それぞれの向かう先
ローテーブルに2人用ソファーが2脚あるので、亜紀良に飲み物を用意してもらって座る事にする。僕の隣に真琴が、真琴の正面に美咲が座り、僕の正面に亜紀良が座ったところで真琴が口を開いた。
「勝己さんは、帝国民となったわけですが、帝国の法律を知っていますか?」
「最初の辞令に『任務の遂行状況によっては帝国軍の少尉に』と有ったので、犯罪に当たる行為についてはある程度調べたよ」
「では率直に伺います。帝国には重婚を罰する法が有りませんが、勝巳さんは複数の女性を娶る気はありますか?」
「真面目な話をするんじゃなかったのか?」
「一番大事な話です。私達3人とも、勝巳さんに娶ってもらえたらと思っているのですが」
「それは本心で? いつから?」
「最初っからかな。本当だったら真琴さんは駆逐艦の艦長だった。そこに割り込む形で勝己さんが上位に入った。それだけでも期待値が高かったの」
「ですから、乗艦した日に3人で話し合ったんです。もちろん日本では重婚はダメですから、公平に愛してもらえるならソレでも良いかなって」
「私は期待していました。勝己さんが帝国の市民権を得ることを。だから信頼を得られるよう、全て話しましたし全力で任に当たりました。そして、航海の終わりには得られることを確信していて、受け入れてもらえるなら3人一緒に娶って欲しいと」
勿論、彼女たちは得難い存在だ。同じ船に乗る同僚としてもそうだし、同じ日本人としても気が許せる存在だ。恋愛感情が有るかと問われると、今は無い。考えない様にしてきたからだ。誰か一人を選べばチームワークは崩れるだろうと思っていたのもあるし、社畜をしていた間は恋愛なんてする時間もなければ趣味に走る時間もなかったので、そちらの方面に意識が行きにくかったのも有る。
『会社の交換可能な歯車で、つまらない存在なのだ』と会社で言われ続けていたのだから、女性からアプローチされるなんて思ってもみなかった。
『選ばれたのなら。一人を選ばなくてもいいのなら』
ただ、果たして複数の女性を公平に愛することなんてできるのだろうか。
もっと言えば、乗員は3名ほど増員したい。少なくとも操縦士は補充が必要だと思っている。
「恋愛対象として選ばれるとは思っていなかったし、チームワークの事を考えれば恋愛感情は持たない方が良いと、そういった事は考えないようにしていたから。確かに帝国民になったのだから3人と婚姻を結ぶことも可能だろう。でも、本当に良いのか? 簡単には軍籍から外れる事は叶わないだろうし、そうなれば死は常に隣りあわせだ。そして増員は必要と考えている」
「良いじゃないですか? 困難は4人で乗り越えていけば。健やかなる時も病める時もって奴ですよ。勿論、公平に愛してもらえるなら増えても良いですよ、私としては」
「美咲も大丈夫ですよ。真琴さんは嫉妬深そうですけど」
「私だって大丈夫よ。亜紀良が言ったように増えたって」
そこまで言われたのであれば腹をくくろう。届け出の方法などは良く分からないが、取り敢えずそれは後で良いだろう。
基地ではまともな食事がとれると言うので、先ずは任務完了祝いの食事だ。ココまで来られたことと、この先の人生の幸せを願って、久しく飲んでいないアルコール類も足して楽しい時間を過ごした。
部屋に戻ったらやる事は決まっていた。皆少ないながらも経験はあったが、複数でというのは無かったので戸惑いもあったものの、皆で何度も体を合わせた。
流石に皆で寝るには狭いので大きなベッドは彼女たちに譲って、僕は小部屋のベッドでひとり寝だ。
ゆっくり寝られので、朝の目覚めはスッキリしていた。
艦の改造案は、要員編成の見直しから始まった。操縦士の補充は不可欠で、できれば火器管制と主機の担当は分けたい。その増員メンバーも地球人から選抜したい。
操縦室もそれに合わせたサイズが必要だろうし、船室等の増設も然りだ。
兵器類は余裕があるのならばミサイルなどを増やしたいが、足が遅くなるのも航続距離に響くのも困る。
皆が起きてきたところで考えていた改造素案を話すと、概ね了承はされた。
「何人まで妻を増やすんですか?」
「妻にするかは別問題だろう? 最優先は君らと仲良くできるかどうかだし。とは言え能力が低くても困るから、早期にというのであれば僚艦から引き抜くか、猶予があるなら月面基地から来てもらう手も有るかな?」
「本来ならば1砲塔に1人の要員が欲しいですが、今のメンバーでも熟せなくはないでしょう。ただ、ミサイルは難しいかと思いますよ」
「何故?」
「艦首に回転衝角が有るので艦首に発射管は付けられません。ミサイルランチャーを取り付ける事に成ります。そうすると、装填されている本数以上は撃てません」
タブレットで資料を見てみるが、自動装填機能付きだと主砲以上のスペースが必要だ。装填時間もそれなりに掛かる事も分かった。それでは主砲なり副砲を増やした方が良いかもしれない。光学兵器だけというのも不安はあるが。
「どちらかと言えば、主砲を連射できる方が助かるかな」
「食事って、どうにか成らないんですかね。流石にずっとアレって気がめいりますよ。ココではちゃんとしたものが食べられるんですから、聞いてみてくださいよ」
「それじゃぁ、今の意見も入れて案として送っておくよ」
それから2日して、基地司令から呼び出しを受けた。
その席で正式に、引き続き軽巡航艦【夕張】に乗る事を伝えた。勿論、クルーも今まで通りで、更に追加が可能かの確認もした。追加については僚艦の到着を待つ必要があるが、彼らの艦から引き抜きを行うことになるそうだ。人選は評価表を貰って、到着前に済ますのが良いだろう。
艦の改修は概ね了承された。
食事についても小型の厨房付き食堂ユニットを用意するとの事だった。普通の艦では大食堂があり、そこに食事を提供する厨房がってコックが居るそうだ。今の仕様は日本政府側の案を受け入れた結果で、あのような食事は本意ではないとの事だった。恨むぞ、日本政府。
不味い食事は頻繁に地球から物資を送る事ができない為の処置らしいが、それでは士気も上がらないだろうと思ったのは僕だけではない。
追加のハイパージャンプ機構を搭載するついでに全体の見直しを行い、質量が38%増しで希望が通る事が分ったので改修をお願いした。
完了まで20日ほどだと言うので、それまでは休暇扱いとなった。
軽巡航艦【夕張】に遅れること8日で僚艦が基地に辿り着いく。
揃って辿り着きはしたが「艦隊として整然と」と言うわけでも無く、取り敢えず纏まって行動してきた結果のようだとミュレッジーノ基地司令は見ていた。
そして基地司令額だ差した判断は「使い物にならない」だった。
直ぐに怒級戦艦【武蔵】の艦長である柿崎実特務少尉が呼び出された。
「カキザキ艦長。君は軍務経験者であり、成績最優秀の艦長であるとの連絡を受けていたが相違ないか?」
「はい、司令官殿」
「軽巡航艦【夕張】がココに来たのが何日前か知っているかね」
「はい。月基地へ到着の連絡を入れた際に知らされました」
「なぜ12日も遅れたのか聞かせてもらえるか?」
「我々は艦隊行動を取りましたが、彼らは独自行動を取りました。また、彼らの艦は艦隊内では最速であり、最も遅い艦に合わせれた我々の遅れは、想定の範囲と考えます」
「どこからの指示で艦隊行動を取ったのだろうか? 君らに課せられた任務は艦の航行テストをしながらココに来る事であって、集団行動をせよとは書かれていないはずだが?」
「え? いえ、それは。艦隊の指揮官として、火力の低い輸送艦を置いてと言うのは考えられません」
「それは、帝国内で海賊行為に合うと言っているのかね? それとも回廊を行き交う多くの船が軍艦だとでも?」
「いえ、決してそのような意図では……」
ミュレッジーノ基地司令は話をした結果、『地球の日本というコミュニティーの者に宇宙はまだ早い』と結論付けた。勿論、ゴトウ艦長は別としてだ。「彼はイレギュラーであり、彼を除かないと正しい評価にならない」と他の幹部から指摘を受け、自身も納得もしていた。
よって、ゴトウ艦長が欲するならばクルーを引き抜くことに躊躇いはない。
「君らはまだ、ココに来るに足りないものが多そうだ。【夕張】には回廊の通過を禁じたが、それでもココに辿り着いたぞ。ゴトウ艦長らは私から見てとても優秀だった。よって、彼らはこの先に行けるが、君らは戻る事に成る。戻るにあたって、【夕張】へ移動する者が数人出るかもしれないが、それは帝国軍が許したものであるので承知する様に」
神崎は言われた事の半分も理解できていなかった。唯一しっかり理解できた事は民間出の艦長に大きな後れを取ったと言うことだった。「はい」とだけ返事をし、退出を促されたので艦へと戻る。そこには一緒に来た各艦の艦長が揃っていて、期待を込めた視線に俯かざるを得なかった。
神崎艦長は集まった艦長たちに、基地司令から叱咤されたことを伝えたが【夕張】に関しては明言を避けた。入港場所は【夕張】と離されていて、彼らの視界には入らないからだった。次の指示があるまでに補給を完璧にこなし、異星人を見返してやるのだと奮起する。
解散しようとしたところで各自のタブレットにメッセージが届き、一人がタブレットを取り落とす。落としたのは美濃部艦長で、巡航艦【雪風】の艦長として指揮を執って来た人物だ。
「美濃部、どうした」
「か、神崎さん。自分の艦はどうなるのでしょうか?」
「【雪風】がどうしたって?」
「艦長の任を解くと。巡航艦【雪風】は帝国軍側で改修予定だそうです」
巡航艦【雪風】内も慌ただしくなっていた。艦に残っていた12名の乗員に対して無情な通知が来ていたからだ。
巡航艦【雪風】乗員各位
本艦は帝国軍による改修作業の後、新たな任に着く事となった。
そこに君らの席は無い。
即時退艦のうえ、カンザキ艦長の指示かに入ること。
以上
とだけ記されていた。




