせて拝みだした。
「天才が、ここにいた……お兄様と呼ばせて頂かないと」
「やめてくれよ。そんなことより、明日から山瀬先生にどうやってマイクロマシンやナノマシンをくっつけるかを考えようよ。教師を無断で監視とか良心が痛むところもあるが、こればかりはやらないわけにもいかないし」
「人のことを考えないで怪獣を街に出しちゃう悪い奴かもしれないんだから、お兄が気に病むことないよ!」
「そうね。それに人の星に勝手にきて、勝手に学校を根城にしてるのは向こうが先だから、星野が考えていることをすればいいのよ」
二人に背中を押されて海人も気持ちを切り替えていくことにした。
「わかった。それなら、こっちも気兼ねなく調べさせてもらおうか」
そこで明日乃が小型探査機の限界を説明する。
「理科準備室自体にはカギがかけられていてもドアや天窓の隙間から0・5ミリのマイクロマシンを忍び込ませることは出来ると思うよ。けど、山瀬に直接に何かを付けるとなるとナノマシンとかじゃないとバレそうだよね。でも、自力での移動能力があまりに低いから上から降らせるとか風に載せてくっつけるとかしか無さそう」
スケールスピードのことを考えるとナノマシンが大気中で移動できる速度が悲惨としかいいようがないのは想像できる。
だが、天井に付けといて落下させて頭なり衣服に付けるにしろ、落下移動速度も埃に毛が生えた程度に遅いはずだ。
なるべく、空気の動きが少なくて山瀬が動いていない時を狙って付着させるしかないが、そんな上手いタイミングがあるだろうか?
「これは、ナノマシンを付けるためには山瀬先生の一日の行動を探るのが先だな。それからじゃないと最適な位置がわからない」
これは、山瀬を手分けして調査する必要が出てきた。
だが、山瀬は三年である彼らの授業を担当していない。
近づいて話をしようにもキッカケがない。
下手にこちらから無理に話しかけると警戒されてしまうだろう。
「まいったな。山瀬の行動で、どうしても追えない時間帯がある。明日乃か姫子が山瀬と偶然でもすれ違う機会があればナノマシンとかすれ違いざまに付けれたりするかい?」
明日乃はしばらく考えていたが、どうも難しいらしい。
「ナノマシンは無理かな。マイクロマシンなら、まだ大きさがあるから軽く指で弾けば衣服に付けられるかもしれないけれど。でも、例え小さくても0・5ミリは目視で見つかる可能性があるよ。賭けに出るにはリスクが大きいよね」
確かにダニくらいの小型メカを付けられたことがバレたとしたら、山瀬は、いつ、どこでと考えるだろう。
それが他の生徒ならともかく、明日乃も姫子も目立ちすぎる存在だから至近距離ですれ違う山瀬の記憶に印象として残りやすい。
つまり、真っ先に疑われる可能性がある。
ということでマイクロマシンはリスキーという判断だった。
「ん? いや、待て⁉ じゃあ、ナノマシンを何個かマイクロマシンに背負わせて、衣服に着いてからマイクロマシンを離脱させればナノマシンの付着は可能じゃないか?」
「あ、それなら出来るね。そうなると、今度は無理なく山瀬に近づく方法ね。目的もなく校内を歩き回るのも、わたし達じゃ難しいし……」
二人とも学校内では取り巻き連中がいるので、ただ歩くといってもそいつらがついて来る可能性が高い。
そうなると、大病院の病院長回診のような大名行列で意味なく校内をグルグルと回るということになり、秘匿行動もなにもあったもんじゃない。
おまけにその追っかけの中には鶴見や榊原といった素性がかなり怪しい者もいる。
「まいったな、こりゃ。こういう時にオタク気質は不利だよなあ。全然、友達とかいないからさ。せめて違う学年に知り合いでもいればよかったよ」
「あ、お兄。わたしさ、一年の藤宮さんになら世間話とかなら話せるけれど、これ役に立つかなぁ?」
藤宮ゆかりは外星人ほぼ確定の女子だが、姫子は素性を知らないフリをして、たまに話をしている。
「姫子、でかした! 山瀬は一年と二年の理科実験の担当教師だから、姫子が実験絡みの相談を藤宮にすれば、彼女を介して山瀬に直接、質問と答えを聞けるという機会があるはずだ」
「あー、でも藤宮さんが姫子に付き添って山瀬に聞きに行くかは五分五分って感じね。藤宮が単独で山瀬に聞いて、結果を姫子に伝えることだって普通にあり得るし」
明日乃の懸念はもっともだ。
それに海人には、その策に引っ掛かる部分もあった。
「えっとね、出来るだけ他の人を巻き込まない方が僕らにとっては大事だと思うんだ。だから、姫子が藤宮に頼むのは二の矢ということにする。まずはマイクロマシンにナノマシンを複数背負わせて理科準備室に侵入させる。そして、一旦、理科準備室内での山瀬の行動を監視しよう。次にどうするかは、山瀬の行動次第で決めるというのはどうかな」
これには二人とも頷いた。
「時間がない。明日から監視をしたいから、明日乃は、朝のうちに理科準備室前にいって、マイクロマシンを侵入させておいて欲しい。天井から室内全般を見られるように複数台を頼むよ。僕は、朝一で部室にブローチ型の怪獣コントローラらしきものを持っていく。それとマイクロマシンからの映像ってスマホでも見られるように出来ないかな」
「あとで部室とかで見るってことね? わたしのだけでよければやっておくね」
あとは、三人とも通信機を付けておくことの確認をしてから晩御飯とした。
「なんか、今までと違った感じがするな。こんなに事前に計画するのは初めてだ」
「それって、このたこ焼きの具材のこと?」
「姫子……アンタが、どうしてもたこ焼きがいいって言うから形だけでもたこ焼き機使ってるんだから文句言わないの!」
「だって入ってるのイカじゃん。これ、イカ焼きだよ」
文句を言うわりにはバクバク食べている。
「誰がたこ焼きだかイカ焼きの話しているんだよ! そうじゃないだろ!」
明日からの一週間は、ある意味での新たなステージとなりそうな予感がした。
この作品は、最初から色々な仕掛けが潜んでおり、後になってから回収されるものが多い作品です。お気に召したようでしたら、最新の話まで読了した後、第一話から再度読んで頂けますと何がどこで回収されたのかがお判りいただけると思います。お時間が許すようでしたら是非、挑戦して見てくださいm(__)m




