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抗争学園  作者: 三太華雄
一章
34/40

父と子


「「はぁ⁉︎」」


 僕の一声に藤沢さんだけでなくB組一同が先程と同様に一斉に声を出して驚愕する。しかしただ一人、横田君だけはこれを、望んでいたかのように僕の答えに小さく笑ってみせた。


「ほら、僕達って今人員が不足してるでしょ?空きもたくさんあるし藤澤さんが入ってくれたら心強いかなぁと思って。」

「で、でもこいつはどう言う理由があろうが組長を狙ったんだぜ?そんな奴を仲間に引き入れるなんてこっちのメンツが……」

「それはあくまで極道としての話でしょ?堅気の僕としては理由があるならあまり気にしないよ。こう言う決断をできることも踏まえて僕の武器だからね。それに実際に同じ事をして紅蓮会の幹部の組長までのし上がった人もいるからね」


 そう言われると皆んなも黙り込む、今必要なのは何より人員だ。それをわかっているからこそ皆んなも反論ができない、そして今目の前にいるのはそののし上がった人の子供だ。


「ふ、ふざけるな‼︎、そんな人数合わせのためだけ組を裏切れるか!僕をなめるな!」

「それだけじゃないよ、僕は君に興味があるんだ。」

「きょ、興味⁉︎」


 少しに言い回しがおかしかったかな?僕の言葉に藤沢さんが変な声をあげた。


「G組がどんな組なのかは争っている僕らが一番よく知っている。そして知っているからこそ、そんな組に対しても忠義を貫き通せる君の事を知りたい、単純にそう思ったんだ。」

「……そ、その言葉は嬉しいが、やはりそれでも断る!僕は父さんとは違う!例え同じ状況に陥ろうとも同じ選択はしない‼︎」


 少し心が揺らいだように思えたが、それでも藤澤さんは頑なに拒んだ、どうやら藤澤さんは父親の事をあまりよく思ってないみたいだ。


「で?断った後君はどうするつもりなの?」

「え?」


 断固として頷こうとしない藤澤さんの姿勢に対し、不意に横田君が問いかける。


「自分の意地だけのために誘いを断って一体なんの意味があるというんだい?」

「そ、それは……」

「君のお父さんは君の言う恥を捨てて生き残り今の地位までのし上がった、だけど君は意地を張って断ったところで君の組も自分にもメリットはない。君の決意には全く意味がないんだよ」

「っ……」


――なかなかはっきり言うなぁ


 横田君にキツイ言葉で決意を論破されると藤澤さんは唇を噛みしめ俯向く。

 

「僕はねぇ、一度だけ君のお父さんと会ったことがあるよ?いつだと思う?」

「……知らないよ、そんなこと。」

「藤澤組長はねぇ、組長に就任直前にうちに一人で訪れたんだよ……ケジメを付けにね」

「え?」

「わかるかい?鉄砲玉として捨てられたのにもかかわらず、君の親父さんはわざわざ組を抜けるために指を詰めに来たんだよ。十年越しにね。」


 横田君の話にうつむいていた顔を上げる。


「なんで今更?と、みんな思ったけど君の親父さんは僕たちの前で言ったんだ。『鉄砲玉に使われるような若衆の自分なんかが指詰めたところで価値なんかない。ならば出世して名前に価値が出たら改めて落とし前をつけに来ようと組に寝返る時にそう決めていた』ってね。」

「……」

「君は言ったね?自分は父親とは違うって、でも話を聞いた今、もう一度聞きたい、君は今でも父親とは違う考えを持っているのかい?」


 横田君の言葉に藤澤さんが目を閉じ考え込む。しばらく沈黙が続いた後、藤澤さんは目を開けるとそのまま僕の方を見た。


「なあ、なら僕からも四辻に一つ聞いていい?」

「何?」

「僕は君達の様に腕っ節もそんなに強くないし、G組を統率することもできなかった……そんな僕に何を求めるの?」

「求めている事は一つだよ、君がG組にみせたその忠義を、今度は僕達にもみせて欲しい。今度はしっかりとっそれに答えて見せるから。」


 僕が答えると藤澤さんは、再び目を閉じると、「僕も鬼の子か」とポツリと呟き小さく微笑んだ。そして眼を開けた時、その眼から迷いは消えていた。


「……昔、父さんに一度聞いてみたことがあったんだ、どうして今の組に入ったのか?って、そしたら『前にいた組を捨て汚名を被っても守りたいと思える人に出会った』って言っていた。当時の僕には分からなかったけど今ならわかる気がする。」


 その言葉を聞くと先程まで敵意むき出しだった若田部君が何も言わず藤澤さんの拘束を解く、それに対し皆もにも言わないことが全員の答えだと悟ると藤澤さんは正座を崩さないまま僕に向かって綺麗な姿勢でゆっくりと頭を下げた。


「紅蓮会幹部、藤澤組組長長女、藤澤渚。これよりこの身全てをあなたに捧げます。」

「ようこそ、B組へ」



――


「全くうちの組長は、なかなかぶっ飛んだことしてくれるなぁ」

「ああ、俺達じゃしたくてもできねえ選択だったぜ。」

「まあ、それはともかく、ようやくこれですべて揃ったな。」

「ええ、人数も増えF組の存在もない今、これで奴らも抗争を避けられないはずよ」

「組長、号令を」

「う、うん」


 僕が立ち上がると皆も一斉に立ち上がり綺麗に一列に並び僕の声を待った。


「明日、G組に抗争を仕掛ける!みんな、G組を徹底的に叩きのめすぞぉー!」


 まだ慣れない震えた号令ながらも、全員が僕の言葉と共に大きい怒声で応えてくれた。


――この戦い絶対勝ち抜こう。


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