第三十八話 本格戦闘のはじまり
震源がかなり近いようだ。
だが、自然の地震ではないことは明白だった。
明日乃に急かされて玄関に入ると振動は全くなかった。
「あれ? 急に止んだな? どうしたんだ?」
「星野、何言ってんの。この家は地面に固定されているんじゃなくてシリンダーで浮かせてある状態なんだから巨大地震だろうが微塵も揺れないわよ。それに……」
なるほど、地下施設を見学した時にそうなっていた。だが、何やら続きがあるのだろうか。
「それにって?」
海人に聞かれると明日乃は、慌てて誤魔化した。
「そういうの後でいいから! 地下基地に行かないと!」と言っている間に姫子がリビングから飛び出してきた。
「お姉! 室内ライトが、なんか男の声で喋ってる! なに、あれ⁉」
姫子がリビングのドアを開けっぱなしにしたので海人にも聴こえてきた。
【こちらAI衛星 EDOです。UFOを確認。場所。埼玉県みいさと市。速度。時速5キロ。コースはグリーン】
男性がゆっくりと話すような合成音。
東京赤坂にあるのに東北っぽい名前の会社から、また怒られそうな内容と声だ。
これをやる為のスピーカーだったわけか。
「この家は、外力に対して無敵な分、外がどんな状態か分からないからリアルタイムでのパーソナルなニュースが必要だと思ったの。って、もう、そんなこといいから、早くわたしの部屋へ!」
感心やら呆れながらも明日乃の部屋に集まると音声認識確認で部屋は地下に移動し始めた。
そのまま司令室に入ると、さっきの男性の合成音声が聞こえている。
どうやら、まだ状況はあまり変わっていないようだが、詳細が分からない。
「場所やら現状を確認できる方法はあるのかな?」
明日乃は頷き、中央ディスプレイの端に表示された幾つかのアイコンのうち、三段階に並んだドローンアイコンの中から、中くらいのものを押した。
「今、ミサイルドローンを飛ばすから星野も覚えておいて。画面の左を見て」
中央ディスプレイの左側にウインドが開き、恐らく家の周囲を監視するための空撮映像が出た。
見ていると、キッチンの裏に植えてあるサンゴジュの木が二つに割れて中から小型のミサイルが撃ち出された。
画面が切り替わり、JRみいさと駅の方角に向かっているのが分かる。
五百メートル程度の高度を飛行しているようで、既に目標を捉えている。
というのも、またもや怪獣なのだが、明らかに前回のものより巨大だからだ。
映像はカメラ部分がミサイルドローンから切り離されたのか、移動はなくなりゆっくりと怪獣がアップで映し出される。
形状は熊の様だが長めの尾が確認出来る。
背中から尾にかけては熊ではなくワニの特徴を持った生物に改造されているようだ。
それが前へ進むでもなく、同じ場所で足踏みをしているように見える。
怪獣が何か火炎弾のようなものを吐き出すと着弾箇所から爆発と火の手が上がった。
同じ地点に何発も火炎弾を吐き、粉砕された場所に移動しては、何度も地面を踏みつけている。
「今度は、マジな生物兵器みたいだな。これが完成形なんだろうか」
「あれ⁉」
姫子がディスプレイを見ながら何かに気が付いた。
「お姉、お兄。ここの高エネルギー反応が弱くなっていくよ⁉」
しまった。
怪獣を出現させた何者かにどうも先手を取られてしまったようだ。
この怪獣派遣の理由が街の破壊デモンストレーションではなくて、エネルギー反応があった地下施設を壊す為ということかもしれない。
「くそっ、これって怪獣を作った奴らが施設の証拠隠滅の為に手を打っている可能性が高い! そんなことの為に周りを巻き添えか!」
「鉄道とか壊されたら復旧出来なくなっちゃうよ! お姉、出撃させてよ!」
現状でも怪獣の歩く振動で軌道整備は大変なことになるはずだ。
明日乃はモニターを見て歯がゆそうだ。
どうも相手のサイズがダメらしい。
「相手が中途半端過ぎて、わたしじゃどうなるか分からない。銃じゃ身バレが過ぎるし。二人にお願いするしかないかな」
「ロボットでの出撃か。でも、あの怪獣は前のより明らかにデカいぞ。十五メートルのアルファやベータで何とか出来るのかな?」
それに海人は、まだ武器の使用練習にすら至っていない。
だから、攻撃の主体は姫子のアルファウォーとなるはずだ。
「大丈夫。姫子、星野。まずは現場に行って攻撃で牽制していて。星野、ガンマキャリーを出すから、今回から操作して。やり方は、あとで簡単に教えるから」
明日乃から、知らない装備の名前が出た。
名前からして三機目の何からしいが、そんな付け焼き刃なことで操作できる代物なのだろうか。
「いや、でも、そんな⁉ 初見のメカを僕がなんとか出来るのか⁉」
「そんなこと言ってないで! 人、死んじゃうんだから! やれば分かるよ! あそこが出撃するためのシート。早く行って!」
「お兄、先行くよ」と言うと、姫子はシートへと走り座ると、そのままシートごと下降し、見えなくなった。
「わかった。何だか分からないがぶっつけ本番だ。行ってくる!」
出撃シートに座るとシートごとエレベーターのように下降した。
明日乃が軽く手を振っていたが、すぐに構造物しか見えなくなった。
『星野、シミュレーターも同じ映像のはずだから、普通にしていられるでしょ?』
いきなり明日乃の声が入ってきた。
教室でのドローン通信と同じ仕組みで、座席からのリンパ液共振通信機のようだ。
『ちなみに、まだ素振りやっているの?』
「ああ、まだやっているよ。そっちは刀系の武器の練習なんだろうなってことは、わかるんだけれど」
『それだとベータウォーで使えるのはソニックソードしかないね。紙コップって、まだ練習やってる?』
(どうやらロボットの名前はアルファウォーとベータウォーにしたんだ?)
座席が降りるのを止めて、後ろに進みだした。
「ん。おっとと。ああ、やってるよ。最初から比べると雲泥の差だけれど、目標の五百個を壊さず回収には、まだかかるなあ」
『じゃ、ある程度は出来てるんだよね?』
座席が停止して斜め上に上がると、ベータシミュレータと同じにハッチが閉まり、椅子が半回転すると、いつもの見慣れたベータコクピットにセットされた。
「百個くらいなら」
【星野海人の準備が完了しました。発進準備にかかります】
明日乃から、安堵のため息が聞こえた気がした。
「なら多分、問題ないよ。星野、戦えるから自信もってね」
姫子の声が割って入る。
「お兄、先出るね。アルファ サリー ゴー‼」
発進準備に入るベータウォーの格納庫内にアナウンスが響く。
誰もいないのだから意味はないはずなのだが、これも明日乃がDVDに感化されてやったことに違いない。
《レディ トゥ スタート。エンタイアリィ ウォーターゲート オープン》
格納庫内に水が注入され始め、水位がどんどん上がっていくのをメインモニターで見ながら海人は出そうになった愚痴を飲み込んだ。
(水中発進とか聞いてないんだがなあ。別にいいけれど)
【マスタースイッチ・オン。水位八十、九十、百パーセント。星野海人、ベータ サリー ゴー】
「ベータウォー発進する」
右ペダルを少し踏み込むとベータウォーは真上に空いた発進口から水中に出たが水深が浅いのか、すぐに空中に飛び出した。
メインモニターで足元を見ると水河公園の池の中から発進したことが分かった。
しかし、アルファ、ベータ共に光学ステルスが入っているとはいえ、いきなり公園の池から噴水みたいな水柱が上がったのでビックリしただろうと付近を見てみたが、怪獣の地響きが続く中でのんびり散歩をしている人がいるはずもなかった。
このロボットの飛行機能は噴射による反動推進ではないので、どんなポーズで飛行しようが関係ないのだが、棒立ちで前進するのは違和感しかない。
かと言って、羽根もないのに手を広げるとか、ヒーローのように腕を前に出して飛ぶとか、見えていなくても自己顕示欲が強そうに思えてなんか恥ずかしい。
結局、前斜めに倒れ込むような姿勢で目標に向かった。
相手が大きいので、ちょっと上昇するだけで怪獣と姫子のアルファウォーが目視できた。
怪獣の体高に対してアルファウォーが四分の一にも満たない大きさで、まるで十トントレーラーに立ち向かう軽自動車のようだ。
「現場に到着。うわ、でっか‼ お兄、これ、アルファの武器じゃ本当に牽制くらいにしかならないかも。でも、とりあえずやるね! オービタルブレード‼」
掛け声と共にロボットの巨大なバックパック部分に収納されていたリング状のものが四枚、空中に射出されるとフリスビーのように体高七十メートルの怪獣の背中に向かっていく。
「姫子、なんで武器の名前叫んでるんだ?」
「え? だって、そうしろって言うから。アルファが」
敵の存在に気が付いた怪獣は、アルファウォー側に向こうとした。
「おい、姫子! あいつ、アルファが見えてるんじゃないか⁉」
オービタルブレードは複雑な弧を描いて怪獣に向かっているので大まかな方向は読めても発射位置までは分からないはずだが、かなり正確にアルファウォーの方向に向き直り、口から火炎弾を吐こうとしている。
そこに円盤型のブレードが襲い掛かった。
しかし、ワニの皮膚の部分に弾かれ、一つは再度空中へ。
もう一つは明後日の方向に吹っ飛ばされてしまい、江戸川の土手に突き刺さって止まった。
残り二つは、熊の毛の様な部分に当たり、毛を刈ったが一つは左腕に傷を負わせたようで、体液が地面に落ちた。
かまわず怪獣はアルファウォーのいそうな空中に向けて火炎弾を連続で放ち始める。
しかし命中率がもともと悪いのか、それとも、やはり見えていないのか。
アルファウォーにドンピシャな方向とは言えない範囲で放っている。
しかも、外れた火炎弾は、そのまま江戸川を越えて隣の栂戸市の奥に着弾してしまったようだ。
このままではマズい。
そして怪獣の様子を離れた場所からドローンの中継で見ていた海人は違和感を感じていた。
(見えていない? しかし、それならどうしてアルファの場所が分かった?)
明日乃から通信が入った。
『星野、プローブが高校と同じ程度と種類の高エネルギー線を探知したよ。しかも、少しずつ移動しているみたい。正体を見極めるから一部のドローンをそっちに移動させるね』
「なるほど、そういうことか。この怪獣、リモコンでコントロールされているぞ」
そこに気が付いたのはいいが、仮にコントローラーを持つ者をどうにか出来ても怪獣は残る。
それに時間がかかり過ぎると怪獣以外の対処が複雑になる。
「どう考えてもこのまま戦うと、とんでもないところにまで被害が拡大しちゃう。アルファウォー、着地するね」
飛ばしてコントロールしていたオービタルブレード達を地面の一か所に向かわせて突き刺すと、アルファウォーも着地してブレードを回収した。
「やっぱり接近戦しかなさそう。それなら、それで! スティングハンマーァ‼」
アルファウォーのバックパックが丸ごと地面に落下し、そこから柄が伸びた。
それを掴んで持ち上げるとバックパックだったものはモーニングスターのようにトゲがある巨大ハンマーとなっていた。
『姫子、三十秒くらいでいいから怪獣の気をそらしてくれる?』
「アイアイサー! 凄い必殺技を編み出したから任せて‼」
『星野は、あまり接近しないで。少なくとも五百メートルくらい離れて待機してて。これからガンマキャリーを発進させるから。発進したら十秒くらいで星野のところに到着するんだけれど停止とかしないから』
支援メカが来るのは良いが、明日乃は、それをどうしろというのか。
『ガンマキャリーは五十メートルある飛行機型の戦闘メカなんだけれど、飛行機のお腹の部分からロボットが掴む為のハンドルを出すから、それを掴んでくれる? そこから先はガンマキャリー側のAIが星野に話すから。わかった?』
「とにかく掴めば何とかなるんだな? 完全に出たとこ勝負だけど、飛行速度を同調させればなんとかなるだろ。やっちゃってくれ」
その時、姫子のアルファウォーはホバリングでスケーターのように怪獣に近づくと恐竜の様な左足の外側の爪めがけてスティングハンマーを振り下ろした。
「必殺‼ タンスの角アタック‼」
グシャッという嫌な音と共に砕けた爪と体液が派手に飛び散る。
それまで怪獣はコントロール下にあるためか、ちょこまかと動くロボットを一見冷静に見定めていた。
しかし、あまりの痛さに、急に素早くメチャクチャに動き出した。
怪獣は悶絶しながらも腕の爪で上からアルファを潰そうとしたが姫子はギリギリでかわす。
だが、尻尾を避けられずモロに食らってしまい、駅近くのショッピングモールまでぶっ飛ばされて激突してしまった。
「おい‼ 姫子、大丈夫か⁉」
『星野、こっちに集中して! ガンマキャリー発進‼』
高評価などでの応援して頂けますと、はげみになりますm(__)m




