ぎゅうスキ!(23) ダンジョン攻略失敗
3章第3話投稿しました。2016/11/16
サブタイトル変えました。2016/11/16
ドドドドドド……
滝壺に水が流れるような激しい音がする。
辺りを一望できるような高台に直径30mほどの穴が開いている。その周りには5台の巨大なタンクローリー。そのタンクローリーから液体が穴に流し込まれていた。
穴から少し離れた場所に木製のテーブルとテーブルを囲むように配置された幾つかの椅子、そしてヘリコプターがあった。椅子にはオッサン達が座っており、何やら議論をしているようだった。
「『世界の臍』攻略の待ち時間を使って、これまで得た情報をまとめます」
紫鉄血はどこからか出したホワイトボードを叩きながらそう言った。
赤いペンで”①勇者について”と書いた。
「勇者の情報ですが、名前がわかりました。」
「おお。まじか。早いな」
紫鉄血の情報に喜ぶオッサン。キュッキュッキュッと5人の名前を書いていく紫鉄血。
「判明したのは”ライ”、”アース”、”リリアーノ”、”サターン”、”フォルクスワーゲン”の5人よ」
「外国人か…って、最後おかしくない?」
疑問を口にするオッサン。確かに日本人っぽくはない名前だな。
「……最後どころか色々おかしいわよ。まあ、いいわ。取り敢えずお父様に連絡をしておいて」
「OK」
即、『クリエル』を起動して連絡するオッサン。
「外国人の場合、お父様でも見つけるのが難しい可能性が高いわ。そこで勇者の情報、特にファミリーネームについて引き続き調査します。その調査の一貫としてギルドを利用したいと思う」
今度は青いマーカーで”ギルド””利用”と書く紫鉄血。
「ギルドポイントを5000pt貯めると、過去も含めてギルド登録者の情報を閲覧するサービスを受けることができるの。それを利用しましょう」
「それでここ『世界の臍』へ来たの?」
紫鉄血は「そうよ」と答えながら、青いマーカーで色々と書いていく。
「闇の領域のモンスターの素材の買い取りを冒険者ギルドではやっているのだけど、希少モンスターの売却は、お金だけでなくギルドポイントも貰えるの。『世界の臍』をクリアするついでに『アラクネ』『クイーンタランチュラ』『ヘルスパイダー』などの蜘蛛系モンスターの素材を大量にゲットしようと思う」
「「無理です(なのだ)」」
「『世界の臍』は魔国最高峰の難易度のダンジョンなのだ。不可能なのだ。絶対入りたくないのだ」
「『アラクネ』って人類が勝てるモンスターじゃないです。絶対殺されます」
こちらの世界の2人は紫鉄血の案に反対のようだ。
まあ、たしかに蜘蛛系のモンスターは強い。牙から出る毒。鉄をも容易く切り裂く爪。柔らかく衝撃を吸収する体毛。そして糸。特に糸は粘着力があるため容易に外すことができず、あっという間に糸で包まれる。また蜘蛛の糸はそれ自体が感覚器官の働きもする。蜘蛛の上級種限定のダンジョンである『世界の臍』に入るのは自殺行為そのものに思える。
「だからダンジョンの外から攻略してるんじゃない」
「「「え?」」」
紫鉄血は今日も一人で突っ走っている。
「…何のために4000リットルのタンクローリーを5台も使っていると思ったの?」
「水責め?」
「惜しいわね」
オッサンの回答は惜しかったらしい。
「注ぎ込んでいるのはカフェインとサイベーレよ」
「サイベーレ?」
「ピレスロイド系の神経毒の一種よ。簡単に言うと昆虫、爬虫類、両生類のみに効く持続的な麻痺毒なの。哺乳類や鳥類には神経細胞上の受容体に対する作用が極めて小さいから比較的安全よ」
「おおー」
さすが紫鉄血、異世界の物品購入できる状況を十二分に発揮させている。対象は昆虫、爬虫類、両生類か……サイベーレはかなり幅広く応用できるんじゃないか?
「『アラクネ』にも効果があるのはさっき確認したわ。神経細胞のナトリウムイオンチャンネル受容体の構造がモンスターも同じなのは朗報ね」
「え? どうやって確認したの?」
「鬼神がドローン飛ばしてたでしょ。あれで穴の中の様子を確認しているわ」
「あー……遊んでいるのかと思った」
紫鉄血はやや呆れているようだ。
「後で携帯用のサイベーレの噴霧装置を渡すからアイテムボックスに入れておいてね。さっきも言ったけど昆虫、爬虫類、両生類が対象よ。比較的安全な状態で試してから使うこと」
「らじゃー」
やはり今後もサイベーレを使用していく方針のようだ。
「カフェインの説明は良いわよね?」
「そっちはわかる。蜘蛛にはマリファナとかスピード、大麻よりも覚せい剤的な反応が強いんだろ?」
「合ってるわ。そしてこちらの世界の蜘蛛系モンスターにも同様の効果があったわ。ということで、現在モンスターの死骸を大量生産中よ」
紫鉄血はそう言いながら穴を指差す。
5台のタンクローリーからは液体が絶えず注ぎ込まれていた。
オッサンはウンウン頷いているが、緑の少女と茶色いきのこは若干怯えている。
◇◇◇
いつの間にか、大穴に巨大な架橋が取り付けられており、その中央に巨大な剣山のようなものが極太のワイヤーロープを束ねたようなもので吊られている。剣山は穴の中に勢い良く降りていき、しばらくすると昇ってきた。車の動力を使って巻き上げているようだ。
昇ってくるときには剣山の針に何十匹もの蜘蛛のモンスターが刺さっていた。元の位置まで引き上げられた剣山は水平移動し、穴のそばの地面に蜘蛛を下ろす。剣山は穴の中央に戻ると、再び穴の中に勢い良く降りていった。
「まじか! モンスターの回収まで穴の外からか!」
オッサンはその様子を見て驚いて声をあげる。きのこと緑の少女は絶句していた。
「さて、次の情報の整理に移りましょうか」
紫鉄血は何事もなかったかのように話を進めようとする。
「次は魔王についてね……魔王は最悪の性格をしているみたい」
「うぐう……否定できないのだ……」
どうやら魔王の性格の悪さは魔人である緑の少女も認めるほどのようだ。
「レア魔法『ヘル・バースト・セカンド・チャネル』を習得していて、気に食わない人の悪口を言いまくっているみたい。ああ、このレア魔法は悪口が凄い勢いで尾鰭がついて伝わっていくという悪魔のような効果よ」
「たち悪いな!」
「ええ、できるだけ接触を控えましょう」
紫鉄血の提案に皆が頷いた。しかし魔王は本気で質悪いな。
「次は魔法ね。魔法はシル系魔法と名前魔法に別れるわ。シル系魔法の代表は『トンジル』よ。高温の豚汁が相手に襲いかかるわ」
「違う!俺が想像した魔法と違う! もっと、こう…ファイアーなボールのようなものを想像してた」
オッサンのツッコミが響き渡る。
「名前魔法はもっと酷いわね。『ウインド』が窓の開閉をする。『ホーリー』が聖夜にする。『サンダー』が三田さんが現れる……」
「…三田さんって誰?」
「私に聞かないでよ。知らないわよ」
オッサンが変なところに喰い付いた。
紫鉄血が緑のペンでホワイトボードに魔法と効果を書いていく。
③魔法について
シル系魔法 (コモン)の例
『トンジル』…高温の豚汁が襲いかかる。※容器はない。
『アオジル』…青汁が襲いかかる。とても苦い。※容器はない。
『カニジル』…汁とともに召喚された蟹が襲いかかる。蟹は結構強い。※容器はない。
『ハナジル』…この魔法を受けると鼻汁が止まらなくなる。効果は2時間。(回避可)
『パーシル』…真っ白になる。驚きの白さ?
『ニヌキジル』…麺つゆが襲いかかる。※容器はない。
『タヌキジル』…たぬき汁が襲いかかる。※容器はない。
『シルフィード』…シル系最強魔法。9つの風の刃が切り刻む。
名前魔法 (コモン)の例
『バースト』…噂が炎上する。
『フリーズ』…寒いギャグが流れて、敵も味方も一瞬動きが止まる。(レジスト可)
『サンダー』…三田さんが現れる。
『ウインド』…窓の開閉を操作する。
『クラスタ』…相互評価を行う。
『クラウド』…アイテムを共有して使うことができる。
『ホーリー』…聖夜が訪れる。
『フレア』…攻撃魔法
『キュア』…回復魔法
レア魔法の例
『ヘル・バースト・セカンド・チャネル』…あることないこと噂になる。
『コキュートス』…辺り一帯を凍らせる。
『クエイク』…地震を起こす。震度5弱。
『大魔導師』…パッシブ。魔法の効果が2倍になる。
『五重詠唱』…パッシブ。魔法が5方向に別れる。
『ルーの鏡』…真実の姿が映る。化粧や整形はされてない姿が映る。
『足から汚物』…足から汚物が出る。
『ゾディアック』…12種類の何かが襲いかかる。※獅子は猫になります。
「色々ツッコミたいんだけど……」
「私もよ。でも私は調べたものをまとめただけで詳細は知らないわよ」
「コモンって『フレア』『キュア』『シルフィード』以外全部外れじゃないか?」
「そんなことないでしょ……い、一例だからよ。他には良い魔法がいっぱいあるのよ」
オッサンと紫鉄血が何やら揉めている。希望と現実が違いすぎたのかもしれない。
「魔法はいまいちですよね。回数制限もあるし、杖も必要だし」
「スキルはばらつきが大きいのだ。魔法の効果は安定しているのだ」
「でも高い杖買わないと回数使うことできないんでしょ?」
「魔人はベース魔法『魔力の泉』があるのだ。杖さえあれば魔法使い放題なのだ」
「スキルは元々使い放題ですよね。ベーススキル『アイテムボックス』の方が100倍役に立ちますよね」
きのこと緑の少女も揉めている。きのこが胸を張って威張ったところで、少女の右拳がきのこの顔面をクリーンヒット。きのこは鼻血が出た鼻を押さえながら涙目になっている。きのこ弱すぎるだろ……
「ステーシアちゃんは『トンジル』『アオジル』『バースト』の3つが使えるんだっけ?」
オッサンは緑の少女に話しかける。涙目のきのこは無視だ。
「そうなのだ。豚汁食べ放題なのだ。青汁は苦いのだ」
少女が腰に手を当て答える。自慢顔だ。茶色いきのこは目で何かを訴えてる。
「魔法の話は終わり。ダンジョンの情報に話題を変えるわよ」
紫鉄血はそう言って、ホワイトボードに書いた文字をクリーナーで消していく。
◇◇◇
いつの間にかモンスターの死骸置き場には山が出来上がっている。百はゆうに越えている蜘蛛の死骸の山だ。たまに宝箱や岩のようなものも一緒に串刺しにされて釣れているようだ。区別されずに死骸置き場に放置している。
剣山もどきを操縦しているのは金髪少年で、たまに息がまだあるモンスターのトドメを指す役が赤髪処女のようだ。ピクピクしている蜘蛛を笑顔で殴り殺している。赤色をした金属の小手のようなものを見に付けており、それで撲殺しているようだ。
「ダンジョンは魔国には確認されたものだけで18個程度あるわ。そのうち6個が踏破済みダンジョン。6個が難解すぎて誰も入らないダンジョン。残りの6個が攻略中のダンジョンみたい」
紫鉄血は再びホワイトボードにキュッキュと書いていく。
「難易度はざっくりS~Eで表現されているわ。敵が強いとか罠があるとかごちゃ混ぜの状態ね」
④魔国のダンジョンについて
『米の夢』未踏破 ランクS 帰還者なし
『恐怖の味噌汁』未踏破 ランクS 帰還者なし
『世界の臍』未踏破 ランクS 上位蜘蛛系モンスター確認
『恐怖の畑』未踏破 ランクS 上位植物系モンスター確認
『迷いの森』未踏破 ランクS 上位植物系モンスターなど確認
『ミラクル頭脳パワー』未踏破 ランク未定 モンスター確認されず
『嵩高い塔』未踏破 ランクA 鳥系モンスター確認
『追憶の迷宮』未踏破 ランクA ランダムモンスター
『森のクマさん』未踏破 ランクB 熊系モンスター
『ネズミーランド』未踏破 ランクB きぐるみ系モンスター?
『妖精の森』未踏破 ランクB 妖精
『告白の木』ランクC 植物系モンスター
『魚パラダイス』ランクC 魚類?
『日替わりダンジョン』ランクB~D ランダムモンスター
『野菜ババア』ランクD 上位人型モンスター
『ヒカキン』ランクAまたはE ランダムモンスター
『廃墟の教会』ランクE 下位ゴースト系モンスター
『そこらへんの洞窟』ランクE 下位ゴブリン系モンスター
一通り書き出された後、沈黙が訪れた。
「これは……いくつかは詳細を触れてはいけないダンジョンがあるな……」
「ええ…そうね。気をつけましょう」
オッサンと紫鉄血は、何かを気にしているようだ。
「ま、まあ、ランクSは人の目につかないというメリットがあるわ。今回のような大胆な手が取れます。まずは素材集めが目的だから、ここ『世界の臍』の次は『迷いの森』『恐怖の畑』あたりを攻略していきましょう」
「「待ってください(待つのだ)」」
揃って紫鉄血の案に反対するきのこと少女。仲が良いのか悪いのか。
「せめてもうちょっと難易度を下げようなのだ」
「却下。安いモンスターを数こなすのは面倒よ。それに他の冒険者がいるのはデメリットが多すぎるわ。毒薬の散布もできやしない」
「踏破済みダンジョンに行きませんか?」
「勇者の情報入手が優先。この情報をお父様に渡した後の待ち時間になら、踏破済みダンジョンをクリアしていくのもありね。先に踏破済みに行くのは本末転倒よ」
2人の案は紫鉄血にあっさり却下される。
「おーい! やばいのが釣れたー」
と、そこへ金髪少年の大声が響く。オッサン達は一斉に金髪少年の方を向いた。
◇◇◇
剣山の針の一つにスロットマシンが刺さっている。その筐体は貫通して大穴が空いている。
「これって……」
オッサンがスロットマシンを指差し呟く。
「ああああ……魔法恵与台が……」
緑の少女はオロオロしている。
「真下にあったのね……大丈夫。まだ動く可能性もあるわ。赤井!」
「りょうかーい」
紫鉄血は赤髪処女に指示を出す。赤髪処女はスロットマシンを降ろして、そのレバーを引いてみた。
…しかし、何も起きなかった。
もちろん、絵柄も回り始めない。
「駄目みたい」
赤髪処女は紫鉄血の方を向き直り、眉を寄せて申し訳なさそうにそう告げた。
静寂が訪れる。
「モンスターの回収を! 村に一度戻り、ギルドで素材を売却します。その後は『迷いの森』へ向います」
紫鉄血は片手を高らかに掲げ、そう宣言した。




