第三十五話 流行りのマスコットのはじまり
想定外なのか、予定外なのかは分からないが、どうも海人に教えるベータのAIは、独自に判断をしたらしい。
「どういう意味があるのか、ちょっとわたしにも分からないけれど。でも、大きく外れたことは教えないはずだから。あ、それと銃の改造終わったよ」
訓練している間に改造するとは言っていたが、本当に出来たらしい。
「まず、姫子のはハンマーとしても使うから重さを三十キロにしてパラライザーの射程を五十メートルに伸ばしておいたよ。その……ラッキーガン?」
またネーミングでトラブりそうだ。
「明日乃、その名前もかなり際どいよ。うーん……じゃあ、ハンマーとミウスでハンマリングミウスでどうだ!」
これは決まったと思ったが、姫子にはなんか微妙なネーミングセンスらしい。
「格好いい名前なんだけれど、もう銃の名前じゃなくなってるしぃ」
「でも、銃っていうよりはラッキーミウスに実用機能付けたって方が正しいだろ?」
そう海人に言われると、だんだんそんな気もしてきたようだ。
「そういやそうかもぉ。うん。お兄の案にする! これ、ハンマリングミウスだよ!」
ここまでやたらと揉めたネーミングにケリがついたところで明日乃が隣で試射をしてみろと言い出した。
確かに今までまともに撃った相手が姫子だけなんで、いまいち効果すらピンときていない。
シミュレーションルームの隣の訓練室は、基本的にはだだっ広いだけの空間にみえる部屋だ。
薄いグレーの壁と天井なのはいいんだが、基本的にはグリッドが入ったホリゾンみたいな部屋なので無理やり透視図法がかかっているように見え、距離感がどうも掴みにくい。
「このグリッドは一つが五メートル四方なの。今から三十メートルくらいの位置にターゲットを出すよ。パラライザーで撃っても判定出るから、姫子は先に撃ってみて。で、その間に星野にはキューブラスターの能力とフィルタリングロックについて説明するね」
ガシャンという音がして六~七マス先くらいに丸いターゲットが出た。
それを姫子は撃ち始めた。小さいがビューンという特徴的な発射音がする。
その発射音の中で明日乃は、少し大きな声で説明をしだした。
「今度のキューブラスターの注意点は、充電電池みたいに容量があるよ。ブラスターを最大能力で撃つと二回でカラッポになる。その辺の石ころをドロドロにするくらいなら十回くらい。等身大くらいか、それより大きな改造生物相手だと、どうかなあ? 三十回とか、いいとこ五十回かもね?」
だが、今まで現れた改造生物はいずれもかなり巨大だった。
「つまり亀梨駅での生物位が戦える限界サイズって感じか」
「怪獣相手に銃で戦えるのは日本のテレビ特撮くらい。そういうのを相手にするには、こっちもロボット程度は出さないと」
ごもっともな話だ。
宇宙人から怪物まで相手に出来る武器というだけでも有難い。
「距離と効果が反比例するから威力については使って覚えて。それと懸案のフィルタリング機能なんだけれど、大きさ一センチ以上で地球由来の未改造生物にはブラスターはオートセーフティロックがかかるから使えないよ。だから普通に熊に襲われたとかの場合はパラライザーだけでなんとかしてね。あと照準補正はあるけれど、それほど当てにしないでほしいかな。だいたいそんな感じ」
ほうほうと聞いていたが「充電というかエネルギー切れの補充はどうするんだ?」との疑問には、なかなか興味深い答えが返ってきた。
「使わないで放っておけば一時間で二十パーセントずつ回復するけれど、急ぐ場合はわたしか姫子が握れば即チャージ完了するよ」
「え! ということは、君らが持つなら、ほぼ無限に連射できるってことか?」
「それはそうなんだけれど……あれ⁉ 星野、今、もしかして凄く良いこと言ったかも⁉」
明日乃が何か思いついたらしい。早口でしゃべり始めた。
「あのね、実はわたしも訓練するんだけれど、それは姫子の能力を引き上げる訓練と同時に自分の能力を細かく調整できるようにする訓練なの。わたし、物を作るのはエネルギーを大量に必要とするから割となんとかなるんだけれど、破壊とか爆発とかって、ただエネルギーを解放するだけみたいなことじゃない? だから逆に威力が出すぎちゃったり、絞り過ぎて効果が全く出ないとかファジーというか微妙なことが凄い難しいわけ」
言っていることは、つまりこういうことだ。
満水のダムの放水口からバケツ一杯分だけ水を出したいが上手くいかない。
そして、明日乃がやろうとしていた訓練とは、どうやらそれを目標に真面目に練習し続けていればバケツ一杯でもコップ一杯でもコントロールできるようになるんじゃないかということだ。
まるで仙人の修行だし、それは難易度がいささか高すぎる。
「明日乃。そういう悩みはさあ、言ってくれないと。破壊だけに限定する制御なら答えは簡単だろ。キミ用の武器をキミが作って自分でチャージしながら使えばいい」
結論が海人と同じで自分の中の答え合わせが出来たのか、嬉々として話し出した。
「そう! そうなのよ! ああ、もう、最初から星野に相談すればよかった! チャージならある程度のサイズが必要だから、そんなに意識しないでも出来るし! ああ、でも、やっぱり弱く使える練習はしておかないと。この前の亀梨駅の奴は、たまたま上手くいったけれど、あれだって今考えたら江戸川クレーターとかって出来ちゃってもおかしくなかったくらいだし。それに、これからいつも武器持っている状況とは限らないし、学校には持っていけないし。あ、でもキューブでいいなら目立たないかな。ねぇ、どう思う⁉」
江戸川クレーターとか聞き捨てならない単語が出てきた。
怪獣が危ない以前に明日乃の方がよっぽど危なかったわけだ。
最悪、明日乃が暴走しても親父が何とかすることもあり得るが、基本不干渉を貫いているのだから楽観は禁物。
案外、地球が無くなっても【残念だった】で済まされてしまうかもしれない。
偶然だったにせよ、あの時の明日乃の調整が上手くいって本当に良かった。
だから、当面は武器と言う形で制御できる方法を当面はとりつつも、出力制御の練習はしてもらうのが良いだろう。
「さっきの観測結果でも高校ですら何だか怪しいことになっているからな。旧校舎はともかく新校舎には座敷ちゃんは興味ないみたいだから手を出さないだろうし。武器の使用場面はあるかもしれないよな。ということは……」
その時、射撃練習をしていた姫子から声がかかった。
「お姉、これ射撃のターゲットしか出ないの? ハンマー試してみたいんだけれど」
「あ、出せるよ。じゃあ、ポールとかドローンターゲットとか出すから」
途端に姫子の周りにカンフー映画で見た木人みたいなのが出てきては引っ込む。
それをハンマリングミウスでぶん殴るとガイイィィィィン!という鈍い金属音がして木人がひん曲がり引っ込む。
まるで等身大もぐら叩きだが、さらにドローンが加わり、撃ったりぶん殴ったりと息をつかせぬ攻撃練習。
そんな姫子がラッキーミウスを持って飛び跳ねているのを見て海人は(これだ!)と思いついた。
「明日乃、キューブじゃなくてカバンに吊り下げられるマスコットにしたらどうだ? 少しくらいデカくなってもマスコットで通せばイケるんじゃないか?」
「あー、でも、ラッキーミウスみたいな立体物をぶら下げるのって邪魔だし」
「じゃあ、平たいキーホルダーみたいなものにしちゃえばいいだろ?」
海人はスマホを取り出すとちょっと検索して、とある画面を見せた。
「例えば、これとか」
「えっ、これ⁉ これ、どう持つの⁉」
「いや、中の人の足部分をさ」
「あ──、そういうこと? でも可愛い……かなあ⁉」
「試しに作って、明日カバンにつけてみりゃいいじゃん」
「う~ん、そうね……まあ、作るけど」
その後、姫子の練習が終わると今度は海人の射撃練習が始まったが、これも初めてなんでキューブラスターの能力に助けられて、まあまあ何とか当たっているという感じで訓練は終了。
風呂・飯・お茶・寝る、が過ぎ去り、あっという間に月曜の朝となっていた。
海人のカバンには、今日もサーモグラフィ。
ポケットには電磁波測定器が入っている。
だが、二人とも銃は携帯していない。
まだ慣れていないのと、それなりの大きさなのでカバンに入らないからだ。
持ち歩くためにはポーチやサイドバッグ等の対策を考えないとならない。
そして明日乃のカバンには、真っ白で、かなり大きな人型のアクリルキーホルダーらしき物がぶら下がっていた。
帽子を被った男性が歩いている真横からのシルエット。
革の落ち着いた色に対して、三十センチはある真っ白な目立つキーホルダーが揺れている。
目立つ女子が目立つものを付けて登校するのだから、いつもより他の生徒からの朝の挨拶が多い。
その次には明日乃に嫌われないように皆、微妙に言葉は違っても内容を簡単に言うと「これは何のキーホルダーなの?」という質問であった。
そのうち、女子の一人が横断歩道を見ていて気が付いた。
「明日乃さん、これ! あそこにある横断歩道の標識の中の人じゃない⁉」
「あっ、本当だ‼ えーっ、どうしたのこれ! 私も欲しい‼」
「自分で作ったんだ⁉ どうやって作るの。私も作りたい!」
まだ、学校内に入ってもいないうちから囲まれて、困った笑いをしながら歩いて行く。
それを眺める海人の後ろから田浦がポンと肩を叩いた。
「よっ、おはようって、なんだあ? 今日はまた朝から明日乃さん、人気じゃねぇか。何があったんだ?」
「おぅ田浦、おはよう。あれな。明日乃が自分で作ったキーホルダーをぶら下げて登校してたらコレだよ」
「え、たったそんだけ? かーっ! 相変わらずスゲエな、お前のかの……おっととと」
言いかけた田浦に慌てて肘打ちする。
「おい、田浦。頼むよ!」
わりぃわりぃと謝る田浦に後ろから姫子が声をかける。
「おはよう田浦くん。キーホルダーのお陰でお姉に近づけないよ、まったく!」
「ああ、おはよう。あれ? 昴さん、なんか怒ってないすか?」
なんとなく理由が想像できた海人が割って入る。
「それ、多分なんだが姫子も自分のマスコットを作ったんだよ。ただ、デカくてさ」
「ははあ、自分もカバンに付けてきたかったと。いいじゃないすか。今、ぬいぐるみ丸ごととかデカいのを自分のアイコン的にぶら下げている女子ってけっこういるっすよ?」
それは出来ない。
姫子のハンマリングミウスは三十キロ以上の重量がある。
カバンに小学四年生をぶら下げて歩くようなものだからカバンがもたない。
「これは、カバンを強化するしかなさそうね!」
「えーっ、やめとけよ。カバンが床置きしか出来なくなるぞ?」
海人は反対するが田浦は姫子側につく。
「いやいや、星野。お前、女子の気持ちってのが分かっちゃいねぇな。自分の手作りのマスコットをぶら下げることで少しでも通学時間を楽しいものにしようとする、そこを分かってやれよ」
(分かってないのはお前だよ)と言いたがったが事態が複雑になりそうなので、ここはアドバイスだけ言うことにした。
「あれはポーチに入れて、カバンに付けるのは姫子も明日乃と同じようなキーホルダーにしたらどうかな?」
「んー、おに……星野くんがそういうなら」
三日後。
みいさと高校に通う女子達のカバンには、いろいろな道路標識ネタの手作りキーホルダーがぶら下がっていた。
星やらイイネ的なものを頂けますとめっちゃ嬉しいですm(__)m




