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第十七話 陰謀のはじまり

 海人は、揺すられて気が付いた。


「やっと起きたね。五分前くらいに地上に降りて、今、民家の私道だよ。

場所は亀町からひとつ手前の京成線の駅付近」


 どうも、警戒が厳重で不用意に駅付近には近づけないらしい。

 とはいえ、広い範囲で小規模な繁華街もあることから付近全域カバーなど出来るはずもなく穴がないわけではなさそうだ。


「どうしよう? 先にわたしが小さなドローン呼んで調べてから移動する?」


「それ、呼ぶときに、また派手な光とか出ちゃわないならいいけれど。そこ、どうよ?」


 すると彼女は“あ──っ”て顔をした。

 次に”う──ん”って顔をした。

 最後に”てへっ”ってした。


「多少は目立つんだ?」


「うん」


「じゃあ、今日は直接行くしかないね。今度、昼間のうちに一つくらい呼んどいて」


「それはいいんだけれど……今夜、どうやって侵入しよっか。

ビルとか屋根伝いで行くのが安全で速いんだけど」


 言ってから、海人をチラ見した。さっきの状態から“無理だろなぁ”って雰囲気が伝わってくる。


「確かに、高所恐怖症だけど、さっきはいきなりだったから下とか全部見ちゃってダメになったわけで、目をつぶってさえいれば何とかなると思う」


「それ、ホントに? じゃ、試しにここでやってみる?」


「いいよ? その代わり、目開けていいって言うまで目開けないからね?」


 そこで目をつぶったまま海人が立っていると、何も起こらない。

 あれっと思って目を開けてみると、明日乃はしゃがんでる。


「えっ? あれ?」


「あれじゃないわよ、何してんの? 背中に乗りなさいよ」


 てっきり、さっきと同じお姫様抱っこなのかと思っていて、ただ立って目をつぶっていただけだったのがカッコ悪すぎる。


「お姫様抱っことなんてするわけないじゃない。さっきのはサービスなだけなんだから」


 そして小さい声で聞こえないように「わたしがされたいのに」とぽそっと言った。


 そんなことは知らず、海人は明日乃の背中に乗ると思い切り目をつぶる。


「いくよ」と一言。すぐに高速エレベーターの様な嫌な感じが襲ってきた。

 どれくらいの高さを移動しているのかは分からないが何度か上下しているのは分かる。不安になり、明日乃の細い肩をぎゅっと握った時にはデモが終わっていたようだ。


「目、開けていいよ」という声に周囲を見てみると、亀町のすぐ横を走る幹線道路に建つビルの屋上のようだ。試しに、と言いつつ直線距離で五百メーターほど移動したことになる。

 そして、恐る恐るフェンスに近づいて下の様子を見ると、ここからでもパトカー等の赤橙があちこちに点いているのがわかった。


「こりゃ、もし歩いて行ったら必ず声かけられちゃうな。やはり、上から行くしかないか」


 幸い駅前にも、それほど高い建物は無い。

 それと怪獣が出現したのは、駅前というよりは少し離れた低い建物が林立する飲み屋街のようなところのようだ。


「今のが大丈夫そうなら、出現場所になるだけ近いところまで行くけれど?」


「現場周辺はいまだ停電みたいだ。あの暗いところ辺りだな。じゃ行こうか!」


「わたしにおんぶされるだけなのに威勢がいいのね」


 明日乃の背中で上下の不快感をしばらく我慢すると、突然、ストンと下りた感じがした。


「星野、目開けて。

ここ、建物の隙間に降りたんだけれど、途中に自衛隊が張っていたのと、どこかの研究員みたいな人達がいて、例の金属のやつが見つかってて回収中だったよ。

なんか一抱え位の大きさのものだったから、あれを見つけても持って帰るのは難しかったかも」


「なるほど……で、どうして、こんな隙間に降りたんだ?」


「なんか変なの。もっと調査したり被害を直す人がいてもいいのに、この辺りだけ急に人がいなくて。誰かが何か工作している気がする」


 それは確かに変だ。

 よほど注意した方がよさそうだ。

 隙間を進んで道路に出る前にスマホを動画撮影に切り替えてカメラ部分だけ足元の高さから出してみる。撮ってから画面を見てみると、道のすぐ奥に封鎖エリアの立て札やらテープが映っている。

 人影は一見すると無いように見えるが……。


「僕を連れて、この家の屋根に跳躍してほしい」


 すると明日乃は、海人の脇の下から手を回すと、そのまま屋根の上にソフトランディングした。

 同時に押し殺した声で「あっ、しゃがんで」と言い、伏せた。


「東側の路地の前にいる。一体が何かサンプルを回収してる。もう一体は……見張りね」


 なにか人影が見えた。


「明日乃、ポーチくれる?」


 海人の肉眼だとよく見えないのでサーモグラフィーを入れ見てみる。

 すると二つのシルエットが浮かび上がった。

 しゃがんでいる方は体温二十五度辺り。

 立っている方は四十五度辺りの色味が表示されている。


「おい、あいつら!」と言おうとするのを明日乃は、人差し指でシーッとやると頷いた。

 既に分かっていたらしい。

 極端に体温が異なる二人。

 つまり、複数の種族が侵入していて、なんらかの同盟関係にあるわけか? 


「同盟なのか、それとも上下関係か」


 立ってる奴が動かない。護衛にしては姿勢や態度がラフだ。


「片方は監視役にも見えるな? しかも周囲の監視じゃなくしゃがんでる奴の監視っぽい」

 しゃがんだ方の影が立ち上がり、何かを抱え上げた。

 外気温程度のものなので、よく見えないが、手に持っているのは昨日倒された怪獣の破片の何かだろう。立っている方に近づき、それを渡す。


「なにか分からないが、渡したということは何でもいい部分じゃないってことだな。

どうする?」


 明日乃は歯を噛み締めている。

 事前打ち合わせで、地球人以外を発見した場合には気取られぬように追跡という話だった。

 目の前の二体をどうにかすること自体は明日乃にとっては造作もない。

 だが、この場にいる者が事件の指導的立場の者であるとは考えにくい。

 そして仕事が終わったのか、怪しい二体は走り出す。


「あいつらを消滅させるとかは、いつでも出来るから、ここはつけようよ」


「そうだな。まずはアジトとかを見つけてから、あいつらが拾ったものを回収して吐かせるんでもいいしな。でも、見失いそうになったり危ないと思ったら、その時は──」


 明日乃は頷くと走り出した二体を追う為、海人を背負いながら屋根伝いに彼らを追う。

 さすがに海人も二階程度なら高さに慣れたらしく目を開けてサーモグラフィーで録画しながら動きを見ている。


「もうすぐ、自衛隊や警察の封鎖に引っ掛かるはずだけれど……ああっ⁉」


 奴らは、自衛隊や警察の立っている横をそのまま進んでいった。

 警備をしていた人達は、許可をしていたのではなく気が付いていないとしか見えなかった。


「素通し⁉ いったい、どういうことだろ? あいつらも認識阻害ってやつなのか?」


「いえ、そんな上等な方法じゃないわね。そういう付近の影響を全然感じないもの。あれは暗示に近いものだと思う」


 どうであれ、地球人には面倒な相手だ。しかも人気のない裏路地を選び、一度も立ち止まらない。

 プロっぽい動きだ。


 やがて、雑居ビルが密集する一角の四階建ての古びたビルで足が止まった。

 看板のテナントのアクリルは全て抜け落ちている。

 周囲に注意しながら入って行く二体を二件おいたビルから見ていた。

 さすがにここからでは中の様子が分からない。

 だが、明日乃にはある程度分かるようだ。

 どうやら、みいさと高校の新校舎の補修の時に使った空間履歴というやつなのだろう。


「今は、中に四体。でも、そんなことより、この廃ビルの中で生物の改造をしていたみたい」


 それはかなり重大な話だ。

 つまり、怪獣の元になっているのは、外部からの持ち込みではなくて、地球生物の改造ということになる。


「えっ、それって地球の生物を改造ということかい⁉ かなりヤバい話じゃないか⁉」


 その後も、しばらく明日乃は廃ビルをみていたが、やはり細かいことは分からないようだ。


「星野、これ、あとは踏み込まないと細かいとこは分からない。

それと申し訳ないけれど、やる以上、わたし細かいこと苦手だから相手の全員生け捕りとか装置の無傷回収とか難しいけど、どうする?」


 かなりヘヴィな選択である。

 まず、何もしないと今後、想像を絶することが起こるだろう。

 しかし、ここで明日乃に頼むということは、相手が地球人ではないにしろ彼女に殺人をしてもかまわないと言うのと同じだ。

 自分一人の判断でそんな決断が許されるのだろうか?


「明日乃、それって相手を殺すという意味なのか?」


 明日乃は言葉を考えているようで、なかなか返事をしなかった。


「星野の言うことは分かるけど……反撃とかってなると気絶じゃ済まない……

あ、気絶ねぇ? うーんと……ねえ、今だけ物質生成使ってもいいかな? 

作りたいものがあるんだけど」


 どうやら何か思いついたようで、それなりに自信もあるようだ。


「なんかデカいものかい?」


「ううん、小さいもの。

前に作ったことがあるから大丈夫だと思うけど、相手を麻痺させる箱みたいな武器。

それがあれば、まあ倒してから一部記憶消去で放逐しちゃえばいいじゃない?」


 SFでいう処のいわゆるパラライザーというやつだろうか。

 確かにそんなものがあれば破壊的な力技までは使わないで済むのだろう。


「それが良さそうだ。でも、物質生成も少しは光が漏れるだろうから、離れた建物の陰で作らないと。僕が、ここであいつらを見張っているから作って来なよ」


 自分の案でいくことになり、明日乃は、ちょっと作ってくると言って裏のビルの陰に飛んでいった。

 一分ほど溶接光のようなものが見えたあと、戻ってくると手のひら大の黒いキューブを持ってきた。


「出来たよ。これは射程距離が十メートルしかないけど、こんなビルの中で使うなら問題ないじゃない?」


「これ、本当にただの黒い積み木くらいにしか見えないな。これが武器なんだ? それで、これを持って君が突入するのかい? 大丈夫なのか?」


 空飛ぶ女子高生が黒い箱を持って廃ビルに入っていく絵柄しか浮かばなくて不安しか想起しないが、当の本人はケロッとしていた。


「わたしじゃなくて、向こうを心配した方がいいよ? 

歯向かって殴りかかってきたら、わたしも殴っちゃうかも。

咄嗟で加減出来なかったら殴ったとこ無くなっちゃうから」


 いったい、日常ではどれだけセーブして生活しているのか想像もつかない話である。


「頼むから、その箱の攻撃だけにしておいてくれないか」


「わかってるから、これ作ってきたんでしょ。

それじゃ、さっさと済ませてくるね。問題なくなったら戻るから、一緒に調査しよ?」


 そう言って金髪の空飛ぶ女子高生が黒い小さな箱を持って廃ビルに入っていった。

 そこまでは、さっきの想像と同じだったが、そこからが大きく違った。


 最初は “なんだてめぇは” やら “この野郎”なんて声が聞こえていたが、それが一瞬、静かになった。


 いきなりズドーンという大きな衝撃、閃光と爆発音がすると同時にコンクリートの噴煙が立ち上る。

 数秒たつと半分くらいのコンクリートが吹き飛んで鉄骨まで見えている。

 先ほどまでのポロいビルは半壊していた。


 明日乃が危機を感じてやってしまったのだろうか? 

 周りのビルや家屋にも幾何かの被害がでたようで、すぐに住民が数人外に出てきた。


 明日乃が焦って戻ってきた。

 かなり悔しそうに握りこぶしをしている。


「あいつら、逃げられないから自爆した‼ 

三体と施設を犠牲にして! 一体逃げたかもしれない! 

まさか、そんなことまでするとは思わなかった」


(僕の判断が……彼女を危険に晒した!)

 海人は、自分の読みと余計な方法を明日乃に強要してしまったことを後悔した。


 最初から彼女に全て任せてしまえば、もしかしたら助かった奴もいたかもしれない。

 それが、麻痺による各個対処をさせてしまった為に、相手に自爆の余裕を与えてしまい、尚且つ現場指揮官であろうものまで逃がす羽目になってしまった。


「僕こそ済まない。これは僕が悪い……」


「そんなこといいから、住民や警察が集まる前にパッと行って調べちゃおう?」


 確かに、うじうじしている暇はない。ここからはスピード勝負だ。


「そうだね。反省会は帰ってからにしよう。じゃあ悪いんだけれど、あのビルの瓦礫までひとっ跳びお願いするよ」


 明日乃につかまり、瓦礫を辛うじて免れた崩落寸前のビル側に入ってみる。


 中は殆どが吹き飛び荒れ果てていた。

 一階のフロアは天井が半分吹き飛び、コンクリートの粉塵が舞っている。奥の部屋に入ると、金属製の作業台のようなものがひしゃげて倒れていた。

 周囲にはガラスと中に入っていたのだろう、いろいろな生物のサンプルが液体と共に散らばっている。

 酷い惨状としか言いようがない。

 それらをサーモグラフィーのカメラに収めていく。

 明日乃が何か気になったのか裏口付近の瓦礫をどけて排水溝の蓋を外している。


「星野、こっちに来て。これ、見て」


 中には大量の配線が這わされていた。

 盗電なのか、それとも別の用途があるのかまでは分からない。

 サーモグラフィ―の画像でも、熱を表示していて、つい先ほどまで使われていたことが分かる。

 その熱を追っても最終的には倒れていた作業台付近に繋がっていたようで、それ以外に熱源としてハッキリと分かる部分は、爆発させたであろう部分しか分からなかった。

 ただし、爆発させるということは、そこに重要なものがあったということにもなる。


「明日乃、あっちの破壊具合が酷いところだけ見てから、ここを急いで離れよう。これ以上だと僕らが見つかる」


「そうね。それじゃ、ちょっとだけ掘り起こしてみよっか」


 そう言いながら鉄筋コンクリートの壁を片手で軽く起こすと、その下に幾つか金属のブローチの様なものが転がっている。

 見たことのない模様なのか文字なのかが彫られており、全部、潰れていたり欠けて中身が見えてしまっている。だが、その方が都合がいい。

 外側が欠けているものを二つばかり海人は選ぶとポケットに入れた。


「限界だな。よし、もう行こう」


 明日乃は後ろから海人を抱きかかえると、そのままビルの裏の暗闇に乗じて跳び去って行った。  


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