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第三十話 大改造のはじまり

「どういたしまして。というか、僕が明日乃や姫子をどうすると思っていたんだ? なんかとんでもない予測を立てていたんじゃ⁉」


 二人が泣く程の予想というと、海人が自分の推察を盲信した挙句、何故か全ての関係を無かったことにしてしまうくらいなもんだろう。

(そんな人非人なことするって思ったのかなあ。あれ? むしろ昔話の夕鶴みたいに、言うべきことじゃないことまで言ってしまったが為に僕だけが置き去りにされてしまうって可能性の方が正直デカかったんじゃないか⁉)


 そこを想像した途端、身震いと共に急に心細くなってきた。

 俯瞰かつ客観視すると何故か全員がそれぞれ小さくなってしょぼんとしている状態だ。


「あの……さ、雰囲気をいつもの感じにしたいんだけれど……ダメかな……?」


 それまで全然泣き止まない二人だったが、とりあえず明日乃が泣き止んで

「ケーキ食べたい」と言うと姫子まで「ケーキ食べるまで泣き止まない」とか言い出した。


(それじゃ、もう一度外に食べに行くしかないじゃないか)


「んーと、この時間だとファミレスか、チェーン店の六連星(むつらぼし)珈琲くらいだけど、そっちにするか?」


 言った途端にキャッキャし始め「スフレだけどストロベリーフェアやってる」だの「フレンチトーストを頼まないわけにはいかない」だの祭騒ぎで、再び玄関を出て三人で六連星珈琲のある亀町駅方面を目指して歩くことになった。


 そういえば元々は罠ついでにクレープを食べるという感じでいたのが怪物ですったもんだやったものだから、いつの間にか焼肉食い放題に行ってしまい、そこでの重い話からデザートを本格的に食べる前に店を出てしまったので甘い物を食べたいというわけだ。



 歩いている間も終始「もっと早く気づけばよかった」「六連星はパフェがない」「もうすぐ桃のケーキが出回るが、どの店にするか」とスイーツ三昧な話をしている。



 六連星珈琲はチェーン店ではあるが大人の落ち着いた雰囲気のある店だ。

 店内の壁には「昴」と筆で書かれた大きな一文字が掲げられており、姫子が「ここを根城にする」と言い出す始末。

 ボックス席を選んで座ると早速、季節限定メニューを広げる。すると今度は、ひとつだけなんて選べないとか始まった。


「ふたつ頼んでもいいよ。僕はフルーツティーだけで充分だから」と言うと、二人とも二品ずつ頼むことにしたらしい。

 オーダーをして全部がテーブルに揃うころには、四人掛けのボックス席に四つのスイーツと三つのフルーツティーのデカンタが並んだ壮観な眺めと化していた。

 二人ともスマホで写真を撮ってから嬉しそうに食べ始める。




「そういやさ、なんか訓練する部屋を作るとか言ってなかったか?」

 明日乃が目をパチクリしている。完全に失念していたらしい。

 しばらく黙った後、考えがまとまったのかスフレの続きを食べ始めた。


「帰ったら、すぐとりかかってもいい? 三日くらいかかるかもだけど」


 間取りを増やしたり床を掘り下げることすら数分で終わらせる明日乃が三日もかかるとは、一体どんなものを作るつもりなのか。正直、あまりいい予感はしない。


「周囲に迷惑をかけないで、やり過ぎ注意くらいのイメージで好きにしてくれ」


「うん。わかった。任せといてよ! それじゃあ早く作業終わらせたいから、明日からの学校なんだけれどわたし病欠で」


 この時にもっと強く言っておけばよかったと海人は後から多少後悔することになる。



 二人が食べながら雑談している合間にニュースチューブを観てみる。

 先日の亀梨駅前騒ぎについて、いろいろなチャンネルが扱っているのだが、そのどれもが現場の映像をまともに扱えていない。

 正確には扱おうとしているのだが、肝心な部分になると画像ノイズが酷くなり、まともに映っている動画も写真もないのだ。

 なので、亀梨駅前事件を扱う全ての番組が目撃証言で番組を構成している。


 その番組画面を消音して二人に見せながら「これ、キミがやったんだっけ?」と問うてみた。


 明日乃はフレンチトーストにメープルシロップをたっぷりとかけながら

「わたしは警官が携帯していたアクションカムの映像を、一部削除できただけ。一般人のスマホ動画なんて細かすぎて、今のわたしには無理かなあ」


 確かに、そんなようなことを言っていた覚えがある。

 だが、二人にとって都合が良すぎるくらいには上手く映像が使えなくなっている。

 その後の現場での警察を含めた大混乱ぶりは綺麗な映像が流されてた。


「じゃ、これ、誰がやったんだ?」


 三人して顔を見合わせながら、「やっぱ……?」と言いつつ、窓の向こうに見えている夜の空より黒い宇宙艦を三人同時に小さく指さした。


「だよなぁ。明日乃に出来ないんじゃ、こんなの親父さんしかいないよなあ。てかさ、何も言わない、反応しない様にしていても、ちゃんと陰で父親してんだな」


 そんな海人の言葉に明日乃は恥ずかしそうにうつむきながらも頷く。

 姉が、またしんみりしそうになっているので、姫子は空になったメープルシロップのボトルを持つと「お代わりお願いしまーす」と能天気にオーダーした。

 既に明日乃のフレンチトーストの器はシロップでモンサンミッシェルが如くダバダバになっているのを店員が見て、困った顔しながら持ってきた。

 罪滅ぼしにフレンチトーストを二つ追加すると納得したのか「足りない場合はお声がけ下さい」とまで言ってくれた。

 お陰で海人までフレンチトーストを食べることになってしまう。


「あ、それと麻痺させる黒いキューブ。あれがちょっと使いづらいんだよ」


 麻痺キューブは一握りの大きさの黒い箱だ。

 今のところ、海人にとっては、どっちをどう向けたら、どこから何が出るのかさえ分からない危険なビックリ箱みたいなものでしかない。

 ましてや、念じれば撃てるとか既に科学じゃない。

 そういう訳が分からないものを少しでも分かりやすい仕組みにしないとどうにも扱えそうになかった。


「えーっ、どの面を向けても目標に当たるとか、握ろうが掌に置こうが撃てるし便利なんじゃない?」


「いや、自由過ぎて全然不便。あの箱さ、接着剤とか付くかな?」


「瞬間接着剤とか使えると思うけれど、どうするの? デコるの?」


 (デコるって仮にも武器をか?)

「デコるというか、扱いやすいようにしたいんだ」


 デコると聞いて姫子が「お兄、ラインストーンとかなら少しあるよ」と言ってきた。

 また、とんでもない勘違いをしている。

 だいたい、パラライザーの女子力を上げてどうするというのだ?


「どんな改造してもいいけれど、本体に少しでもいいから身体の一部が接触していないと撃てないから、そこだけ注意してね」


 確かに勝手にあらぬ方向に痺れ光線を乱発されてはたまったものではない。

 身体の一部を本体に接触させることで誰の意思で、どう撃つのかを判断しているということだろう。

 海人は、その辺の感覚的なことを自分用にフィットさせる案を持っていた。


「これは、明日からはお互いに工作の日だな」


「えーっ、つまんなーい」


 二人が作るものがあるのに姫子だけが、何もつくるものがないのが不満らしい。


「わたしもなんか作りたい! 二人だけずるい!」


 そう言われても、これは必要だからやるわけで、姫子が特別に必要なものがない以上どうしたものか。

 ふくれっ面の姫子相手に明日乃も困っていたが、ふと思いついたらしい。


「じゃあ、姫子もキューブ持つ? それで何だかよく分からないけれど星野と同じ改造すればいいんじゃない?」


「ああ、それは悪くないアイデアだ! それでどう?」


 顔が明るくなってきた。

 どうやら、お揃いのものを持つというのが嬉しいらしい。


「お兄といっしょのってこと? 作るのも一緒に作るの? 楽しみなんだけど!」

 なんとか機嫌が直った。


「じゃあ、明日乃が明日から休むのを姫子から担任に伝えてくれるかな。風邪こじらせたってことにしておけばいいだろ。で、姫子は帰りに僕とモデルガンショップに寄ってから帰宅だ」


「百円ショップにも‼」


「え……あ、ああ。わかった、百円ショップも」




 翌日、ホームルームでは予定通りに姫子が「明日乃は今週いっぱい休む」という話をして四日という時間を確保できた。


 下校する前に部室に寄って、座敷ちゃんに来週まで部室に来れないこと。代わりにお土産を持ってくる旨を伝えてから、その足でつくばエクスプレスで秋葉原に向かった。


 秋葉原は宇宙艦の先端の下になるため昼間でも照明を点灯している街となっている。

 海人も久しぶりに来たのだが、姫子にとっては初めての場所だ。

 癖のある繁華街と偏った店並びに興味津々のようだが、今日の目的は観光ではない。


 近くのモデルガンショップに直行する。

 中に入ると、数々の銃が並んでいるのを見て姫子が興奮している。


「銃って、こんなに種類あるんだ⁉ なんかいかにも男の趣味って感じする!」


 眺めているうち、黒光りした中にピンクの銃を発見し、見入り始めた。


「こんな色にしてもいいんだ⁉」


「別に機能そのものに支障があるわけじゃないからね。ただ見つかりやすくなっちゃうけれど。さて、僕らが買うのはハンドガンと呼ばれるものだよ。あっちのコーナーだね」


 女子のサバゲーマーが増えてきたとはいえ、流石に姫子ほどの見栄えの女子が、この手のショップに入ることはそうそうない。

 そろそろ客やら店員やらの目線が集まりだしたので、手早く趣旨を説明する。


「姫子、価格は気にしなくていいから、この中からグリップが自分になじむ銃を探して、実際に握らせてもらうんだ。いいなと思ったものを選ぶんだよ」


「えっ、なに? 本当に買うんだ⁉ これで戦うの?」


「これ、本物じゃなくてプラスチックの弾を撃つだけだから、これじゃ戦えないよ」


「あっ、そうなんだ? 本物かと思ってた」


 そんな気軽に実銃を扱う店があるほど日本は乱れてはいない。

 海人は、案外とすぐに決まった。

 フィット感重視でS&W M19のラバーグリップモデルにした。

 一方、姫子は実際に握ってみるとグリップが大きいものが多くて悩んでいたが、結局、

GLOCK 29SFを選んだようだ。


「で、これ、どうするの?」


「え? そりゃ切り刻むんだよ?」


「えーっ‼」


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