ぎゅうスキ!(22) ブラッディエンジェルカオスバッファローキング
3章第2話投稿しました。2016/11/12
「ハァハァハァハァ」
オッサンは金属製の槍を持って草原をランニングをしていた。
声だけ聞いてたら、間違えなく事案発生だな。
たまに立ち止まり槍で深い茂みを薙ぎ払うオッサン。薙ぎ払われた植物にはわずかに焼け焦げた痕がある。温度管理で槍を高温に保っているのだろう。
しばらくランニングと槍のなぎ払いを繰り返す。
やがて少し開けた場所に出た。
そこには立派な2階建てのコテージがあり、ヘリコプターやモーターホームなどの大型の乗り物が停められていた。他には4人がけの木製のベンチや、同じく木製の椅子やテーブル、バーベキューコンロ、貯水槽とそれに繋がる蛇口が複数設置されていた。まるで元の世界のキャンプ場だな。
槍をしまう。
蛇口をひねり喉を潤す。
汗だくのシャツを脱ぎスキルで燃やす。
懐のアイテムボックスから同じシャツを取り出して身につけた。使い捨てかよ。
「今日の訓練終了。っと…」
爽やかな笑顔で軽くストレッチをする。うん、こんなの我らがオッサンっぽくない。もっと泥臭いはずだ。
軽やかな足取りでコテージに向かうオッサン。
コテージの扉を開けると、金属製の椅子に体中を縛られアイマスクと猿ぐつわをされた少女がいた。
◇◇◇
「誰?」
唖然とした様子のオッサンは拘束された少女に問う。
「! うぐ…ううう…ううぐうぐぐ……」
少女は必死に何かを伝えようとしている。
オッサンはまだ事態を把握できず、呆然としていた。
「あ! とにかく助けないと」
「! あうぐぐ…あぐぐ……」
オッサンの呟きに、大きく身じろぎし反応する少女。
オッサンが猿ぐつわとアイマスクを取ると少女の顔が顕になった。
歳は10くらいだろうか、ぱっちりとした目をしている。髪は緑色でショートボブが似合っている。
「は…早くするのだ。紫の悪魔がやってくるのだ。早く逃げないと……」
緑の少女はオッサンに助けを求める。
「ん?……薄紫がかった銀髪の女の子のこと?」
紫の悪魔という響きに心当たりがあるオッサンは拘束を解くのを中断して疑問を投げかける。
「そ、そうなのだ……ってあなた、まさかあの悪魔の仲間なのか?」
「まあ…そうなのかな?」
「なんで疑問形なのよ!」
少女とオッサンが会話しているところ、階上から紫鉄血が叫びながら降りてきた。金髪少年と赤髪処女もその後ろを付いてきている。
「これってどういうこと?」
オッサンが考えるのを放棄して紫鉄血に問いかける。
「攫われたのだ。助けて」
緑の少女は必死にオッサンに訴えかける。
しかし、少女の訴えは届かない。なぜなら、オッサンは考えるのを既に放棄しているからだ。
紫鉄血が少女の正面に立つ。鋭い視線で少女の目を捉える。
怯える少女。目を合わさないように地面を見る。
「スキルの起源は?」
「魔国なのだ! 技人は魔人にもっと敬意を払うべきなのだ」
紫鉄血が質問をすると、少女は勢い良く答える。
「全ての能力は?」
「魔国が起源なのだ! 技人はスキルの使用料を魔国に払うべきなのだ」
「技国があるのは?」
「魔国のお陰なのだ! 属国である技国は上納金を魔国に納めるべきなのだ」
「イノシシに追われているあなたを助けたのは?」
「自力で倒したのだ! 決して紫の悪魔に助けられていないのだ」
「イノシシから助かったあなたはどうしたの?」
「紫の悪魔が質問してきたが、技人だとわかったので、全て嘘を言ったのだ」
「嘘を言ったあなたはどうなったの?」
「気づいたら、ここで縛られていたのだ」
「縛られていたあなたはどうなったのかしら?」
「それは、そこの紫の悪魔に……あう…ごめんなさいなのだ。もうしませんのだ」
一連の応答が終わると、緑の少女は怯えだした。紫鉄血はオッサンの方を向く。
「こういうわけよ」
「いや、さっぱりわからん!」
オッサンはきっぱりはっきり、そう告げた。
◇◇◇
「要約すると、魔人は選民思想を持っていて、技人が大嫌い。イノシシに追われていた少女を助けたが、しばらく会話をすると、少女がこちらを技人と気づいた。少女は嘘を言ったり、舐めた態度を取ってきたので、殴ってここに縛り付けた。ついでだから尋問して情報を収集しようとしたってこと?」
「ばっちりよ」
「ばっちりよ。じゃねー!」
オッサンのツッコミが冴え渡る。
「誘拐のことなら気にしなくて良いですよ。そいつら技人攫って身代金要求してきたり、勝手に技国のダンジョンを不法占拠したりやりたい放題なんですよ。最近聞いたひどい話はアイテムボックス目当てに妊婦を大量に連れて国境を越えてきたことですね」
「それも酷い話だな…」
いつの間にか現れた茶色いきのこ。技人も魔人が嫌いなようだ。
「でも誘拐は駄目だ。野に放とう」
「じゃあ尋問を待って。尋問後、所持品を全て巻き上げて、街から数週間かかる場所に放置する予定に変更するわ」
「悪魔! セイちんの紫の悪魔!」
「なんでよ。人道的でしょ。元々は拷問を予定していたのよ。そのために爪剥ぎ機とか購入したのに」
「うわぁ…引くわ。セイちん、それは引くわ」
紫の悪魔…言い得て妙だ。
一連の会話を聞いて、緑の少女はガクガク震えている。
ふと気づくと椅子の脚をつたって大量の液体が流れ出ていた。少女の足元から湯気が昇る。緑の少女は号泣していた。
「うわぁぁぁん。うわぁぁぁぁん。お母さーん。お母さーん」
気まずい空気が流れる。
「後は任せます」
そう言って紫鉄血は2階へ逃げ出した。金髪少年はいつの間にか姿を消していた。きのこはこっそり忍び足でその場を去ろうとしている。
オッサンはしばし考えた後、最後のローストビーフを赤髪処女に渡す。
赤髪処女はそれを受け取ると笑顔で「任された」と答えた。
「あーよしよし。怖かったねー。大丈夫だよ。怖くないよ。」
そう言いながら軽くかがんで、少女の顔を抱き寄せる赤髪処女。緑の少女は安心したのか更に大きな声で泣き始めた。
◇◇◇
陽が落ちかかっていた。夕日が辺りを赤く染める。
3つのバーベキューコンロを使いこなし、次々と肉を焼くオッサン。
見た目でわかる。焼いているは神戸ビーフのA5ランクのサーロインだ。
オッサンは分厚い肉をヘラで押し付けるように焼く。しばらく焼くと肉をひっくり返してステーキソースをかける。焼きあがると2つのヘラを起用に使い、一口サイズに切っていく。
肉の焼き加減に注意しながら、一人ひとりの皿に盛り付けるオッサン。
「ロイとキガミ君とステーシアちゃんはミィデアム、セイちんはブルー、アカイさんはミディアムレアで3人前だよね」
赤髪処女と緑の少女は前のめりで涎を垂らしている。盛り付けるや否や素早く掻っ攫っていく。2人はシャワーを浴びたのか、着ている服装が先程と異なっていた。茶色いきのこと金髪少年、紫鉄血も皿を受け取る姿はややウキウキしているように見える。
「美味しい……とろけるような食感。まるで噛む必要もないかのような柔らかさ。ソースの甘辛い味が肉自体の甘みをより強調し、口の中がその調和の取れた味に支配される。口の中を通り鼻に入る肉の香りも食欲を唆る。これはブルーにも関わらずメイラード反応がしっかりと起きていることを如実に現している」
紫鉄血がどこかの料理評論家のようなことを言っている。
「「おかわり」」
赤髪処女と緑の少女が同時に皿を出す。赤髪処女は3人前あったはずだが…
オッサンは苦笑しながら肉を焼いていく。
「ガーリックライスはどうする?」
「「「「「食べる(ます)」」」」」
オッサンの問いに5人は即答した。
オッサンは先程焼いたステーキの肉汁の上でガーリックを焼いていく。2つのヘラを用いて細かく細かく刻んでいく。そこにライスを投入する。米が焼けるいい匂いが広がる。赤髪処女は鼻の穴を大きくしてその匂いを堪能していた。
ステーキソースをかけて混ぜた後、金属の蓋をする。その中でどうなっているのか、皆がその金属の蓋に注目している。
蓋を開けると湯気が一斉に広がった。その中から肉の旨味とガーリックの香りで彩られたガーリックライスが姿を現した。
「「「「おおーっ!」」」」
◇◇◇
紫鉄血と緑の少女が対峙している。紫鉄血は余裕の表情だ。緑の少女は若干腰が引けている。オッサン達はその様子を傍観していた。
紫鉄血が切り出す。
「私達の仲間になると今日のような美味しい料理が毎回食べられます」
「是非とも仲間にしてくださいなのだ」
緑の少女は土下座していた。どうやら何らかの対決は早々に終わったようだ。
* * *
数百人程度がいる小さな村だろうか。木で出来た家々が大通りを挟んで並んでいる。小さな店もあるようだ。技国に比べて文明レベルは低いと思われる。
オッサン達はウニクロの服に着替えて杖を持っていた。背にはリュックサックを担いでおり、どこぞの登山初心者のようだ。
オッサン達を緑の少女が先導している。
「杖は魔法を唱えるのに必須なのだ。杖を持っていない魔人はいないのだ」
「わかっていると思うが、アイテムボックスを使っちゃいけないのだ。気をつけるのだ。」
「持っている魔法を聞かれたら『ウインド』か『ホーリー』と答えるのだ。どちらもゴミ魔法だからそれ以上追求されないのだ」
ドヤ顔で説明する緑の少女。少々うざい。
「うざい。それ以上喋ると食事抜き」
「姫、ごめんなさいなのだ。気をつけるのだ」
紫鉄血もうざいと感じたらしい。緑の少女はいい感じに飼いならされてきている。
一行は一つの大きな建物の前に来ていた。建物の入り口には剣と盾の絵が書かれた看板がかけられている。
「ここが冒険者ギルドなのだ。ギルドの仕組みは技国と一緒のはずなのだ」
緑の少女がそう告げると、紫鉄血は一度頷き、その入り口をくぐる。皆はそれに続いた。
◇◇◇
冒険者ギルドは酒場と兼用になっていた。『迷宮都市』と違い、ほぼ酒場だ。申し訳程度にギルドの受付カウンターがある。依頼がまとまったボードのようなものはなく、酒場の壁や柱にばらばらに貼り付けられているようだ。
紫鉄血はカウンターに進み出る。
「新規の冒険者登録を5人お願いしたいわ」
受付の中年親父にそう伝えた。
「この用紙に必要事項を書いてくれ。字は書けるか?」
「ありがとう。筆記は大丈夫よ」
やり取りをした後、紫鉄血はスラスラとこちらの世界のミミズがのたうち回ったような文字を書く。万能言語スキルが万能すぎる。と、そこへ酒を飲んでいた男が絡んできた。
「お。新人か。結構可愛い娘もいるじゃねえか」
「あ。どーも。お世話になります。こんな歳ですが新人なので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
「おお…なんだわきまえてるじゃねえか」
「はい。うちは女性陣がとても怖くて、嫁と離婚させられたり、老婆と結婚させられたりしています」
「ぶ!…そ、そうか…大変だな。頑張れよ」
「はい。ありがとうございます。」
オッサンが社会人のコミュニケーション能力で絡んだ冒険者を追い払っていた。断る理由が誇張のない事実なのが若干悲しい。
「これが冒険者ギルドタグだ。大事にしろよ」
カウンターの受付親父はそう言うと、小さなプレートの付いた5つのネックレスを紫鉄血に渡す。
「皆、渡すわよ」
紫鉄血の回りに集まる一同。順番にタグを渡す紫鉄血。
紫鉄血のタグには”プリンセス・セイ”と書かれていた。
「セイちん…」
オッサンが憐れみの表情を浮かべる。
「うるさいわね。良いでしょ別に」
紫鉄血の顔は真っ赤だ。
赤髪処女のタグには”ハングリー・スパイダー”と書かれていた。
「前半は納得した」
オッサンが頷きつつコメントを残す。
「後半もすぐわかるわよ」
紫鉄血が何故か胸を張って答える。
金髪少年のタグには”クレイジー・コミック”と書かれていた。
「これは言うことはない」
皆が納得した。金髪少年も納得だ。
茶色いきのこのタグには”マッシュルーム・カレー”と書かれていた。
「これも言うことはない」
異世界組は揃って頷く。
「ちょっと。マッシュルームって何ですか?何で納得しているんですか?」
茶色いきのこがツッコミを入れる。頭の形だ。頭の形。
オッサンのタグには” †血天使混沌闘牛王†”と書かれていた。
「は? ちょ…セイちん…」
オッサンは紫鉄血を見つめて悲しそうな顔をする。
「ぷっ…ちゃんと。ちゃんと理由があるから……ぷ、くくっ…」
紫鉄血は笑いを堪えている。
紫鉄血を見つめる渋い顔をするオッサン。
「これからもよろしく頼むな。ブラッディエンジェルカオスバッファローキング」
金髪少年はオッサンの肩を何度も叩きながら、笑顔でそう言った。




