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第十三話 本音のはじまり

 いきなり自分の家に来いと言われて明日乃も流石に戸惑った。

 どんな能力を持っていても中身はほぼ女子高生である。


「それって、どういう……! もしかして弱み握ったから、変なことするの⁉」


 また、あさっての方向からの勝手な解釈に慌てて否定する。


「なぁんでだよ! 違うよっ‼ 何ていうか、その、僕も自分がどんな人間かを君に見せないとフェアじゃないというか、同じ目線に立てないじゃないか」


 そして本当に明日乃に目線を合わせないで天井に向かって話をしている。


「なんか、君の弱みを握っている様で嫌なんだよ。それって卑怯だと思ったからさ」


 ふと明日乃を見ると、うるうるしながらちょっとづつ近寄ってきた。

 そして海人の手を取ると一言。


「いく」

 横で座敷わらしが手を口に添えてクスクス笑っている。


「あー、もう! こっ恥ずかしいなあ! 行くなら早く行こう!」


 照れ隠しで明日乃の手をギュッと握り返すと、そのまま彼女を引っ張って退室した。

 明日乃が「座敷ちゃん、また明日」と手を振ると座敷わらしも手を振って返す。


 廊下に出ると真っ暗なはずの校内が床面だけがぼーっと淡く光っている。

 座敷ちゃんが気を使ってくれたのだろう。

 良くできた子である。

 海人には暗くて廊下以外見えていないが、黙って手を引かれている明日乃の顏は、それはそれはもう幸せそうであった。


「なんだ、外の方が明るいじゃないか」


 校舎から出ると、月が真上にまで上がっていて影が見えるくらいには明るかった。

 そして相変わらず、ヘリやら消防その他の音で騒がしい。


 正面の校門は閉まっているので裏の職員専用門から出ると手を繋いだままだったことに気づいて手を離そうと緩める。

 すると明日乃から握り返してきた。


「離さなくていい……」


 顔をまともに見ようとしない。

 そのまま黙って歩いているのも気まずいので何か話そうとするが、今日だけでも海人にとっては大事件の連続で、何の話からしたらいいのかすら迷うほどだ。

 そこで、全然関係ない話でもしようと考えた。


「このまま僕んちに行ってもいいけれど、さすがにお腹すいたんで、なんか食べてかない?」


 普通の話を振ったのが功を奏して晩飯の話に彼女ものっかってきた。

「うん、お腹空いた。駅前の方なら亀町から距離があるから被害出てないかも。ファミレスやっていればいいなぁ」


 かなり遠回りなんで二十分以上歩いたのだが、二人で話すアレを食べたい、コレが美味しかったという話題だけでも何だか楽しく、あっという間にファミレスに着いてしまった。


 着いたファミレスは、いつもなら混雑して待ち時間必至なはずなのだが、今日はスカスカ。

 どうやら、怪獣事件のあおりを食らった結果らしい。

 大方の人達は、家でテレビのニュースに釘付けか、今日は怖いから外に出ないと決め込んでいるのだろう。

 まあ、そりゃそうだ。


 案内された席に明日乃を先に座らせてから向かい合って座る二人の姿は、どこからどう見ても高校生カップルである。


「奢るから好きなの食べていいよ。それにしても……」


 数少ないとはいえ、店内にいる客の目線が明日乃に向いているのがわかる。

 三枚目を自認する海人としては、自分が彼女と見かけの差がつきすぎていることは痛いほど分かっている。


「ま、似合いの組み合わせとは言えないよな」と、ぽそっと小声で言ったのを明日乃は聞き逃さなかった。


 見ていたメニューをパタンと閉じると、いきなり立ち上がった。


「わたし! 星野の隣がいい!」

 心臓が一発、強く鼓動した。

 そんな、四人席を二人だけで並んで食ってる奴なんて、ほとんど見たことが無い。


「あ、明日乃⁉ い、一応さ、ファミレスなんだから、このまま対面でさ……ね?」


「なんで?」


「いや、何でって……お願いだから、今だけ僕の言うこと聞いてくれ」


 もともと社会適合性があまり高くない海人にとって、これはかなりキツいハードルだ。


 明日乃は、ふくれっつらしつつ、その場に座り直すと、即座にメニューを開いてハンバーグのところを指さした。


「これ、食べたいな。ふたつ頼んでいい?」


「ぜんぜんいいよ?」


「じゃあ、包み焼きハンバーグと三種のチーズ入りハンバーグをライスセットで。あと、プリンアラモードとパンケーキセット。それとドリンクバー」


 随分と盛大に頼むとは思いつつ、自分はアボカド載せハンバーグとミニチョコパにしようとボタンを押すと、店長という名札をつけた男性がやってきた。

 ここ、やっていて良かったと言ってみると、今日は調理場以外の従業員やアルバイトには帰っていいと言っておいたそうだ。従業員想いの優しい店長である。


 ドリンクバーからオレンジジュースを持ってきて飲み始めた明日乃に小声で聞いてみた。


「やっぱり、特別な能力ってお腹減るの?」

 彼女は一瞬きょとんとして、それから盛大にむせた。


「ゲッホゴホッ——な、なんでそうなるのよ?」


「いや、だって壁作っちゃうとか、明らかにエネルギー食うでしょ」


 いっぱい頼んだから、という理由だと察した彼女は顔を赤くして反論した。


「ハンバーグ二個程度で壁が直るわけないでしょ‼」


「そっか。確かにそうだよな。ごめん」


「まったく、失礼しちゃう‼ ハンバーグとの質量比みたらアンタなら分かるでしょ! そういうとこデリカシーないよねっ!」


「そういうもんか?」


「そういうもん!」


 ここで、ついに海人は気がつく。


「なるほどなぁ。この辺の気使いの仕方でモテる男と僕との差がつくよねぇ」


 そこにはモテない歴十八年自認の男の重みがあった。

 そして、明らかに間違った認識でもあった。

 そのセリフを軽く明日乃は足蹴にする。


「へえぇ、モテる必要あるんだぁ?」


 ふふんと笑う明日乃に対して

「いや、もう必要なくなったよ」と、これまた軽く流す海人。


「……なによ、それ……」


――お料理を運んできたにゃん――と言いながら、最近普及してきた配膳ネコロボットがベストタイミングで割って入ってきた。

 熱い鉄板に肉汁がジュウジュウいって美味しそうだ。


 食べ始めると、彼女は包み焼きを開けて、立ち上る旨味の蒸気に目を輝かせ、三種のチーズハンバーグを食べると複雑な味わいに目を細める。

 あまりに美味しそうに食べているので、海人は自分のアボカド載せハンバーグを三分の一ほど切ってから明日乃の鉄板に勝手に載せてやった。


「星野ってさ、そういうとこ気が利くよね。あっ、このアボカド載せもヤバいじゃん!」


「うん、美味いよな。でも気が利くって、こんなの普通じゃないの?」


「世間で普通かどうか知らないけれど、わたしは嬉しいな」


 ハンバーグを全部食べ終えて、パンケーキとプリンアラモードを食べる頃には

「ハンバーグだけじゃ無理だけれど、デザートも含むなら壁くらい直せる」と言い出した。


 案外、チョロかった……。



 笑いながら食事を済ませ外に出ると、家に向かうにつれ亀町が停電していることもあり、いつもよりも夜空が綺麗だ。


「昔あった大地震の時もそうなんだけれど、こういう時じゃないと夜空が綺麗に見えないのは、ある種の皮肉だよなあ。だからといって怪獣に感謝はしないけれど」


「ね、こう考えたらどう? 都会の夜空で星があまり見えないのも地球らしくていいって」


 なるほど。それは思いつかなかった。


「逆転の発想か。うん、たしかに東京近郊の空も悪くないな。君、天才なんじゃない?」


「いやぁ、そこはちょっとした経験の差みたいな?」



 話をしているうちに、海人の家についた。


「大きい家だね。ここで一人暮らしなんだ?」


「そうじゃなかったんだけれどね、そうなっちゃった」


 鍵をあけて玄関に入るとシューズボックスの上には百四十四分の一のヴォストークロケットの模型があったりと生活感と趣味が混ざった独特な雰囲気がしている。


「なんか、いい匂いする。あと別な意味での香ばしい匂いも」


「ハッキリいって消臭なんとかのおかげです」


「褒めたのに台無しじゃん」


「ま、とにかく上がって」


 玄関から続く廊下のSF映画のポスターを眺めながら右のドアを開けるとリビングダイニングで広めの部屋に大きなソファが一つ。

 その前には大型のテレビモニターがあり、その左右全てが天井付近までDVDの棚になっている。

 タイトルをみると殆どがSF映画と宇宙開発に関係する作品だ。


「すっごーい! これ全部観たの?」


「いやぁ、観れたのは七割がたってところかな。いつか観ようと買ってはみたものの、古典作品とかはなかなかねぇ。後回しにしちゃってて」


「ね、そのうちでいいから観ようよ」


「ああ、全然いいよ。でも今日、来てもらったのは、これをみて欲しいからじゃないんだ。見せたいものは全部二階なんだよ」


「ということは、二階が星野海人の真実ってことなのかな」


 そういって彼女は笑った。

 楽しみすぎて早く案内しろオーラが漏れている。


「四部屋あるんだけれど、右側三部屋が僕の趣味の部屋だよ。テーマ別になっているから順に案内するね。じゃ、ついてきて」


 玄関横の階段を上がってすぐ右の部屋が最初の部屋である。


「ここは、書庫兼物書き部屋って感じかな」


 ドアを開けると本棚がぎっしりで、身体をやや横にしないと奥に行けない。

 本棚同士は地震で倒れないように、上の部分が互いに鋼材で結合されている。

 並んでいる本は、殆どが何らかの意味で宇宙に関係しているもので、ロケット工学のものが多めだ。 

 他のジャンルは兵器に関するもの、磁気に関するもの、自動車工学など全般として工学関係がやや多めである。


 その中でひとつの本棚だけはUFOや都市伝説、それと漫画だった。

 その本棚を抜けた先にはパソコンデスクにモニターが三画面。

 それと何故かシンセサイザーとローランドのVT4が置いてある。


「あー、なんかここが星野の見識の原点なんだね。一部屋目だけでも、まるで脳の情報割合をみている位に分かりやすいよ。音楽もやるんだ? あとエッチな本が見当たらない」


 そう言ってケラケラ笑っていたが、急に気になったのか磁気記録についてのジャンルのところにいった。


「ねぇ、これなんで磁気記録なんて古い記録方法の本がこんなにあるの?」


「あー、それはね。二番目の部屋に関係があるからだよ」


「隣の部屋に? そっちにはエッチな本も⁉」


「ねぇよ! 見れば意味がわかるよ。あとエッチな本は二階にはないよ!」


「じゃあ、それは後にして、隣を見せてもらおうかなぁ」


 最初の部屋を出て、すぐ隣の部屋のドアを開けると、明日乃は目をパチクリした。

「えっ、これ、どういうこと?」


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