その先へ
僚艦が到着する数日前。
軽巡航艦【夕張】の4人は僚艦からクルーを引き抜くべく、帝国軍の艦隊乗員に対する評価表の提出を受けていた。評価者は2名居て、各艦艦長からの評価とサポートロボを通しての異星人側の評価だ。その評価結果は誰が見てもおかしいと感じるもので、特に真琴の怒りは頂点に達していた。
「おかしいです! ふざけてます! 不公平です! 抗議しましょう!!」
「勝己さんからも上申して欲しいです!」
「彼女たちを助けてください!」
彼女たちの怒りは理解できるし、僕にも思うところはある。今回出航した12の艦には総勢で424名が乗艦していて、この9%の38名が女性だった。適合者は1000人ほどで、このうち女性は19%の194名だったそうだから、各艦長がスカウトした人材が男性に偏っていると言われても仕方ないだろう。
ましてや各艦長の評価を見ると女性の評価は軒並み低く、サポート業務しかやらせてもらえずに最低評価を与えられた者さえ居るのだ。当然、帝国側の評価は未知数となっている。評価のしようが無かった事が伺える。
研修成績は良かったから乗艦リストに載ったはずで、この仕打ちは彼女たちにとっても帝国にとっても不幸なことだ。
「君らを抜いた35名の内、僕らとはやって行けない者は何名になる?」
「それ以外を全部引き受けるつもりですか?」
「僕らに僚艦が有っても良いよねって思ってさ。駆逐艦を1隻譲ってもらって真琴がそちらで艦長をしても良いだろうし、適性がある娘が居れば任せても良いだろう」
「……少し、時間をください」
真琴、亜紀良、美咲に帝国側からメシャヴァイ大尉が加わって、女性陣の再評価と奪う艦種の選定に入った。僕はその間に基地司令から1隻追加で任せてもらえる許可を取り付けた。
調査結果から5名は難しい(どうやらサボり癖や協調性の無さがある)となり、こちらの独立艦隊に30名移す事に成った。勿論、改造案は僕も入って話し合い、必要ユニットは【夕張】と仕様を合わせて用意してもらう事となった。
軽巡航艦【夕張】は真琴が砲術士兼副長のまま乗艦し、操縦士として甲賀由美と三船裕子の2名が、砲術士として西園寺佳代が、レーダーサポートとして相田清香が新たに乗艦する事になった。甲賀は成績上位だが、その他の3名は30名の中で下位の者だ。こちらの艦で鍛えることで、【雪風】の負担を下げる狙いがある。
駆逐艦【雪風】の艦長と副長は、航海士課程で上位に入り怒級戦艦で航海士をしていた雪代千尋と遠藤美紀に託した。雪代は艦長課程も取っていたので任せられるだろう。これで、操縦士2名、砲術士16名、レーダー2名、機関士2名となった。また、【雪風】には小型の連絡艇が搭載されていたので、そちらのパイロット枠を2名作ってある。全ての者が学んできた分野とはいかないため、あくまでスカウトの形を取った。もっとも全ての者が真琴たちとは顔見知りのため、おそらく全員が受諾するだろうとの話だった。ダメならその分砲術士を減らせばよいだろう。
問題は声を掛けなかった5名からの苦情が上がるだろう事だったが、こちらは帝国側で対処してくれるそうなのでお任せした。
後続組の艦艇は、駆逐艦【雪風】以外は軽整備完了を待って月へと戻る。そこで【雪風】の乗員と女性陣に対してのみ、荷を全て持って降りるように通達がなされた。不審に思われない為、女性陣には補習の必要ありと追記してである。
乗員は全て健康状態の確認がなされるが、今回は男性陣が終了して退出してから女性陣の番にするよう後藤艦長から依頼があって実行されている。
スカウトする女性陣30名へは健康診断後に別室へ移動するよう指示がなされた。そこには【夕張】のクルー4名と基地司令が居り、基地司令から艦内で不当な扱いが確認されたことに対しての謝罪が行われた。
基地司令が退室した後、後藤から軽巡【夕張】はテスト航海で先へ進めること、その際に駆逐艦を1隻伴って先へ進む許可を得た事の話があり、美咲から随行する駆逐艦への搭乗スカウトの話がなされた。
「月基地や配属で分かったと思うけど、このまま戻ったら先は無いと思う。勿論、地上に戻って自衛官としての職務を全うすることは出来るかもしれない。だけどココまで来たのだから、皆には今回の配置転換を受け入れて欲しいと思うの。そして、私たちと先に進んで欲しいと思っている」
「みんなも知っている通り、後藤艦長は民間から唯一選ばれた人です。でもその能力は帝国軍からも認められ、帝国の市民権を得るに至っています。そして今回のスカウトも彼の発案です」
「艦長は少々背負い過ぎるところがあります。私たちは今回の航海で支えていこうと思えて、彼に支えていく決意を伝えました。できれば皆さんにも艦長を支えてもらいたいと思っています」
亜紀良と美咲からのフォローも入り、その場で全員が配置転換を了承した。即答だったので、よほど腹に据えかねる状態だったのだろう。月に帰る他の乗員に会わないようにと、彼女たちの部屋は離れたブロックに設けられ、出向までの間は缶詰め状態で専門課程の講習を受けてもらう事に成った。それでも僕が受けた月での対応よりは随分と良心的だったが。
地球に戻る者たちは途方に暮れていた。
第一陣に選ばれたエリートなのだと大見え切ってココまで来たにも関わらず、一般出に負けて戻るなど受け入れがたかったからだ。更に、1隻帝国軍に接収されたと勘違いした。実際には、その多くが帝国の技術で作られた艦艇は、建造時から帝国軍の物として扱われている。日本人が使い易いようにと、日本人の意見を入れて特注で作られただけなのだ。現に乗艦に際しては帝国軍の階級を与えられている。
駆逐艦【雪風】の乗員をどの様に振り分けるかと話し合っている中、各艦長当てに帝国から通達が入る。内容は添付リストにある30名の乗員を、当基地に残して行けとの指示だった。
「基地司令に会って来る」
神崎は指令にアポを取ろうとするが、帝国側はこれを拒否。
『君らがココまでの航行中、彼女たちを評価できない様な扱いをしたせいだ。こちらで追加の課題を与えなくては行かなくなった責任も追及するか?』と言われてしまえば強くも出られず、引き下がるしかなかった。
そして慌ただしく出港準備が進められ、出航に際して基地司令からメッセージが全員へ届く。
『帝国では性別による優劣は行わない。その様な行為は蛮族と変わらず、帝国人として宇宙に来る資格を有さない。君らにはまだ早かったと言わざるを得ない。次があったとして、後続の者がこのような蛮行を繰り返さない事を切に願う』
先に進むべく改修の終わった2隻。
軽巡航艦【夕張】と駆逐艦【雪風】の両艦船は、メンバーを入れ替えても違和感が無いよう基本ユニットを共有化していて、火器類に違いを持たせる事で軽巡洋艦と駆逐艦としての機能を充たした。
居住区は食堂等の共用スペースを中心に前後方向へ個室を並べ、両端に操縦室を持たせた。艦首側を主操縦室、艦尾側を副操縦室としていた。片方に被害が出ても補完できるようにだ。
エネルギー変換炉は2系統のままとし、主機は3基で戦闘加速用の補機を3基搭載したことで質量が小さい事もあって、基地に配備されていた戦闘艦艇以上の加速力を持つに至った。また、両艦船共に超跳躍機構を追加装備したことで、移動距離が大幅に伸びている。
ショートジャンプが恒星系内の移動を目的としているのと違い、ロングジャンプは他の銀河に移動するために用いられる。当然ながら瞬時にとはいかないが、数日から数週間で隣の銀河へと移動できるそうだ。
軽巡航艦である【夕張】の火器は主砲を2連砲塔から3連砲塔へ変更していて、巡航艦クラスの平均火力に到達したそうだ。そしてカラーリングが変更された。軍艦に多いグレー系のカラーリングから深紅に白のラインを数か所入れられた。次の任務用の偽装との話だったが、出来上がってから知らされたので文句も言えない。
駆逐艦である【雪風】は、主砲が40口径の連装砲塔が2基4門。副砲として単装電磁砲塔を6門搭載した。電磁砲はレールガンと言われる物質兵器で、ミサイルほど融通は利かないがより多くの弾を積んでおけるのが利点だ。ミサイルよりも初速が速く、使い勝手が良い。【夕張】と人の行き来をする為、【雪風】には20人乗りの連絡艇が2機搭載されている。戦闘能力は無いが、宇宙ステーションによっては移動手段として必要に迫られる場合もあると聞くので、格納デッキを拡張して2機搭載してもらった。
改修が完了してすぐ、基地周辺域での慣熟航行を行った。
【夕張】の操縦は新規の二人に任せるので指示通りに飛ばす訓練となる。砲術士は火器類の展開と収納を繰り返しつつ、ターゲットポイントへ照準を合わせる練習を兼ねた。
【雪風】には僕も乗り込んで艦長以下に指示出しをした。こちらも操縦や照準合わせの訓練を繰り返させる。もっとも砲塔類の格納機能は持っていないので工程は少ない。半分以上の者が砲術課程を取り始めたばかりだが、システムサポートを最大限有効にしているので、シューティングゲーム並みに楽にはなっていると聞いていた。実際操作してみたが、【夕張】同様にオートターゲットで目標選択と発射タイミングをコチラで行う感じだ。
初期不具合がいくつか見つかったが、そこは即座に修理や調整を行ってもらえたので目立った問題はない。最大の問題は経験値の不足だろう。勿論僕も含めてだ。
その経験値アップのため、対艦戦闘の任務を与えられた。
「場違いな色だと思うんだが、これで民間クルーザーに見えるんだろうか」
「メシャヴァイ大尉の指示だから、見えるんじゃない?」
「砲塔を出してなければ、金持ちの船に見えるのかな?」
「そもそも、レーダーには船体の色なんて映らないだろ。識別信号を出していれば、軍艦だってバレると思うんだが」
「囮用の識別信号も出せるようになったそうですよ」
次の任務は、いて椀にミドルジャンプして海賊狩りだ。金持ちのクルーザーと護衛艦のフリをしながらステーションを回り、餌に食いついた宇宙海賊を釣って沈めてこいとの内容だった。ならず者という輩は何処にでもいるようだ。
「まとまった金が入ったから、次の経由地では少し豪華な食事でもしようか」
「4人で、ですか?」
「せっかくだから全員で親睦会を兼ねてって感じかな。チョット贅沢な美味しいものでも食べて親睦を深めようかと思ってさ。まぁ、撒き餌みたいな意味合いもあるけど」
「大きいのがかからない程度でお願いしますね」
「そうだね。何事も程々が良い」
そうして少し大型化した(それでも在りえないほど小型だが)2隻は、基地を出港して目的地への最初のジャンプポイントに舵を取った。




