目の前の敵を討て
南52番回廊まで残り8時間を切った。
一般的な船舶ならばそろそろ加速を開始しないタイミングとなったが、質量の小さい戦闘艦である我々の【夕張】と【雪風】はもう少し加速までに時間の余裕があった。
敵勢力が仕掛けてこないのは我々が加速を始めていないせいで、回廊に入らないと判断したからかもしれない。
「全艦、10秒後に加速を開始。目標、南52番回廊。総員戦闘配置」
「「総員戦闘配置」」
「「【夕張】(【雪風】)加速を開始します」」
「……。艦長、後方の揺らぎ補足できず。【雪風】も目標ロスト」
「前方、船影8。南52回廊を降りたもよう」
「8隻共に南52番回廊の航行ログに記録在り。識別信号は運送会社所属のコンテナ船団です」
「照会完了、全て廃船登録がされています。敵勢力の公算大」
メインスクリーンに映るレーダーの光点を睨みつける。8隻の内4隻が速度を上げ、残りはそのままの速度でこちらに接近してくる。
ある可能性に思い至り確認をさせることにした。
「先行してくる4隻に対して成分分析を行ってくれ」
「質量兵器、ですか?」
「あぁ、氷の塊なんかを抱えていないか不安だ。レーザーで砕いてしまうと威力が落ちる」
速度差が大きいので精度は低くなるだろうが、金属か水かくらいは判断が出るだろう。
「成分出ました。質量の85%が氷の様です」
「ある程度の位置で自爆するかもしれないが、こちらからの発砲は控えてくれ。速度を第4戦速まで上げ、先行する敵の右舷を抜けて後方の4隻に攻撃を仕掛ける」
「主砲へのチャージ80%で一時停止。変換炉の出力を全て主機と補機へ回します」
「理想進路を出します」
「転進完了、第4戦速まで105秒」
「【雪風】3秒遅れで追従しています」
軽巡航艦である【夕張】は第5戦速まで出せるが、駆逐艦の【雪風】は第4戦速が最大船速となる。【雪風】の主砲が【夕張】に比べて小さいとはいえ、【雪風】の変換炉も最大稼働で主機にエネルギーを供給している事だろう。
「先行する敵の爆発を確認。氷の粒がこちらの左舷側に広がってきます。理想進路を修正します」
「最転進。進路クリア。速度問題無し」
「主砲チャージを再開します」
「【雪風】に通達。レールガンの射程に入り次第砲撃を開始。砲撃はレーザー砲との併用のこと」
「【雪風】了解。有効射程にてレールガンによる攻撃を開始。氷塊が低密度の射線より主砲攻撃を行います」
「【夕張】は回転衝角で氷塊の除去。障害物を弾き飛ばしつつ、敵主力に迫れ。砲塔の展開タイミングと砲撃は各砲術士に一任する」
砲撃は火器管制システムにより、ある程度は照準が絞り込まれる。砲術士はその中からターゲットを選択してトリガーを引くので、各個の判断で攻撃させても問題や無駄は無い。主砲の展開タイミングも、障害物の濃い部分さえ抜けてしまえばダメージも気にするほどは入らないはずだ。
「【雪風】、砲撃を開始しました。敵αが質量損失40%。βが質量損失13%です」
「第1砲塔展開完了、1番から3番攻撃を開始します」
「第2砲塔も展開完了、4~6番発射」
「副砲全て展開完了。順次先行中の敵に対して攻撃を開始します」
「敵勢力からのミサイルを確認。弾数38。副砲は迎撃を」
先行していた4隻は抱えた氷を爆破して以降沈黙していたが、やはりミサイルを搭載していたようだ。38発だと打ち止めか?
「重力震感知。ショートジャンプで船が飛んできます。推定10隻。位置は当艦の後方、プローブ喪失地点」
「前方の敵に砲撃を集中しろ。殲滅後に反時計回りで前進して新手の側面に食らいつく」
そこで船体が揺れた。ミサイルが着弾したようだ。
「迎撃失敗1。回転衝角に着弾しましたので被害は有りません」
重力震はショートジャンプやミドルジャンプの際に出口付近で起きる空間の歪みを表すものだ。ハイパージャンプでも起きるが、よほど開けた場所に出ないと事故の元なのでココに出てくることはまず無いはずだ。プローブによる測定結果を使って飛んで来たならミドルジャンプだろう。
重力震として感知できるのは歪みの大きさなので、前方に展開している海賊船の質量から想定した船籍数となる。大型船が混じっていれば数は減り、小型艦が増えれば数も増えるので、どちらに転んでも良いように移動方向を決めておく。
「ジャンプアウトを確認。識別信号無し。大型艦2,中型艦4です。速度を上げてこちらに接近してきます」
「先ずは前にいる敵からだ。収束率を上げて威力を増せ」
「αおよびβ沈黙。質量から轟沈と断定。γからの砲撃1、δからの砲撃3です。【雪風】のシールド過負荷のようです」
「エネルギーの変換が追い付かないなら、防御に徹する様に連絡」
「了解」
先ずは無事に抜ける事を優先させる。抜けてしまえば逃げるも攻めるも状況次第で如何様にもなる。
【雪風】だけでなく、【夕張】もレーザーによる攻撃を受けている。【夕張】はまだシールドにも余裕が有るので被害はない。【雪風】の負荷が大きいようなので進路を変える指示を出す。
「進路変更。敵δにラム戦を挑む。【雪風】は進路を維持、ラム戦後にコチラから最接近する」
「了解。進路出します」
「進路確認。転進し、最大船速へ」
転進して速度を上げる。戦闘艦ではありえないであろう加速力をもってδに襲い掛かり、相手機関部をもぎ取るように突っ込んだ。δはラム戦だとは思わなかったようで、回避行動を取る事無く船体に穴をあけられて爆散した。γはδの爆発のあおりを食らったようで沈黙した。




