第二十八話 焼肉会議ののはじまり
三人は、ファミレスで本来、食べたかったクレープ……ではなく、焼き肉食い放題チェーン 焼き焼きジョーカーみいさと水崎店でひたすらに肉を食べていた。
「しかし、クレープ食いたいんじゃなかったのかよ?」という半ば呆れている海人に対して姫子がすかさず反論した。
「わたし、働いたもん! お兄だって質量はエネルギーだって知ってるでしょ。だから、質量補給はエネルギー補給なんだから、今だけは質より量なの!」
そのE=mc²と姫子が御代わり三回目の壺漬けハラミとの関係性が、ほぼ何もないことは明日乃の物質生成で証明済だ。
「そんなとんでもないエネルギー食う事をやったんだ? それは、ちと見てみたかったなあ」
残念がる海人と”やってやったぜ”的な姫子であったが
「あ、でもわたしは足止め係で処理したのは、お姉だから」と話をふると
「ちょっと! やめてよ! お肉食べてる時にさっきの話しないでよ、食欲落ちるじゃない‼」と、五回目のハラミガリバタ醤油を焼いている。
どうやら余程、酷いことをやったらしい。
焼肉屋で食欲が落ちることを想像した途端に海人の食欲の方が落ちた。
落ちたついでに冷静に状況を考えると、野次馬が撮った映像について、何もしていないことに気が付いた。
「あのさ、警察のムービーカムはともかく、野次馬たちのスマホ動画ってどうしたんだ?」
「あーそれね。あまり詳しいことは今の時点じゃ言えないけれど、たぶん大丈夫」
珍しく姫子がぼやかしたことを言った。
まあ、この女子二人が大丈夫ということなら無理に聞かなくともいい。
「じゃ、その辺りの話は置いとくとして。なんかちょっと引っ掛かるんだよな」
明日乃がモグモグしながら問いかける。
「えーっ、何が?」
「お姉がハラミガリバタ醤油ばかり食べていることじゃない?」
姫子のツッコミに明日乃も応戦する。
「あんただって壺漬けハラミばかり食べてるじゃない! 次もどうせ壺漬けハラミ頼むんでしょ!」
「違うもーん。スペシャルジョークカルビだもーん」とか言いながらタブレットで三皿注文した。
「なあ、君ら二人を襲うのに、あんな無差別攻撃をやる奴らが、なんで今回は怪獣を投入して来なかったんだ?」
「あ……」
「あれ? そうだね? あたし達を踏んづけちゃうくらいの方が早いって普通は考えそうだよね?」
「だろ? あの怪物、隠密行動出来る程の大きさじゃないし、癇癪なんだかノーコンなんだか分からないけれど君らを探すのにも目線に入る者は全部斬りみたいな進み方だし。あ、ちょっとタブレットよこしてくれ。サラダ頼むから」
「いい、わたしやっておくから。サラダ三つと上ロース六つと……なんかさ、考えてみたらわたし達をモロに襲う機会って通学時間以外ってなると、ほとんど無くない?」
言われてみるとそうだ。
自宅は明日乃の認識阻害がかかっている。
高校は座敷ちゃんの認識阻害がかかっているんで通学と外出以外は彼女達の正確な位置すら分からない可能性が高い。
しかし認識阻害とステルス技術は何がちがうのだろうか。
異星の高度なステルスだとレーダーの様な測定装置では捉えにくくして、肉眼では背景の光を何らかの方法で曲げて通すことで透明を装えるといった二重のステルス性を実行する仕組みを持つだろう。
それでも技術的には突破する方法はありそうなものだ。
「認識阻害ってやつだろ? でも、それってステルスみたいなもんじゃないのか? 外星人の技術なら突破されそうな気もするんだけど」
「ちっちっちっ、お兄。それはちょっと違うよ? あ、ジョークカルビ焼くからちょっと待ってて」
トングでジョークカルビを広げると確かにジョークみたいにデカい。
「あ、ちょっと姫子! わたしの焼くとこ侵略しないでよ! 星野、わたし達と座敷ちゃんの認識阻害は特権みたいなもんなの。基本的には、対象の空間をブレさせることで、網膜で明確には結像させない状態に落とし込むことで焦点があっていない景色として存在させるの。すると、切り捨て情報として脳が勝手に処理しちゃうのね。その場合……ちょっと! だから焼く場所を侵略しないでって言ってるでしょ!」
明日乃はジョークカルビをどかして上ロースで反撃する。
「今、食べるから! もう! あれでしょ? お兄が思ったのは、それじゃレーダーみたいな電子機器とかには映っちゃうじゃんってことでしょ? そこは、映るんだけれどモヤッとしか映らないのと電子映像でも結像しないから目標の定めようがないんだって、それわたしのカルビなのに! お姉のは上ロースでしょ!」
「ああ、なるほどねって、お前ら肉ばかりじゃなくて焼き野菜とも食えよ! 僕だけさっきからサラダと焼き野菜じゃないか! それで、ええと確か、あの怪物。みつけたとか言葉を喋ったよな? ということは、やっぱワザと外出した釣り作戦に見事に釣られたってことなんだろうけれど、それで即襲ってくるってことは?」
タブレットを離さないで、またポンポンと注文しながら明日乃は難しい顔をしている。
「それ、考え方が二つあるよね。怪獣が簡単に出来ないから、あの途中の大きさでいいからけしかけたっていうのと、なんかの問題であの大きさが限界だったっていう。あ……この上カルビと普通のカルビの差が分からないから、両方頼んじゃってもいい?」
「わたし、全然いけるからお姉、頼んじゃっていいよ? その怪獣と怪物の差って、並みのカルビから上カルビが取れないのと一緒かもしれないじゃん?」
姫子にしては気の利いた切り口だ。
確かに、それもあるかもしれない。
だが、それならば、わざわざ襲う相手にクレープ屋の前で事前接触する必要なんてあるだろうか?
「姫子の考えもいいんだけれどさ。僕の考えは、焼き野菜とカルビは業者が違うって考えなんだけれど。あ、もうダメだ! ちょい、すき焼きカルビ頼んでくれ! 二人前くらいで」
「え、それって怪獣と怪物は、作った組織が違うってこと? でも、ふたつの改造生物は壺付けカルビと並カルビくらいの技術水準の差位しか感じないけれど」
そうなのだ。
まだ、二例なので決定的なことは言えないが、どちらも地球生物での動物が基軸として作られていて、なおかつ哺乳類が適合条件という事ならば、地球上の生物の0・4パーセントしか改造適合しないことになる。
それをピンポイントで狙って研究するとなると、それを最初から分かっていたことになり、ある可能性が浮上してくる。
「状況証拠と二体の生物の差から考えると、地球生物の改造技術が漏洩しているか、技術の切り売りをしているとしか思えないな。もし、統一の組織の中でバラバラで研究していたならば、こんな短期間で目的も違う改造生物事件を無計画に立て続けには起こさないだろう。そして技術水準としては、怪獣を開発していた組織の方がかなり先行していると考えていいと思う」
姫子はジョークカルビを再び焼いて、ほおばるとこんなことを言いだした。
「そういやさ、亀梨駅でわたし達に話しかけてきた奴いたでしょ。あれ、怪獣のことについてお互いの知っている情報を交換しないかって言ってきたんだよ。それって組織が二つ以上ある証拠だよね?」
「あの逃げちゃった奴ね。それさ、怪物をコントロールする素振りもなけりゃ、怪物を知っている風でもなくて急いで逃げちゃったということは……」
「第三の組織か。それでいて怪獣の情報が欲しいってことでコンタクトしてきた。こっちが何らかの動きをしているのを把握しているということと、最初に怪獣を作っていた組織とは違う意図で怪獣の製造技術を欲しているということだな。この第三の組織って案外、怪物作るくらいのことまでは漕ぎつけている可能性あるね。それで」
そこに、すき焼きカルビが四人前運ばれてきた。
「あれ、僕、二人前って言ったのに」
明日乃が舌をだした。
「まあ、いいや。その第三組織が怪獣の情報が欲しいのは、カルビまでは何とかしたが、この普通のカルビじゃ、どうやっても壺漬けカルビの味には対抗出来ない。だから、全く同じ方法じゃなくても、こうして……」言いながら焼いたカルビを融き卵につけて食べた。
「ひと手間加える方法を探っていたんじゃないかな。あ、これ、美味いわ」
「だとすると、面倒くさいことになってきたわね。この地球生物の戦闘生物への改造情報が売り物になっていたり、リークしているんだとすると地球全体が大変なことになっちゃうし、わたし達の手には負えなくなる」
しょぼんとしかけている明日乃とは対照的に姫子は元気だ。
「お姉、そこさ、あまり心配しなくて大丈夫。わたしさ、お父さんから伝言みたいなの言われてるんだよ」
「ちよっと! あんた、何でそんな大事な事、いままで黙ってたのよ!」
「え、二人の親? どこで会ってたの?」
海人にとっては、重大関心事案だ。一方、明日乃は渋い顔。
「どこで会ってたって……いるじゃん、あそこに」
姫子が指差した先には、焼き肉レストランの窓からでも見える存在。
都内八百メートルの空中に浮かぶ、全長五キロの宇宙艦があった。
「あ、あれ⁉ あれに乗っているのか?」
驚く海人に対して、そこは明日乃が落ち着いて答えた。
「乗ってないよ」
「いや、でも、姫子が⁉」
とっちらかりそうになる海人に姫子も冷静に答える。
「落ち着きなよ、お兄。わたし、嘘はいってないよ。あそこにいるのが」
「星野が宇宙艦といっている、そのものが」
「わたし達、ふたりの父なのよ」




