鉄壁(ただし当たらない)の騎士と、枯渇した聖女
クエスト:草原のワイルドボア退治
ノアールが期待を込めて、新メンバー・アイリスの初陣を見守っていた。
ノアール:「アイリスさん! あなたの重装甲でボアを止めて! カイトは……とりあえず後ろで寝てていいわよ、死なないように!」
アイリス:「任せておけ! 騎士の誇りにかけて、一歩も退かん!」
アイリスが盾を構え、突進してくる巨大イノシシ(ボア)を正面から受け止める。
ドォォォン!!
凄まじい衝撃。しかしアイリスは微動だにしない。
ノアール:「すごい! 本当に止めたわ! さあ、そのまま剣で仕留めて!」
アイリス:「ふんっ!……あ、あれ? どっちだ? 敵は右か? 左か?」
アイリスは極度の方向音痴ゆえ、「密着している敵の位置」すら見失った。 彼女が振り下ろした剣は、ボアの鼻先数センチを空振りし、地面を豪快に叩き割る。
ボア:「(今がチャンス!)ブモォォォ!!」
アイリスの隙を突き、ボアがノアールへ狙いを変える。
カイト:「危ないノアール! 俺が守る!」
カイトがノアールの前に飛び出した。しかし、気合を入れすぎて足がもつれ、またしても盛大にスライディング。
その頭がボアの急所(股間)にダイレクトヒット!
ボア:「ブモォッ!?(白目)」
悶絶して泡を吹いて倒れ伏すボア。……しかし、衝突の衝撃はカイトの首にも牙をむいた。
カイト:「(グキッ)……あ、今、魂が口から……」
ノアール:「カイトーーー!! ボアの股間と引き換えに命を散らすなーーーっ!!」
三途の川
カロン:「……死因、『猪の急所への頭突きによる頸椎捻挫』。カイト様、ついに生物学的な弱点を突くために命を捨てる域に達しましたか」
カイト:「……いや、不可抗力なんだ。でも、ボア倒せてよかった……。あ、スタンプお願いします」
カロン:「はい、9個目。……リーチですね。次、くしゃみ一つでもしたら『プリン』ですよ」
「ノアール様が変な呪文唱えだしてます、早く帰ってくださいね」。
「……はぁ。聖なる光よ、とか言うのも疲れたわ」
ノアールが虚空を見つめ、ゴミを見るような目で転がっているカイトの遺体(?)を見下ろす。
彼女が聖杖を構えると、通常なら神聖なコーラスが聞こえるはずが、今日は地を這うような低い声が響いた。
ノアール:「(蘇生呪文・第1変異)」
『――天にまします神様も二度見するほどのアホ、カイト。三途の川の水を飲み干す前に、さっさと戻って私の説教を受けなさい。……【二度とイノシシの股間に頭を突っ込むなレザレクション】!!』
ドォォォォン!!(黒ずんだ聖なる光)
カイト:「(ガバッ!)……ぷはっ! ……あ、ノアール。ただいま。……って、今なんか耳元で『股間』って聞こえた気が……」
ノアール:「(無視してアイリスへ)はい次、指挟んだ騎士様。……『鋼鉄の鎧を着ておきながら、自分の関節に負ける軟弱者に癒やしを。……【いいからさっさと手を抜きなさいヒール】!!』」
ピカッ!(投げやりな回復魔法)
アイリス:「……おぉ、抜けた。……が、ノアール殿。今の呪文、騎士団で習ったものとだいぶ節回しが違うような……」
ノアール:「うるさいわよ! MPだけじゃなくて語彙力まで削らせないで! 帰るわよ! ギルドで『私を助けてくれる人』を探すの。この『自爆装置』と『置物』だけじゃ、私の胃が消滅するわ!」
冒険者ギルド・掲示板
ノアールは無言で、掲示板に新しい紙を叩きつけた。あまりの勢いに、隣の「行方不明の猫探し」の依頼が風で飛んでいく。
【緊急追加募集:高火力魔導士(一撃で終わらせられる方)】
現状: 前衛が「自爆装置」と「置物」しかいません。
求む: 私が蘇生呪文を唱える前に、敵を消滅させてくれる慈悲深い方。
特記事項: 精神的にタフな方(目の前で仲間が死んでも動じない方)。
カイト:「……ノアール、あの『自爆装置』って俺のことかな?」
アイリス:「……となると、『置物』は私だろうか。……誇り高い騎士のはずなのだが、なぜか否定できない」
そこへ、大きなとんがり帽子を深く被った小柄な少女が、おどおどしながら近づいてきた。
ルナ:「……あの、募集を見ました。私、魔法の威力だけは……街一つ消せるくらいには自信があるんです。……でも、すごく緊張しやすくて……」
ノアール:「(食い気味に)採用!! 街ごと消していいわ! とにかく目の前の敵を先に殺して!!」
カイト:「よろしくな、ルナちゃん! 俺はカイト、こっちはアイリス。仲良くしようぜ!」
カイトが爽やかに笑い、ルナの緊張をほぐそうと肩を叩こうとした、その瞬間――。
カイトの足元に、誰かがこぼした「ポーションの空き瓶」が転がってきた。
カイト:「おわっ!?」
盛大に滑ったカイトの手が、ルナが構えていた巨大な杖の「緊急射出トリガー」にジャストフィット。
ルナ:「あ、そこ……最大出力の……」
ドドドドドォォォォン!!
至近距離で放たれた極大魔術『エクスプロージョン』。
ギルドの天井に巨大な風穴が開き、カイト(と、巻き添えを食ったルナ自身)が眩い光の尾を引いて空の彼方へ消えていった。
三途の川
カロン:「(ファンファーレを口ずさみながら)パパパパーン。おめでとうございます、カイト様。通算10回目の死亡、並びにルナ様との心中達成です」
カイト:「……空って、あんなに高かったんだな……」
ルナ:「……す、すみませんカイト様……私、つい反射的に最大火力を……」
カロンが金色の巨大なスタンプを持ち出し、カイトのカードに全力で捺す。
カロン:「はい、スタンプ満了! 特典の『現世の最高級プリン』です。……あ、ノアール様が今、地面に杖を突き立てて地獄の底から響くような声で呪文を唱え始めましたよ」
ノアール:(ギルドの瓦礫の中で、白目を剥きながら杖を振り回す)
『――天を翔けるアホと、新入りの爆弾娘に鉄槌を。プリンが腐る前に戻ってきて、地獄の反省会を始めなさい。……【いい加減にしろよこの天井修理費バカイトォォォ・レザレクション】!!!』
ドゴォォォォォン!!(もはや爆発に近い蘇生光線)
カイト&ルナ:「(ガバッ!)……ただいま戻りました!!」
ノアール:「(暗黒の微笑み)……さあ、この地獄の旅、本格的にスタートよ……」




