表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

第三十六話 不穏のはじまり

 意図せず流行らせることになってしまった【標識の人物】キーホルダーは、「歩くおじさん」だけでなく「おじさんと子供」「兄と妹」「工事中」などバリエーションも豊富であった。

 各人、素材も考えて、手軽にパウチのもの、紙や木にシール処理したものや果ては3Dプリンターを使ったものまである。

 これでは、まさか殺傷破壊能力まである携帯兵器が紛れているとは誰も思わない。

 木を隠そうとしたら周囲が森になって勝手に隠れてしまったわけだ。


「なあ。なんでお前まで標識キーホルダー作ってんだよ、田浦」


 田浦のカバンにも工事中の人を模したでっかいキーホルダーがぶら下がっている。


「いいだろ! 厚紙を重ねて接着して作ったんだぜ! 三日もかかっちまったよ」

 上手く出来た自信があるのかご満悦だ。


 一方、海人の方は、毎日校内のサーモ撮影と分析。それにシミュレーターベータから日頃の訓練として、何故か素振りを推奨され、シミュレーター以外も寝るギリギリまで素振りをする毎日となっていた。

 実は子供の頃、剣道漫画が流行った時があり、その場のノリで竹刀を買ったことがあったので、それを使っている。

 やれと言われたから大きく薄めのワッシャーを鍔の辺りに付けて毎日素振りを三百回やっていた。

 お陰で肩と腕がつるような感じがしてパソコンのキーを打つのにも違和感がある。


 並行して撮りためた画像から、校内にいる外星人を探してみた結果、サーモ撮影レベルで判断できるのは七人だ。

 名前も分からない奴もいるので、調べなければならない。

 それと教師の中に外星人がいるかは、撮影そのものが難しいので全員は未だ不明だが少なくとも一名、マークすべき人物を見つけた。

 その部分を早く二人に見せる為に昼休みに部室に集合する。


 ついでに田浦も飯を食うだけのために来たが「あ、俺のことは気にしないでやってくれ。俺は座敷ちゃんとお茶が重要なんだ」とすっかり馴染んでメシを食っている。


「じゃあ、お言葉に甘えてだな。二人ともこれを見てくれないか。今朝、職員室にちょっとだけ入った時の映像だ」


 映像は職員室に入るところから始まった。

 ドアを軽くノックだけして入り、小声で「おはようございまぁす」と言うとカメラは職員室をなめるように右から左にゆっくりと映し出す。


 そのまま視ていると映像の端、職員室の奥、窓際に座っている男性教諭が一人。

 五十代くらいの痩せた男。

 コーヒーの紙カップを持ったまま、ぼんやりと外を眺めていた。


 その体が——薄い青に映っていた。

 通常の人間なら黄色からオレンジ。

 それが周囲と同じ色の青だった。

 まるで、そこに存在していないような色だった。

 そして、あまり見たことが無い教師だ。


 その人物が映ったところで「朝から何やっているんだ、お前は」と後ろから声がして映像が大きく上下したところで映像を少し巻き戻して止めた。


「ぷぷっ! お兄、怒られてんじゃん」


「見るのそこじゃないでしょ。この先生、名前わかる? わたしは見覚えないけれど」


「わたしもないかなぁ。白衣着ているから、なんかそういう人?」


 海人も見覚えが無い。

 こういう時は、そこでメシ食ってお茶を飲んでいる奴に聞くに限る。


「田浦、ちょっと。コイツ、誰か分かるか?」


 田浦はお茶をもらってにこやかにメシをかっ食らっていた手を一旦止めて映像を見た。


「あ、えーと、誰だっけなあ⁉ 化学の臨時だか非常勤だかの人だわ。一ヵ月だか二ヵ月前だかに来たらしいんだけど。普段は理科準備室とかにいる……」


 海人と明日乃は顔を見合わせると声まで合わせた。

「理科準備室ぅ⁉」


 電磁波測定器の反応が一瞬あった場所だ。

 地下基地での高エネルギー感知反応も恐らくそこに違いない。

 しかも高校の化学の教師が高エネルギー線が出る実験を、まだ生徒がいない朝一から毎日、定期的にやるとは考えづらい。

 どうやら限りなく黒に近い人物をついに発見したかもしれない。


「明日乃、今日帰ったら最近のプローブの記録を見せてほしい。それにしても、コイツは何が目的でうちの高校にいるんだろう」


「わたしや姫子目的じゃなさそうだよね。全然、接触してないし今まで気が付かなかったくらいには、こっちに意識が向いてないんだもの」


「そうなると、なんだろうな? あーっ、謎が多すぎだよ!」


 それを聴いて座敷ちゃんが自分を指さした。

 田浦は田浦で「俺にとっちゃ、今のお前が一番謎だけどな」といって笑っている。


 そんなことをやっているうちに昼休み終了の予鈴が鳴った。

「この部室の昼休みって、ほんと短く感じるなあ。この続きは家に帰ってからだな」


 姫子が寂しそうに「お昼、また食べれなかった」と言うと座敷ちゃんが一口羊羹をいくつも持たせてくれていた。




 その日の午後の授業は全然頭に入らなかった。

 焦っても仕方ないのだが、ともかく早く家に帰って次の手を考えたかったからだ。

 授業が終わってから駆け足で家に帰ると、玄関に既に靴があった。

 別ルートで明日乃たちは先に帰宅して料理を作り始めていた。

 どうやらホイコーローらしい。


 作りながら「ほら、姫子がさあ。お腹減ったってきかないのよ。なんで、もうすぐ出来るから星野もまずは食べなさいよ。あんた何を今更、焦ってんのよ?」


「そうか……やっぱ、そう見えるのか。焦り過ぎかな?」


「そうねぇ。まずはご飯食べて、その後、素振りするかシミュレーター訓練してからお風呂入って。それからでいいんじゃない? 作戦練るんでしょ? 冷静にいこ?」


 そんなことをキッチンで話していると姫子が駄々をこねだしたので、海人も何か手伝おうとしたが「とにかく座ってて」と言われ大人しく座る。

 だが人間、何もしていないと余計なことを考え出すもので、今、何かが起こった場合、まだ全てが中途半端な状態でどう対処すればいいかまでを思案し出した。


 そこに明日乃は一皿に大盛りしたホイコーローをドンと置き「これ以上に美味しいホイコーローが食べたければ、わたしを横浜中華街に連れて行きなさいよね。どっちかというと、そっちを考えて欲しいなあ」とたしなめる。

 姫子も「お兄さぁ、ベータに素振りやらされてるのって、きっと操縦に関係するんじゃない? だったらシミュレーター訓練に慣れることを頑張った方が良くない?」と言われてしまった。

 たしかに、せっかく対抗手段の機会を与えられているのだから、タスクを順番に確実に処理していくつもりで消化していかないと全てが進まなくなる。


「そうだな。目の前のことからやらないと、いざという時に、また僕だけが足手まといになってしまうからな。二人の言う通りだよ。まずは、メシ食うわ」


 三人で食べると山盛りのホイコーローが見る間に減っていく。

 にこやかに食が進む中で明日乃の箸だけがピタッと止まると、なにやら険しい顔になっていった。


「あれ、お姉どうし……あ……」


 どうも二人とも様子がおかしい。何かを感じたと言うより困惑している様にみえた。


「どうした? なんかあったのか?」


 すると困った顔をしながら「エスプレンダーがどこかに派遣されたみたいなんだけれど、なんだかよくわからない……」

 亀町怪獣騒ぎの時に現れたロボットのことだ。どっかに派遣させた(みたい)というのは、どういうことだろうか?


「誰が、どういう理由で、何処に派遣させたんだ?」


「お兄、エスプレンダーに指示を出来るのはわたしとお姉以外には、あと分かるっしょ」


「ん?」と言って海人は、窓の外を指さした。


「うん」と二人とも頷く。


「君らの親父が、またなんで? いきなりだな?」


「そこが説明が難しいんだけれど、どうもかなり遠方、何光年か先で長期間、待機させるみたい。なんでなのかはよく分からないの。ただ、理由は何かある。ふわっとしたイメージだと、どうも艦隊がそのうち来るのかな? 多分、それじゃないかな」


「つまり、何かを感知して対応したってことなのかな?」


「そこは、わたしに説明させて」と姫子が手を挙げた。つい最近まで宇宙艦のもとにいたからなのか、姉より具体的に説明出来る自信があるのだろう。


「父が何かをする場合って、お兄の考えているような探知とか探索みたいな後天的理由じゃないの。今回もたぶん、わたし達が何かをするという確率から導き出された別の確率からのはずなのよ」


「えっと、つまり未来が見えたりしたからか?」


「違うよ。それって時間概念でしょ? そんなのは地球にいる人類が自分達に分かりやすいように使っている尺度でしかないの。時間の実態は履歴からしか分からない。だから、まだ起きていない未来なんて事実は最初から無いよ。それは数字の中にしか存在しないんだよ? あ、そういやお姉の名前は未来だった。そっちは、あるよ」と言いながら笑っている。


 まさか姫子から教えを乞うとは思わなかった。

 チャラケている様で本来の姫子は表に出ていない部分にあるのだろう。

 だが、彼女が語った内容については半分くらいは海人も分かっていたことではある。


「つまり確定的な事ではないけれど、現象としてエスプレンダーが、その位置に必要になる時があるから先に配置したということかな?」


「どうも、そういう事みたいだよ?」


 それは困ったことになった。

 今、調査しているのが本当に組織だった場合、もし、次に怪獣が現れるとしたら、今度は偶発的ではないことになるから最初の怪獣より面倒くさいことになるかもしれない。

 そうなるとエスプレンダーがいない状態でどうなるのか? ということになる。


「おい、それってこっちのカードが一枚なくなったってことだよな? 前は、ロボットに連れ去ってもらって処理してもらえたが、今度、怪獣が出たら僕らの手でなんとかしなきゃならないってことか」


 これには明日乃も思案のしどころだ。

「今のわたし達の状態も把握しないと、対応方法まで決められないよね……」


「じゃあ、メシを食い終わったら、一通り僕らには何があるのか、どこまでどうなのかを並べてみようか。それで、ある程度わかることもあるだろう」


「いいね。そうと決まったら急いで食べよっか」と言うなり、急に二人が馬力を上げてホイコーローを食べだすと海人の食べる分までが一気に無くなってしまった。

 おかずが無くなり、しかたなしに立ち上がり冷蔵庫に向かうと「残りは明太子で食べるよ」と海人は寂しそうに言った。


「あっ、ごっめーん! でも、打ち合わせするんだから早く食べてね」

 この女子高生どもは、たまに血も涙もないこと言う。




 打ち合わせは地下司令室ですることにした。

 声紋チェックから部屋ごと地下へ降りるにつれて、食卓の空気から引き締まった空気へと変わっていく。

 雰囲気は大事だし、どうせその後はシミュレーターでの訓練だ。

 それに、この超凄い設備で打ち合わせをすると、大したことないことでも凄い事みたいに感じて自然と気分があがってくる。

 ただ、実際にはまだ訓練を開始して間もないことから設備の凄さを使い切れていない自覚がある。


 司令室の中央にあるディスプレイテーブルを前にして、まず海人が切り出した。

「じゃあ、懸念される場所や状況を整理しよう。ここ四日間の高エネルギー反応について、今、プローブが配備されている範囲で構わないから出してもらえるかな」


 照明が少し落ちて、ベースカラーがオレンジ色のディスプレイからフルカラー表示になると前回と同じ円形の観測範囲が現れる。

 やはり常時反応ありなのはJRみいさと駅から自宅方向へ約五十メートルほど進んだ付近だ。

 他の隣接するプローブからの反応がかなり鈍いところをみると、反応を直接拾っているプローブのすぐ近くなのだろう。


 そして、もう一つ反応があるのは、やはり高校。

 ただし朝七時半以外の反応は、どうもランダムっぽい。

 では、朝の定期的な反応は、なにかの起動確認なのか。あるいは手段は不明だが強力な発振を必要とする通信なのか。


「この毎朝七時半の反応が狙い目だな。当面は、この反応をどう調査するかに的を絞ろうか」


「いいけれど、JRみいさとの方はどうするの?」


「それなんだが常時反応があるということは、何らかの設備維持の為の高エネルギー線漏れなんだろうから、下手をすると基地である可能性がある。もし、そうならエスプレンダーが不在の状態で、この藪をつつくのはどうかと思うんだ。それに今の僕らで何かあったら対処可能かどうかの確認をしてからじゃないと手自体が出せないよ」


 海人の懸念は当然だ。

 先日の亀梨駅前怪物事件では相手の正体を探るために仕掛けた罠へ、合成生物が掛かってしまった。

 結果、人的被害にまで拡大している。

 なので前回同様の場合は、自分達で対処すべき事案となる。


 ところが、現状は甘くなかった。


「では、僕らが用意出来る戦力について共有しておこう。まずは、最大戦力である明日乃からだけれど、今、どんな感じ?」


 聞かれて、少々バツが悪そうに「自分の力の制御だよね。まだ、四日目だから全然上手く出来てないのが本音なの。やってはいるんだけれど、勘所が微妙過ぎて正直、全然わかんない。もう一ヵ月くらい様子をみさせて欲しいかな。もちろん、ものづくりの方なら、かなり細かいことでも出来るようになったけれど、言っているのはそっちじゃなくて破壊的なエネルギーの制御のほうだよね?」


「そう、そっちだ。でも簡単じゃないことも予想していたからこそ、明日乃専用武器の携帯って選択肢だったはずなんだが、あの標識キーホルダーがそうだよな?」


 持ってきていた歩くおっさん型の大きなキーホルダーを見せて「これだよね? あとで訓練室で威力を見せるね。まあまあ期待してもいいんじゃないかな」


「じゃあ、それはあとで見せてもらうとして、姫子のハンマリングミウスなんだけれど、これは今のままでも良さそうな気もするが、どう?」


 しばらく考えてから「痺れるのだけだと使える相手が限定されるから、普通の銃っぽい効果も欲しいかなぁ」


 もう既に重すぎてダンベルを加工する話みたいなもんだが、遠距離攻撃がパラライザーだけというのは、ちと寂しい。


「既に機能が入ってるところに付け足すんだから、大したことはできないけれど、それでいい?」


「全然いいよ。でも、この前のことを考えると警官の銃よりは威力ないと意味ないかなぁ」


 確かに。

 あの変なゴリラには、あれだけの銃弾がまるっきり効いてなかった。

 怪獣はともかく、大型合成生物くらいは相手に出来ないと辛い。


「明日乃、僕からも時間を見つけてお願いするよ。なんなら僕の銃と同じ内容でもいいと思う」


「そう? それでいいなら、やっておくね。二人とも、そっちのテーブルの上に置いといて。それで? 二人ともシミュレーターは、今、どこまでいったの?」


「え? どこまでいった? どこまでもここまでも、毎日、片手で砂を握る練習と照準を言われたものに素早く合わせる練習だけれど……」


 明日乃は、フッと笑って「進んでるからいいんじゃない?」とだけ言った。


「姫子は、どうなの?」


 すると海人と全然違うレベルの話をし始めた。

「昨日、スティングハンマーの基礎が終わったから、今日からオービタルブレードの練習だって言ってた。ニードルクラスターは、最後にやるって」


「えっ? えっ? それ、たぶん武器の話だよな? 全然、そんなのやってないんだけれど!」


ちょっとだけ応援してもらえると嬉しがります(^^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ