第四十話 夏休み問題のはじまり
ディスプレイにいつもの自宅を中心とした高エネルギー反応域が表示されている。
「これ、戦闘中のなんだけれど、見てこれ。弱い反応がみいさと駅付近から出ているでしょ」
「ああ、そうだね……あれ? 反応が二つあるな? 片方は破壊しきれなかった施設の一部だとして、もう一つは?」
明日乃がニヤリとしながら「ちょっと見ててぇ~……これ!」と三分ほど進めると、駅に近い方の弱い反応が明らかに移動している。
「これ、放射線の種類とか分かるのかい?」
「分かるよ。地下施設からの反応は微弱になったけれどガンマ線だった。でも、移動している弱いのはベータ線。線源自体は強いベータ線を放っているかもしれないけれど、ベータ線だからいつもは遮蔽されちゃってるのかもね。だから、また見てて……ほら! たまに強くなる」
「あ、ほんとだ」
同時に海人は高校の反応があるかも見ていた。
偶然かもしれないが、今までのところ反応はない。
「これ、ベータ線ということは、なんかベータボルタ電池みたいな動力源を携帯しているってことなのかもしれないね。コントローラーとかなのかな?」
「そうなのよ。これがあるから、駅の方を攻撃しなかったみたいな?」
その時、姫子が何かを思いついたらしい。
「あ~っ! 失敗したあ‼」と叫ぶ。
いきなり大声を出したので海人も明日乃も驚いてビクッとなってしまった。
「なによ、ビックリしたじゃない! コントローラーが、どうしたの……あーっ‼」
今度は明日乃が大声で叫ぶ。
そして海人だけが二回目のビクッとした。
「なんなんだよ、二人して! なんか僕だけ二回ビックリして損した感じじゃないか!」
「いや、だって星野。これ見たら意味わかるよ。ちょっと待ってて」
そう言って、彼女は司令室の隅にあるロッカーのようなものを開けると小箱を一つ持ってきた。
「開けてみてよ。あーって言うから」
「そんなんアンタ、こんなもの開けたからって、あーっとか言うわけおまへんやろ」と定番の関西ギャグのパターンを海人はわざとやった。
大したもんが入ってなくても、わーっといってやろうと思ったのだ。
にやけて箱を開けると笑いが一瞬で消え、演技ではなく心の底から声が出た。
「わぁーっ‼ 失敗したあ‼」
その小箱の中には亀町で自爆した施設から拾ってきたコントロール受信装置と思われるブローチのようなものが二つ入っていた。
外側はやや破損しているが、この二つのうちのどちらかでも持って行って反応らしきものがあれば、亀町に出現した第一怪獣と今回の第二怪獣には共通の背景があることになる。
「これ、結構な致命的落ち度ってやつ? まいったな。これはこれで単品で調べるってことしか頭になかったよ。大失敗だ……いや、待てよ? 明日乃、高校のエネルギー反応の記録は、どうかな? もしかして?」
「あっ、ちょっと待って。えーと……あ、でた。高校の理科準備室と思われる発信だよね。ベータ線‼」
「じゃあさ、お兄。これ、理科準備室の近くで反応を見てみたらどうかな?」
姫子にしては、かなり冴えた案なのだが致命的な問題があった。
仕組みと関係を把握しないで持っていると受信装置が反応していることで逆探知されるかもしれない。
「どうしようか。もうすぐ夏休みだしな。休み中に学校に、たまに出入りするまではクラブ活動って言い訳が出来ても理科準備室周りをウロウロするのは探っているのがバレる危険が高すぎる」
事件のキーになるアイテムがあるのに探り方と使い方がなかなか難しい。
ただ、裏付けの決定的証拠にはなるはずだ。
「でも、この地下基地にこの受信機みたいなのを置いといても、ここはあらゆるものを遮断しているから反応しないし……それに理科準備室からの反応が決まっている時間は朝だけだから持ち歩いている最中に不定期な発信で反応しちゃったら逆にこっちがピンポイントで探っていることを同定されちゃう」
すると今日は冴えている姫子が、また良いアイデアを出した。
「ん~と、それなら部室に置いておけば座敷ちゃんが誤魔化してくれるんじゃない?」
「あ、それだ」
確かに認識阻害がかかっている部室なら反応が出て、相手が探ろうとしても行き着けないだろう。
ただ、非常に気になることが、まだ一つ残っている。
「この受信機を部室に運ぶとしてもだな。何でウチの高校なんだ? 何か便利なこととか興味を引くことがないとわざわざ人がいっぱいいる高校なんかで活動しないだろ? もし、明日乃が何か良からぬ計画をして密かに活動するとしたら、どうする?」
そんなことを考えたこともない明日乃は、かなり困った顔をした。
そもそも、もし彼女が本気で何かをするとしたら秘密にする必要そのものがないのだから。
「その話はさ、わたしじゃ分からないよ。それと別の機会にちゃんとしておきたい話もあるし……ってことは置いといて。一つの理由だけじゃ場所は選べないよね」
「わたしならファミレスとか六連星珈琲の下に作るけれどなぁ」
どうやらデザートのことしか考えていない、いつもの姫子に戻ったようだ。
「おかしいよなあ? 逆に人がいることが必要だったのか? それでも学校である必要性はないよな。会社でも工場でもいいわけだし。人の出入りがあるのに、訪れる人が少ない部屋があるとかかなあ? なんか理由としては弱いよなあ」
何か見落としていることがあるのか、それとも相手特有の理由があるのか。
まさか「たまたま」ということでもないだろう。
考えているだけでは、限界のようだし、これは調査の深度を上げるしかなさそうだ。
海人は情報をいま一度、整理してみようと考えた。
「考えているだけじゃ埒が明かなさそうだ。とりあえず、JRみいさと駅の現状を映してくれないか」
メインディスプレイにドローンからの映像が二画面。
サブウインドに高エネルギー反応画面。
地上波報道のニュースが小さなウインドで幾つか並んで表示される。
みいさと駅前の戦闘場所付近は、既に立ち入り禁止となっており、警察だけではなくちょうど陸自が到着したところの様だ。
「怪獣が破壊したと思われる地下施設付近を映して欲しい」
明日乃がコントロール用の別なディスプレイに触り、画面が移動する。
火炎弾と怪獣の重量のせいで三メートルほど、陥没している道路や場所が連続している。
上下水道が壊されているため、汚水が溜まりつつある酷い状態である。
これでは亀町の爆破された培養拠点のようにコソコソ探ることも無理そうだ。
それに、あの時は怪獣をロボットで運び去るという、最も単純な方法をとれた。
今回は、その場での斬殺処分なので後処理に相当な時間がかかるだろう。
怪獣コントロール受信機も血みどろの中を探せばありそうだが、ぱっと見では散らばった臓物から探し出すのは困難に見える。
高エネルギー反応は、破壊されたであろう地下施設からわずかに出ているだけで、他には駅付近で移動していた反応も高校からの反応もない。
テレビニュースは、やっと現場付近に中継車が到着したのかレポーターが話し始めた。
が、背景があまりにもショッキングなせいか、集まっているパトカーや自衛隊の車両を映すに留めている。
「これは得るものが無さそうだなあ」
「お兄の飛行機って可視状態で怪獣を切っちゃっていたけれど、あれ、誰かスマホで写してるんじゃない? 大丈夫なのかな」
「それ、わたしも気になったんだけれど、これ見てよ」と言うと戦闘してる動画が表示された。
そこには、怪獣に急に穴が開いて動きが止まったところにアニメに出てくるような常軌を逸したデザインの飛行機が現れ、怪獣を真っ二つにすると上昇して空中で消えた場面だった。
「これ見たら逆に安心しちゃった。だって、何者かが怪獣に穴開けたまではリアリティあるんだけれど、その後が誰がどう説明したってCGで作ったものにしか見えないんだもん」
明日乃が言う通りでガンマキャリーが、ある意味でオモチャっぽい造形なのが幸いして急に嘘くさい絵面と化しているのだ。
「じゃ、そこについては気を遣うのをやめても良さそうだね。ショッピングモールのアルファウォーの手についてもハッキリ見えたってわけでもないだろうから幻覚ってことにされるだろうし」
だが、改めて映像を見るとガンマキャリーの武装がロボットと違い、細かい芸ではなく完全に力押しの兵器だった。
未見のメカだったので仕方がない部分もあるが、もう少し慎重であるべきだったかもしれない。
(超質量バレットを含めて、各武器の威力を把握しないままでは今後の戦闘において自分たちまで街を破壊することになる。まかり間違えばフレンドリーファイアだってあり得る。ここはシミュレータ内で慎重に学習しないとマズいな)
深刻な問題かもしれないが海人の中で一応、今後の対策を考え付いたので、今は話を戻すことにした。
「さて、そうなると今回の現場からは移動するベータ線源以外は収穫なしか。となると、やはりウチの高校の理科準備室と山瀬先生に的を絞るべきかな」
そんな思考を重ねていると「でもさ、学校が夏休みに入るんだから先生も休むんじゃない?」と姫子が言い出した。
悪意のある宇宙人も夏休みをとるかもには、さすがに笑ってしまった。
「姫子、そりゃいくらなんでも……いや、待てよ? 山瀬は学級担任を持たない専門教科の先生だ。新任の、そんな先生が夏休み中に学校に頻繁に出入りするのは目立ちすぎるし、他の教諭から指摘もされるだろう。これは案外と姫子の言う通りかもしれないぞ?」
そんな予測に明日乃も姫子も目を輝かせた。
「やったぁ‼ 夏休み、どうする⁉ どこ行く⁉ 何する⁉ 遠征しようよ、クラブで!」
「お兄、海行こうよ、海! ♪海に行こうよ~、果てし~ない海に~‼」
どこかで聞いたような鼻歌まで飛び出した。
しかし、何故、そんなに海に行きたいのか?
「だって、行ったことないんだもん。水着着てイカ焼きと焼きそばとカレーと浜焼き食べたいもん‼」
浜焼き以外は全部、その辺で食べられそうなものばかりな気もする。
「ねぇ、ホテル泊まって舟盛りで刺身食べてアンコウ鍋とかウニ丼とかカニ食べようよ‼」
姉の方はカネがかかりそうなものばかり食う気満々だ。
「わかった! わかったから! でも、クラブで行くんだから安いところに泊まる。田浦だって行くんだからな。それと夕食は多少デラックスでもいいが、夏にアンコウ鍋とかは却下だ。あと、夜は天体観測するのが条件だ」
そこまで言った途端に二人とも水着を買いに行くと言い出した。
「いや、ちょっと待て。まだ、海に泊まりがけで行くことしか決まってないだろ。その間の学校の監視とかどうすんだよ。ちゃんと計画立てていこうよ」
「ま、そう言われりゃ、そうね。真面目な話、まず学校内に監視用のマイクロマシンを撒いておきたいよね。できるなら山瀬自身にくっつけたい。エネルギーの監視は自動にしておいて、急変したら連絡が入るように設定すればいいかな」
案外、真面目に考えていたんで驚くが山瀬にマイクロマシンを付けられるかは難しそうだ。
「休み前に山瀬に接触する方法を考えないとならないな。それと、万が一のことを考えると行く場所を決めたら、アルファとベータを先に現地へ置いてきてから、改めて全員で電車やバスで行くということを考えないと。あとはEDOからの情報をキャッチできるようにすることくらいか。この辺、エスプレンダーがいたら話はもっと簡単だったんだけれどなあ」
エスプレンダーという言葉に二人が苦笑いし始めた。
また、なんか隠しているっぽいが、聞いてなんとかなる話くらいなら最初から話すだろうということで気が付かなかったことにした。
夏休みは一週間後からだ。
その前に、まず怪獣のコントロール受信機を運んで部室に入れておくことと、山瀬先生と理科準備室内にマイクロマシンを付けることを何とかしたい。
あとは、部室で詳細を詰めないとならないだろう。
あれこれ考えている海人に明日乃と姫子が真面目な態度で詰め寄ってきた。
「お兄、最重要問題!」
「で、星野。いつ、水着買いに行く?」
お盆休みは帰省するので、ちょっとペースが落ちますm(__)m ご評価、ブックマークなどいただけますと励みになりますm(__)m




