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ぎゅうスキ! TWIST  作者: 神戸 ビーフマン
牛、世界を知る
26/29

ぎゅうスキ!(24) 伝説の始まり

3章第4話投稿しました。2016/11/17

 「あれは何だ?」


 一人の村人が空を見つめて呟いた。強い日差しのためか、彼は手で陽の光を遮りながらその何かを判別しようとしている。徐々にその物体との距離が近づいてきたのか、それが何か判別できるサイズになった。彼は恐怖に駆られ叫ぶ。


 「蜘蛛だー! 上位蜘蛛種のモンスターが空から降ってきたー!!」


 「なんだなんだ」と家から出てくる他の村人たち。混乱は村全体に広がった。



 数え切れないほどの蜘蛛が重力加速に従い降ってくる。

 それらは地面まで数メートルというところで、何故か急に速度が落ちて地面にゆっくりと軟着陸した。


 手に武器を持った村人が地面に落ちた蜘蛛を取り囲む。

 どの蜘蛛も身体に大きな穴が空いており、既に生命活動をしていないことが見てわかった。


 「何だこりゃ? どうなっている?」


 どの蜘蛛も息の根が止まっていることから安心したのか、若干警戒心を和らげた村人は顔を見合わせる。と、そこへ一人の男が現れた。ギルドのカウンターで受付をしていた親父だ。巨大な剣を背負っている。受付をしていたときとは表情が異なり、鋭い目つきをしている。


 「どけどけ」


 男は人混みをかき分け、蜘蛛型モンスターを調べ始める。


 「どれもこれも一撃か……そもそも空からどうやって降ってきたんだ?」


 男は独り言を言いながらも慎重に確認している。


 「……エンジェルフォール」


 人混みの中から言葉が聞こえた。


 言葉を発したのは紫がかった銀髪の少女、そう我らが紫鉄血だ。皆が注目する中、前に出る。そばに控える赤髪処女。


 「エンジェルフォール。それは万物を衝撃で弾き飛ばし屍の山を空から降らせる必殺技……地面に落ちる際に天使の力により包み込まれるようにゆっくりと降りることから名付けられた……」

 「「「「エ、エンジェルフォール!!」」」」


 紫鉄血の説明を聞き、皆が驚きとともに必殺技の名前を口ずさむ。


 「私達のリーダー” †血天使混沌闘牛王(ブラッディエンジェルカオスバッファローキング)†”の技の一つよ……」

 「「「「ブラッディエンジェルカオスバッファローキング……」」」」

 


 「しかし、なんだこりゃ、どの蜘蛛もほぼ一撃で仕留められているじゃねえか」


 ギルドの受付の親父が疑問の声を発すると、皆は一斉に紫鉄血の方を向く。答えを聞きたいのだろう。


 紫鉄血は目をつぶり、ひと呼吸おく。皆は目を離せない状態でゴクリとツバを飲み込んでいる。


 そして紫鉄血はゆっくりと言葉を発する。


 「……バッファローキングホーン」

 「「「バッファローキングホーン!?」」」


 紫鉄血の一言に皆が驚きの声をあげる。


 「バッファローキングホーン。猛牛の突進に例えられるその攻撃は、あらゆる生命を一撃の元にしとめる必殺の奥義。連続して繰り出される様は、まるでサイクロンの中に飛び込む哀れな生贄を想像することから、サイクロンミキシングと呼ばれているわ」


 皆が注目する中、紫鉄血がゆっくりとした口調で説明を続ける。


 「私達のリーダー” †血天使混沌闘牛王(ブラッディエンジェルカオスバッファローキング)†”の技の一つよ……」

 「「「「ブラッディエンジェルカオスバッファローキング……」」」」



 そんなやり取りが村では繰り広げられていた。




 * * *


 パタパタパタ…


 ヘリコプター独特の飛行音が空に響く。操縦席には金髪少年、副操縦席には赤髪処女が乗っている。後部の広い空間には、オッサン等が座って話し合っていた。


 「セイちんの作戦は上手く行ったね。ポイントと換金はどうだった?」


 オッサンが紫鉄血に笑顔で話しかける。


 「お金は前金だけね。ポイントは全部あなたに付けといたわ。3800ポイントよ。

  ネットで吊るした蜘蛛を上空で捨てて、下で赤井が『究極の盾』で受け止めていただけなのに歓喜の声をあげるから若干調子に乗ってしまったくらいよ」


 調子に乗りすぎだろ。

 村での紫鉄血の行動を知らないオッサンは、良かった良かったと笑顔だ。


 「魔法恵与台が……魔法恵与台が……」


 緑の少女はまだ心が戻ってきてない様子。


 「今度は『迷いの森』を攻略するわよ」


 紫鉄血がそう言うと、緑の少女が反応する。


 「普通に。今度は普通に攻略するのだ。ダンジョン壊すとかありえないのだ」

 「いや、壊したの2個目だし……攻略した数より多いな……」


 緑の少女はオッサンの言葉に絶句した後、両手を組んで懺悔の言葉を呟いていた。



 * * *


 パタパタパタ…


 2,3時間後、もう10日目も陽が落ちようとしていた頃、広大な森に着いた。


 「迷いの森は恐ろしい森なのだ。一度入ると進むことも戻ることも難しくなるのだ。森の中には上位の植物モンスターと昆虫や爬虫類系のモンスターも跋扈しているのだ。わかっていると思うが、火事起こしたりしてダンジョン壊すのはやめてほしいのだ。お願いなのだ、姫」


 緑の少女は本気で紫鉄血に懇願している。目尻には涙が浮かんでいる。


 「そんな人を悪魔みたいに言わなくても良いじゃない……」


 紫鉄血はそう答えるが、皆は目を反らした。


 「ぐ……だいたい、このまま上空からスロットマシンかボスモンスターを探せばクリアできるし、高く売れそうなモンスター見つけたら鉄の杭でも落とせば倒せるでしょうが」

 「「「おお」」」


 これは酷い。フィールド型ダンジョン全部飛んでいくつもりか?

 まさか、一度も自分たちの力でダンジョンをクリアしない気じゃないだろうな……



◇◇◇


 「あれじゃないか?」


 夕日が広大な森を赤く染める。金髪少年の指差す方向に20mほどの巨大な木があった。


 「エルダートレントなのだ!」


 緑の少女は声を荒らげる。


 「あれはやばいのだ。かなりやばいのだ」


 緑の少女は混乱している。


 「鬼神、LLサイズの鉄の杭を上空から3つ投下」

 「うああ。駄目なのだ。魔法恵与台に当たるのだ」

 「大丈夫よ。あんなに大きな的だから外さないでしょ。多分」

 「最後の一言で、怪しさ満載になったのだ!」


 紫鉄血と緑の少女はコントを繰り広げていた。


 金髪少年は操縦を赤髪処女に代わってもらい、鉄の杭をどんどん投下していく。


 3本の杭は全部、巨大な木に命中した。


 巨大な木は衝撃に悶える。

 ヘリを敵と認識したのか、視界を覆うかのような数の葉を飛ばしてくる。


 「来たぞ」

 「おっけー。『究極の盾』」


 金髪少年の合図で赤髪処女がヘリを取り囲むように透明なバリアを張る。透明と言っても完全ではないようだ。僅かにバリアの端が見極められなくはない。


 鋭利な葉っぱは見えない盾に阻まれ、速度を失い落下していった。


 

 ふと見ると、巨大な木は悶えながら、杭を必死に抜こうとしている。


 「何か予想以上に苦しんでるんだけど」


 オッサンは疑問を声に出す。


 「杭の中にグリホサートイソプロピルアミン塩の原液を仕込んであるの。”EPSPS”の合成を阻害して植物体の地上部、地下部を枯殺するわ。動物には無害だから安心よ」

 「毒マスター……」


 オッサンは説明してくれた紫鉄血を毒マスター呼ばわりしている。間違ってはいないな。きのこと少女も怯えながら頷いている。


 「後で携帯用のグリホサートイソプロピルアミン塩の噴霧装置を渡すからアイテムボックスに入れておいてね。さっきも言ったけど植物が対象よ。」

 「らじゃー」


 サイベーレに続いてグリホサートイソプロピルアミン塩も使っていくようだ。



◇◇◇


 巨大な木はしなだれて、地面に倒れた。衝撃で地面が揺れる。


 「長かったわね。もう少し即効性のある毒に変えようかしら」


 紫鉄血はそんなことを呟いていた。



 ヘリを巨大な木との死闘があった広場の一角に下ろす。


 「大丈夫そうなところを切断して持って帰りましょう」

 「わかった」


 紫鉄血と金髪少年は、巨大な木の回収について相談していた。



 「あったのだー! 今度は無事なのだ」


 緑の少女はスロットマシンを見つけるとダッシュで駆け寄る。そしてそのままレバーを引いた。


 「あ。姫より先に回すとは……」


 きのこが何か小声で呟いている。


 スロットの絵柄が止まる。そこには『キュア』と表示されていた。


 「やったのだー!」

 「「「「おおー」」」」


 まさかの回復魔法ゲットだ。少女は喜び飛び跳ねている。

 きのこが悔しそうな顔をしながら、スロットに駆け寄りレバーを引く。姫より先に回すのか?


 スロットの絵柄が止まる。そこには『トンジル』と表示されていた。


 絶望を顔に浮かべ崩れ落ちるきのこ。その背には哀愁が漂う。



 紫鉄血は赤髪処女と金髪少年の方を向く。

 それを合図と受け取った二人は順番にレバーを引いてスロットを回す。


 ふたりとも『ウインド』だった。

 紫鉄血は腕を組んで偽乳をその上に乗せて二人を睨んでいる。

 皆が気まずそうにしている。二人で窓の開け閉めでもしてくれ。



 「いくわ」


 紫鉄血は前に進み出てレバーを引いた。

 絵柄が止まる。そこには『ゾディアック』と表示されていた。

 ファンファーレが鳴り響く。

 

 「よっしゃー。レアゲットー」


 淑女にあるまじき台詞を発する紫鉄血。ガッツポーズだ。

 拍手をする一同。紫鉄血は皆のところに戻るとハイタッチで迎えられる。



 場の空気が落ち着いたところで、オッサンがスロットを回す。

 再びファンファーレが鳴り響く。


 「まじか!」


 オッサンは驚きのあまり声に出す。

 スロットの画面には『ルーの鏡』と表されていた。


 オッサンはしばらく考え、何故か頷いた。そして、アイテムボックスから杖を出す。

 紫鉄血に向かってスキルを発動する。


 『ルーの鏡』


 ボンっという音と共に紫鉄血は煙に包まれる。


 やがて煙が晴れると、姿が見えるようになった。



 そこには乳の大きさが元に戻った紫鉄血の姿があった。

 悲しいほどに絶壁だ。



 「な…、ななな。なにするのよー!」


 怒りの形相の紫鉄血。懐から杖を取り出すと、オッサンに向ける。


 『ゾディアック』


 ボンっという音と共に紫鉄血の前方が煙に包まれる。


 なんと、大きな牛が現れた。


 牛は勢いをつけてオッサンを跳ね飛ばす。


 「ぐはあっ!」


 弾き飛ばされたオッサンは、バウンドしながら地面を転がる。


 魔法によって出てきた牛はそのまま走り去っていった。



 オッサンが深刻なダメージで朦朧としている中、紫鉄血は『チチデル』『チチデル』『チチデル』と叫んでいた。



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