尾行
美咲から声を掛けられたのは、初戦から32時間後のことだった。
「勝己さん。ちょっと気になる反応があって」
「レーダーの不調かい?」
「いえ。ロングレンジのレーダーには何も映っていないのですが、アクティブソナーに揺らぎが出る事があって。その位置が艦の後方で、微妙に位置が変わるんです」
アクティブソナーの変調でないとすると尾行されている可能性があるが、ロングレンジのレーダーの方が索敵範囲は広い。どちらのレーダーも設定をいじってあるので、デフォルトよりは感知能力が上がっている。もしかするとステルス能力を持つ船でも居るのだろうか。
「連絡艦はまだ、敵の残骸あたりに居るだろうか?」
「居た場合は?」
「アチラさんのアクティブソナーのレンジと【夕張】のレンジが被っているのであれば、同時に揺らぎが確認できるかもしれない。無理ならば【雪風】と少し離れて確認するようかな」
「連絡してみます」
連絡艦は戦闘能力が低い反面、足の速さと索敵能力は高い。こちらはレーダー設定をアレンジしているとはいえ、連絡艦の方が実績も場数も上だから原因がわかるかもしれない。
「返信きました。やはり小型の船が居るようです。アチラの見立てでは艦載機くらいのサイズらしく、敵勢力の無人プローブではないかと。どうしますか?」
無人プローブは基本、計測データを単距離通信に乗せて送信している。ならば、レンジ外にそのプローブからデータを拾っている船が居るはずだ。
敵は5隻以上居たと言うことだろうか。
それとも別口か?
「もしかすると、餌に食らいついたのは我々かもしれないな」
「どういう事ですか?」
「さっきの4隻が囮だったのかもしれないのさ。僕らの火力を見定めるためのね」
あの戦闘を最初から監視していたのであれば、こちらの有効砲撃距離や精度がバレただろうし、システムセキュリティーのレベルもある程度は想定できたはずだ。もちろん、【夕張】が戦闘艦であることも。セキュリティーに関しては想定以上の堅牢さだとは思っているが、ダミーシステムの有無まで露呈していた場合も考えておく必要があるだろう。
回廊に入るまで残り72時間ほど。一当たり来そうなのは35時間後に接近する小惑星帯の傍だろう。来るとしたら、どのくらいの火力を持った海賊船だろうか。
「データベースに海賊船に関する資料があっただろうか」
「この辺りに出るのは、民間コンテナ船にレーザー砲やミサイルランチャーを搭載した船です。火力としてはフリゲート艦ほどもいかないかと」
「でも張り付いてるって事は、また襲って来るって事でしょ? なら、こっちの火力以上の船を持っているとか、数が多いとか、何かしら有利な条件が有るって気がする」
「先の戦闘で、こちらはレーザー砲しか使いませんでした。なので光学兵器を無効化、もしくは威力を低下させる手段を持っているのかもしれませんね」
「少し調べてみよう」
光学兵器を無効にする方法としては、重力場を複数設けて曲げる方法があるようだ。ただ、かなり大きな変換炉や発生装置が必要な事から、この方法を取るとは考えにくい。海賊共の基地とかなら有りえるかもしれないが。
威力を落とす方法は複数ある。
真っ先に対光学兵器用のバリアだ。もっとも、馬鹿みたいにエネルギーを食うのに、防ぐレーザーの出力が高いと負荷オーバーで消失する。再起動にはそれなりの時間がかかるので、余力のある戦艦以上のクラスに搭載される事が多い。我々の僚艦では、戦艦の【武蔵】に備わっていた。
他にはレーザー拡散粒子の散布がある。細かい氷を撒くような感じだが、これで少しは威力を落とす事ができる。民間船がお守り代わりに積んでいるそうだが、それで逃げ切れるかはまた別の問題だろう。
特殊な方法としては、当艦のように単結晶の防御装甲を持つ方法がある。【夕張】はその単結晶物質を回転衝角として装備しているので、距離や収束率にもよるが【雪風】の主砲クラスであれば防ぐことも不可能ではない。流石に4門同時掃射されたら無理だが。
特殊な方法としては、火力を落とした機雷や推進剤を少なくして発射したミサイルを射線に置く補法も有る。が、初弾は回避できても連射されては効果も薄い。
「【夕張】より【雪風】へ、砲撃に詳しい者と話がしたい」
「【雪風】より【夕張】の後藤艦長へ。桜木が当直外で近くに居りますので代わります」
「桜木です。どのようなご用件でしょうか」
「【雪風】のレーザー砲軌道にレールガンの弾頭を通すことは可能だろうか」
「えっ? もう少し詳しくお願いします」
「敵艦艇が対レーザー防御を持っていた場合の話として聞いてくれ。レーザー拡散物質等が散布されていた場合に、レールガンでこれを排除しレーザー砲で攻撃する。あるいは、レーザー砲で障害物を破壊しできた穴にレールガンの弾頭を通すことは可能かという質問だ」
「相対座標を固定できれば理論上可能だとは思いますが、実現は難しいと思います。ですが、火器管制システムに攻撃パターンとして登録しておけば、可能かもしれません」
「では申し訳ないが、手の空いている者で検討をしてみて欲しい」
「了解しました」
やはりミサイルランチャーを【夕張】に搭載するか、【雪風】にミサイル発射管を備えるべきだったかもしれない。いや、今考える事ではないな。今は有る物で取れる手立てを増やすべきだろう。




